第38話 たまってる?

 普段の彼女は、髪をひっつめにし、黒ぶちの眼鏡をかけている、それにスリムのジーンズに布製のシューズ。色気のかけらもないこともあって、亮の周りの男子は女性としては見ていないようだ。


 でも、亮は知っている、髪を下ろしたとき、眼鏡を外した時のうるんだ眼、小さいけれどきっちりと凹凸のある白い肌、どうして気が付かないのだろうとは、いつも思っていた。

 指がそこに触れる。

「欲求不満なんだ、いじって、いかしてほしいなあ」

 

 肩に顔を押し付けて声を殺している奈々が歯を立てた。痛ってぇ、と声をあげそうになったとたんに奈々が膝から崩れ落ちた。

「うわっ」

 引っ張られて椅子事亮は奈々の上に転がりそうになってしまった。

 まさかそんなことになったら大けがだ。机に手をついて亮は必死に体を確保した。


「ふう、ごっめんね、気持ちよかった」

「俺は全然気持ちよくなかったけど」


「あー怒ってる、舐めたあげよか、それともここで入れる」

「シャワーのあるところで、生で出したい」

「生かあ、今日は無理だな」

「いいよいつでも」

「そう、期待してて」


「あ、胸触らしてよ」

「いま?」

「だめ?」

「いいけど、小さいよ」

 

「住谷君、うますぎる。いったいどこで修業したの」

「内緒です」

「なんで、教えてよ」


「奈々さんの喪失物語教えてくれたら話してもいいですけど」

「私の? そんなの面白いかなあ」

「俺の話聞きたがってるくせに」

「あ、そっか。そうだよね」


「あのね、おやじにやられた」

「え? ほんとうの」

「うん、正午の時ねてたらのしかかられて」

「パンツ脱がされて、いきなりいれられて、もう滅茶苦茶痛かった」

 亮はなんて言っていいかわからず黙ってしまった。


「って、噓。たった?」

「嘘って、からかってる?」

「はいこれプレゼント」

 奈々は文庫版の本をポンと投げてよこした。題名は『近親相姦』って、まさか図書室に置くつもりじゃないよね、いやこの人はやりかねないと亮はマジで思った。


「住谷君って、本質的に優しいんだね、それが入れ食いの理由か」

「入れ食いって、信じられない言葉使うなあ、奈々さんは

「だって、ほら、次のが来てるよ」


 カウンターに井上祥子が来ていた。

 二年生の女子だ。彼女が自分に気があるのはわかっていた。しかしよく見てるなあ。

「ほら早く言ってやんなのさがしてるよ、彼女」

「でも私の方が先にいれてくれなきゃやだな」

「何を言っているんだか」

「ね。住谷君」

 振り向いたとたんにキスをされた。見えちゃうじゃないですか、外から。


「あ、住谷さん、よかった今日もいて、見当たらないから心配しちゃった」

「いつもいるよ、家にクーラーないから」

「私も一緒に勉強していいですか」


 Tシャツに、ジーンズをぶった切った短パン。高校は私服だけれど、さすがに授業の日はもう少しましな格好だ。

 祥子は、いつも友人の川崎倫子と一緒なのだが、今日は一人だ。めずらしい。

「倫子は、今日彼とやるんだって」

「え?」


 川崎は同級生と付き合っている、相手は亮も知っているが、取柄は背の高さだけと言ったら言い過ぎか。

 まあ、じゃお前のとりえはと言われたら困ってしまうのは亮も一緒だ。

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