第23話 もとひとづま

「私の後ろに何か見える?」

 吉村さんは駅であったとたんに尋ねてきた。

 亮に霊感があることを話したら、逢ってくれと頼まれていた。

 こうこに話したら、いいよ、人助けでしょっとあっさり許可してくれた。


 近鉄の南大阪線、山が近くなるあたり、うちの学区ぎりぎりの街。駅から少し行くと田んぼや畑が一気に多くなる。そんなところに彼女の家はあった。

「ううん、何も見えない」

「そう、そうだよね」


 とはいったものの、何となく収まりきらない雰囲気がある。

「ねえ、何かあるの、力になれるんなら話聞くよ」

「そうだよね、聞いてもらおうかな」


 彼女の家は駅から歩いて二十分ぐらいのところだった。はっきり言って畑の真ん中、この前の墓場つああーの跡でここを帰ったのか、そう思うとなかなか彼女は肝が太いということになる。


「まさか、ちゃんと迎えに来てもらったよ」

 ちょっと安心した。

「でも冬になるとほぼ真っ暗だけどね、少し遅くなると。自転車で吹っ飛ばしている」


 彼女の家は、兼業農家らしい。父親は府庁に努めているとか。

「あのね、先生たちは知っているんだけど、住谷君だけに話す。内緒にしてくれる?」

 と言われても何の話かは分からないが、とりあえずうんと言った。


「私、結婚してたの」

「え、結婚てあの結婚」

 彼女については色っぽいとかいろいろ評判はある、でも結婚していたとは。

「一年だけだけれど、中学出てすぐ結婚して」

 おかしくはない。京都時代の同級生や先輩にも十六で結婚した人はいた。


「中二の時、まえのだんなとその、やって、妊娠して。で十六になったらすぐ結婚。そしたら流産して、それであっちの家から追い出されて、人生やり直そうと思って高校に入学したんだ。だから住谷君とかより二個上なの」

 あ、っと亮には閃いたものがあった。


「ついているって、その子供の」

「うん、そうなんだ、やっぱり気になって」

「だいじょうぶだよ、なんかみんないろんなこと思うけど、俺今まで恨みで人についているのってみたことない。心配してって人はいるけど」


「そうなんだ、ちょっと安心した」

 実家に入るらしいが吉村さんは離れに一人で暮らしているらしい。

 母屋には兄の夫婦が親と暮らしているので、基本立ち寄らないらしい。

 生活自体は慰謝料がもらえたということで困ってはいないと笑った。


 さすがにきれいな部屋だ。

「まさか俺がくるからって慌てて片付けた?」

「どき、気がついた?」

「パンティー脱ぎすててあったり」

 吉村さんがびっくりした顔をした。


「住谷君そんなこと言うんだ」

「え、ふつう言わない?」

「いわないよ、おやじみたい」

「そうかなあ」

 吉村さんはちょっと考え込んだ。


「住谷君、経験者?」

「隠しても仕方ないから、言っちゃうけど小学生の時から」

「同級生?」

「だけじゃないです、教師も人妻も」

「今付き合っている人いるの」

「一応います」


「その人とはやってるの」

「ええ」

「そっか、じゃあだめか」

「吉村さんと?」


「うん、時たま寂しくて」

「俺にすごく都合のいい条件ならいいですよ」

「どんな?」

「体だけ、お互いにそれ以上求めない」


「ああ、なんだ」

「もっとえげつないのとかかって思った、一回いくらとか」

「あ、それもいいかな。って冗談だから。吉村さんすごいこと言うね」

「誰にも秘密なら、逢ってくれる?」

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