第29話 明日そして将来

「こうこ、鏡見た?」

「見た、もう最悪、人前で脱げないじゃない」

「風呂で脱いだでしょ」

「そういう人前じゃなくて」

「男の前って?」

「そうそう」

 俺も男なんだけど、俺の前はいいのか。


「亮だって一緒だよ」

「いいよ、俺こうこの前でしか脱がないもの」

「ほんとぉ、うれしいなあ」

「なんだよ、その気のない返事」

「だあって、この度せっかく二人一緒なのに一回もしてくれない」

「仕方ないでしょ、ユースだったんだから」

「外でもいっぱいできそうなところがあったのに、琵琶湖の湖岸とか」

 言われればそうだ、焦ってやらなくてもこうこは逃げない、そんなことを思っている。


「来て」

 ベッドに横たわったこうこは精一杯色っぽくいう。

 亮も思い切りかっこを付けてベッドに入るとこうこにキスをした。

 中三日のSEX、やってない時間はたったそれだけなのに、いつもと違う状況が、二人の体に火をつけていた。


「初日にであったS学園の事務の人、覚えてる?」

「うん、珍しいよね女性ロードに乗ってるなんて」

「そっちだけ、顔とか身体とか覚えてない?」

「うん、まったく、え、なんかあったのあの人の身体」

 こうこはちょっと黙り込んでしまった。


「なんだよ、気になるなあ」

「あの人多分、違う、絶対に亮と寝る」

「意味が分からないんだけど、もしかして雅美ちゃんの件で?」

「わかんない」

「ま、いいさそん時はそん時だって」

「なんかうれしそうだなぁ、やっぱり腹立つけど」


「これから先、入れてもいいけど、出しちゃだめ」

「こうこの中に? それはやだな」


「ちがうよ、もう亮がほかの女とやるのはあきらめる、好きなだけ入れればいい。でも生はだめ。相手の中に出すなんてもってのほか。私以外と生で触れちゃだめ、出しちゃだめ」

「わかった、全部こうこの中に出す」

「約束だからね、破ったら許さないから」


「じゃ、まずもう一回」

 どころじゃなくて二回搾り取られることになったのだが、それでも亮はうれしかった。

 明日帰りがあるのに、そういった亮に、だめならもう一日さぼればいい、こうこはそれがどうしたといったふうに答えた。


 逢坂山を越えて京都の街に。鴨川で一休み、遠回りは承知だけれど、哲学の小道をとおり南禅寺、丸山公園、清水寺。

 こうこは初めて、いやもしかしたら遠足できたかな、覚えてないだそうだ。

 亮にとっては庭のようなものだ。

 東寺の横を超え、桂川を超える。あとは国道一七一号から一七〇号に、家は目と鼻の先だった。


「楽しかったね。亮ともこれでおしまい」

 玄関でこうこはそう言って、手を差しだした。

「え、おしまいって、冗談だよね」

「うん冗談だよ、明日からのこと考えるとちょっといじめてみたかっただけ」

「頼むよまったく。明日のことって」

「私の勘だけど、また面倒なことになりそう、私は部活も卒業になるし、ちょっと真面目に勉強するから。亮を追いかけられるように頑張る」

「俺もそろそろ頑張る、多分ぎりぎりだから」


 頑張ってね、私たちの未来のために。

 実は亮はもう針路を決めてあった。金のかからない、将来も確約された、そんな道を選んだのだ。

 こうこにもそれは話してあった。こうこは自分も一緒に行ける道を探すと言っていた、まだ話してはくれないが、そのためには勉強しなければということらしい。

「だから、区切りで琵琶湖一周がしたかったの」

 亮は家の前ということも忘れて、こうこを抱きしめた。

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