おんな好き 大阪編 いよいよ高校生になる

ひぐらし なく

第1話 隣の女の子


 年が変わると同時にいろいろな話が押し寄せてきた。

 中学が分離する話だけでなく、国道一七一号線があらたに拡げられることもあってアパートが立ち退きになることになった。


 亮はこれを機会に今の中学のそばに引っ越そうと母親に提案したら、あっさり却下された。

「母さん、高校の先生やることになった、大阪の私立高校なんだけど」

「え、母さん先生の」

「理科の免許あるよ、さーちゃんできたから働かなかったけど」


 二か月ほど前、街で偶然に大学の先輩とであった。懐かしさもあって飲みにいったら、私学の理事長兼校長になったと聞かされた。その人は父さんの同級生だったけど、海外に行ってたとのことで父さんのことも知らなかったという。


「大阪のアパート、もう見つけてあるから」

「アパートってその人のその……。つまり」

「ばーか、いったい何考えてるの、その人って女性だよ」

「なんだ、おどかすなよ、まったく」


 その人は、親のあとをついで理事と校長になったらしい。ちょうど欠員ができたことと自分の右腕が欲しかったという。それで母さんを自分の学校に誘ったらしい。母さんとしても、いつまでも保険の外交をするつもりはなかったこともあって、二つ返事で引き受けた。


 新しい家は大阪と奈良の間に位置する生駒山のふもとにあった。五階建ての公団住宅のようなアパートだ。それほど広くはないけれど、母親と二人で済むには十分な広さだった。


 中学までは歩いて十分ほど、今までの巨大校とは異なり、学年五クラスのごく普通の学校だった。

 ここでもおとなしく目立たないように、そう思ってはいたが、三年になってからの転校生と会って、あっという間にそこそこ知られる人間になってしまった。


 しかも担任が母親の職場の話を漏らしたので、一部の女子からは、ことあるごとに声をかけられるはめになってしまった。

 母親が務めることになった高校は、割と有名らしく、亮のクラスでも数名の志望者がいたのだ。


 そのなかのひとり、加藤恵美、どこかで見覚えがあった。当たり前だった。

 亮の住むアパートは同じつくりの棟が二つずつ並んでいる。

 隣の棟の同じ五階向かって左の部屋、そこが彼女の部屋だ。


 亮が越してくる前はどうだったのかは知らないけれど、彼女はカーテンをきっちり閉めない癖がある。亮の部屋も彼女の部屋も角部屋だ右隣に部屋はない。つまりカーテンから覗く光景は、亮が独占できるということだった。


 目が合うといろいろ面倒なので、じっくりと眺めたことはないけれど、同じ年ぐらいの女性がいることはわかっていた。

 今日は母親も遅いということで、亮は自分の部屋の電気を消して隣の部屋を眺めることにした。


 加藤恵美は特に可愛いというわけでもスタイルがいいわけでもない、どこにでもいる普通の女の子だ。

 それでも、隣にいると思うとやっぱり気になってしまう。


 友達の(意外なことに友人はすぐにできた)誘いを断り、亮は彼女の帰りを待った。恵美も用事がなかったのか、すぐに帰ってきた。カバンを置くと白いレースのカーテンを引いた。


 でも今日もやっぱり、きちんとは閉まっていない。

 セーラー服の上を脱ぐとスリップが見えた。

 世の中では、このころからシュミーズのことをスリップというようになった。スカートも脱ぐと。スリップも脱ぐ。


 薄いピンクのブラと白の無地のショーツ。こっちも世間の呼び方が変わった。

 さすがにそれは脱がなかった。トレーナーの上下を着る。やっぱり同級生の着替えはドキドキする。


 着替えが済むと彼女は部屋を出て行ってしまった。居間でテレビでも見るのだろう。

 そうなると見張っているのも馬鹿みたいなので、亮も街に出ることにした。


 近鉄の駅前には商店街があり本屋やプラモ屋などの亮のいきたい店があった。規模は大きくないが、そこそこ物も人出もある。

 プラモ屋で友人と出会い、田宮の新作のMMシリーズの話なんかをしてしまい。気が付くと日は大阪湾の方に沈んで行きかけている。


 慌てて友人と別れ、肉屋でコロッケを買った亮は家に急いだ。

 恵美の部屋は、厚手のカーテンが引かれ、明かりがついている。なぜか隙間というか締まり切っていない。亮の方からは中がはっきり見える


 部屋の中には彼女はいないみたいだ。少々がっかりしたが、明かりがついているということは、すぐ戻ってくるということだと気が付いた。


 案の定、五分も立たずに、彼女はバスタオルを巻いた姿で戻ってきた。ちょっと恥ずかしそうに見えるのは気のせいだろう、自分の部屋だ恥ずかしがる必要なんかない。


 バスタオルを外すと、恵美は髪の毛を、がしがしと拭き始めた。フルヌードだった。


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