第37話 少年少女の小冒険 前編
いつも通りなら、ベルバスター家の人が俺の屋敷に来てソフィアはそれにひょっこりとついてきて俺の屋敷で一緒に遊ぶ。
しかし、今日は――
「――それで、どうだって?」
ソフィアが部屋に入ってくると俺は早速聞いた。
「長引くみたいです――」
ソフィアは溜息を吐く、ソフィアが持ってきた本も全部読み切ってしまったようで飽きているようだ。
「......――ただ、良い機会かもしれません」
ソフィアが何かを思いついたようで
「......ガルス君、屋敷の外に出てみたくはないですか?」
「......?」
俺には前世の記憶がある――つまり精神年齢は大人だ、だから子供の俺が大人の知恵で色々と策を練れば自由の身を手に入れる機会は作れただろう、そんな俺が現状に甘んじていたのは簡単で動機がなかったから。
この世界についてはもう大体把握できている、ここはかつてのような世界ではなく人の死が近い世界、弱い奴は死ぬ。
だから俺はこの居心地の悪い屋敷で日々特訓を重ねていたしソフィアにも魔法の訓練を手伝ってもらっていた、外に出て野垂れ死にせず生きていけるように。
「出たくはないですか?監視もいない、私と二人で」
「それは......」
だが、やはり監視が常にいるというのはストレスだし、出たいか、と言われてしまえば......出てみたい。
俺は前のように不出来な子だからと恥さらしを避けるために監禁されている訳ではない、外にも出られない訳ではないのだ、だが俺にはいつも誰かがついてきていた。
理由は察している、あの竜を小さな俺が殺したからだ。あいつらはそんな俺の力を今も恐れているんだろう――ただそれは過大評価だ、あの竜を倒せたのは俺の前に犠牲になっていった人達の足掻きのおかげ。
まぁとにかく、そんな俺はアリオスト家から浮いていてまた恐れられている。
「なら出ましょうよ」
「......え?」
「さぁ急ぎましょう、来て?」
俺の腕を掴むと部屋を出る――、そこからは人に見つからぬように風のように歩いていく。
「大体の監視の場所は検討がついていますからね」
ソフィアに有無も言わさずに俺はアリオスト家の屋敷から勝手に出る事になった。
■
「やっぱまずくない?」
「大丈夫ですよ、ここら辺の魔物は前々からリサーチ済み、私でも倒せる魔物です」
リサーチ済みって、いつかはやるつもりだったのか?
「それに何かあれば私が守ってあげますよ」
「......そりゃありがたいけど、恰好はつかないなぁ」
とはいえ俺よりもソフィアの方が強いから仕方ない、遠距離も近距離も彼女に勝てた試しはない。
「ただどうして外に?ソフィアだって怒られるだろ?」
「......何時も言っていたでしょう?外でゆっくりしたいって」
何回か軽い愚痴で零したような気がする、まさか覚えていてくれたのか......
「近くに湖があるらしいです、とても静かで綺麗で......せっかくだから見せてあげたいなと」
ソフィアは先へと進んでいくのを俺はついていった。
「げ、魔物ッ」
時には魔物とも出会ったりもした、今回はスライム系の魔物だった。
「下がっててください、これくらい余裕です」
その時は大体ソフィアが対処する、彼女は戦い慣れしていた。俺も協力して戦ったりもしたが......
「やはり、近接戦にしたほうが良いのでは?ルーバンさんも言ってましたよね?」
ルーバンはアリオスト家の魔導士、一応俺の師匠に当たる人物で竜やその力のプロフェッショナルだ。
「はぁ、遠距離の方が良いんだけどな、才能ってのは望んだとおりには叶わない」
俺は遠距魔法に向いていない、身体から離れていく魔法を制御できずに離散してしまう事が多々あった。
ただ近接で戦う事への恐怖が消えずにどうにもならずにいる。
そんなこんなで――
「早く、早く、せっかく外に出たのだから日が暮れる前に沢山遊びましょう」
「はぁ......はぁ......そう急ぐなって......」
ソフィアは俺を急かしてくる、そんなソフィアの後をどうにかついていき、木々の開けていくと――
「――おぉ......!」
小さな湖と花畑、確かに規模こそ小さいが花々がとても綺麗で暖かな気持ちとなる。
「へぇ......屋敷の近くにこんな綺麗な場所があったなんて」
「綺麗でしょう?」
ソフィアは自慢げにこちらを見る。
「......どうしてここを知っているのかは秘密です――」
「メルメタだろ?」
「......」
メルメタ、ベルバスター家に仕えている魔導士であり、俺にもよくわからない女だ、人の運命が見えるとかでベルバスター家に囲われている。
あまり会ったことはないが――
『お前に平穏は訪れない、お前の未来は嵐だ、たとえわずかな平穏あれど、それは嵐の前兆である、お前に平穏は訪れない、それがお前の未来であり運命だ』
彼女にそんな意味深な事を言われたから印象に残っている。
「やっぱり」
「まぁ意見を聞いたのは事実ですが......決めたのは私ですよ、出来るだけ近場ですぐ戻れて、人目のない場所」
ソフィアは湖畔まで走っていく。
「わぁ綺麗、メルメタさんはやっぱり物知りです――」
きゃっきゃっと騒ぐソフィア、今は微笑ましい子供のソフィアも何れは魔導士の一員になるのだろう。
俺も同じだが......俺は魔導士についてグチグチと文句を垂れていたらルーバンに言われた事を思い出した。
魔導士は人類を牽引して繁栄をもたらすという責務がある――
だが、未知を目指すが故に理解されない境地にまで行ってしまう魔導士が多い。
しかしただ平穏を守り、人々の未来を守る為に活動する魔導士も確かにいる、と――
『要は
「......そうだな」
漠然と、ソフィアが遊ぶ姿を見ていてこういう平穏を守るのも悪くはないのかも?とか思ったり。
「ガルス君も来てッ」
ソフィアの声で意識が戻り、ふと声の方を見る。
「あぁ今い――ぶッ!?」
「......?」
なんとソフィアは服を脱いでいた、脱いでいたと言っても簡素なワンピースは着ていたものの普段はあまり素肌を見せないから新鮮、というか新鮮すぎて動揺してしまった。
「――少しは躊躇しろよッ」
「何を?」
ソフィアは頭を傾げるだけ。
「はぁ......良いよ」
俺も言っても意味ないと思ってそれ以上は言わなかった。
それからしばらく、リラックスした時間を過ごし、そろそろ戻ろうかと話をしていたときだった。
「......ん?」
近くの森からが飛び立っていき、木々をなぎ倒す音がした。
俺は何かが近づいてるのかと思ったがいち早くそれに気づいたのはソフィアだった。
「――ガルス君ッ!!」
「え――ッ!?」
森から木々をなぎ倒しながら現れたのは――
「ブラックワイバーンッ!!」
黄色い瞳、黒い鱗にトカゲの顔、ボロボロながらも大きい翼に長い尻尾――A級相当の魔物のはず。
「な、なんでこんな所にッ!?」
ブラックワイバーンは竜種の近縁種、他のワイバーン種に比べても特に気性が荒く戦闘能力も高い、多くの魔導士を殺してきた強力な魔物、ここら辺にはいるはずのない魔物だった。
「――」
俺は動けなかった、だってこんなの見た事なかったから。
「――はッ」
だが、即座に意識を取り戻し、ソフィアの方を見る――
「――あ、ぁ......」
ソフィアは腰を抜かしてしまったのか動けないようだ。
『ギャォォォォ』
「クッ――(なんて雄叫びだッ!)」
奴は翼で飛ぼうとするが上手く飛べずにバランスを崩しながら走っていく。
まずい――
「逃げろッ!ソフィア!」
『ファイアボール』で注意を逸らせる案もどうせ当たらないと己で否定する。
「あッ!」
ソフィアに近づいていく。
「クソッ――」
考える暇なんてないッ、ソフィアに何かあったら俺は――
走って――
「ッ――」
「きゃッ!?」
ソフィアの腕を掴んでそのまま思いきり倒れこんだ――
刹那――
バキンッ
大地を抉る音が響き渡った。
寸前の所で避けたが安心するのは早い、すぐ起き上がって――
「ッ――逃げるぞッ!来いッ!」
「わ――」
返事も待たずソフィアの手を引いて走った――
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