第6話 決着


 生まれた時から私は私だった――


 他の者とは違う私は『特別』で皆が私を恐れた。

 どうしてみんな怖がるのか不思議だった。


 ある日、同族同士の殺し合いが起きた。

 始まりは些細な事だ、仲間が仲間殺しをしたそれだけの理由。

 その仲間殺しは殺された、殺したのに恐怖までは殺しきれなかったようだ。


 私は彼らを真似した、最初は敵対者、次は友、家族......私は誰よりも強かった。

 誰よりも頭が良かった。

 これが『特別』なのだと思った。

 なぜ他の者が私を恐れていたのかわかった......私の力を恐れたのだ。



「死ねッ」



 竜の気を感じたこの人間に私は負ける、負けて、死が近づいて初めてわかる死への恐怖......そうか私は『特別』だったから......だから死なんてものを身近に感じずに闘争だけを求めて生きてこられたのか――



 嗚呼......



 だけど



 ――まだ死にたくない。



 ■



「――嘘ッ!?」


 頭を破壊して終わりだと確信していたがこいつ――


「顎で腕を抑えやがっただと!?」


 いや、不味いッ――


「離せッ!」


 嫌な予感は的中した、奴の顎は俺の腕ごと粉砕する気だ、思いきり蹴とばして距離を取る――


「危ないなッ!」


 幸い顎によるかみ砕きを避けられたが判断が遅ければそのまま腕は喰われていただろう。


「......」


 大王カマキリはさっきまでの殺意と緊張感の無さから一変して、警戒の行動を取っている。


「なんだ?」


 そして徐々に俺から距離を離していく、ジリジリと――


「(こいつ......俺を恐れてるのか?)」


 わからない、ただ明らかに奴の行動が、思考が変わった、それだけは確かだった。


「まぁ良い......」


 冷や冷やする戦闘にも慣れて来た。


「次で終わらせる」


 それに相手が逃げ腰だというのならなお好都合、近づいていくとバックステップで距離を取って来た、俺にとってはそういう奴の方が――


「戦いやすいんだよッ!」


 逃がさん、逃げる奴なんざ怖くないのでね。

 奴は近づく俺に反撃してくるが、攻めの攻撃とは違う守りだ。


「砕けろッ『竜腕フレイムバースト』」


 自己強化による炎属性の拳、虫ならば炎と相場は決まっているだろう?


 鎌での防御などその鎌ごと破壊すれば良いだけ。


 俺の腕は強化魔法で強化されているにも関わらず、奴の鎌は俺の腕を傷つけていく。


「――つッ、だがこれで一つッ!」


 奴の鎌を一つ破壊。


 今度は鎌を振り下ろしてくる――


「ッ」


 それを寸でのとこで回避し――

「これで最後だ!」

 ――奴の最後の強靭な鎌を全力の一撃で破壊する。


「......」


 気が付けば両手から血がこぼれていた。


「大丈夫だ問題ない、もう奴の鎌は使い物にはならない」


 次は恐らく顎による噛みつきを行ってくるだろう、それがチャンスだそこで奴を殺す。


「どう動くか......」


 瞬間――またもやバックステップをした。


「また同じ――ッ!」


 するとまるでバウンドしたかのように突っ込んできた。


「早いッ」


 思わず避けようとしたが横を通り過ぎていく――


「――しまった!そっちの方角は!」


 油断した!

 奴は俺を無視してレイの方へと飛んでいく。


「(油断したッ何やってる、何やってんだッ俺は!)逃げろッレイ!」


 しかしレイはただ俺の戦闘を鑑賞していただけではなくて油断せずに刀を離していなかった......そして彼女は既に抜刀していた。

 殺す気だ、彼女は己を狙った瞬間にこの大王カマキリを殺す気だったのだろう。


「(レイは人の獲物を横取りは好まない質だ......ただ獲物が自分を狙った場合はその限りではない)」


「――」


 今までにない早業、ボロボロの大王カマキリでは相手にならずそのまま首を撥ねられる。


「......まぁ、良いとこ取られたけど」


 とにかくこれでノルマは達成......


「大丈夫だった!?」


 レイが駆け寄ってくる。


「大丈夫、獲物は横取りされたけどな」

「んふふごめんごめん、獲物横取りしちゃって......」

「......ま、良いけどな。あいつが悪いし、一対一での戦いに泥を塗ったあいつがな」


 ただあの大王カマキリがレイを狙った理由がわからないな......


「......うーん」

「?」

「いや、何でもない」


 考えてる暇もないそろそろ時間もないだろう。


「レイ、お前がいま倒した奴の頭をもってけ」

「良いの?」

「とどめを刺したのはレイだし、俺の分もあるからな」


 こうして、俺たちは最初に『火竜の島』を踏んだ場所へと戻るのだった。



 ■



 予定の時刻になり、みな様々な表情で船に乗り込みノルマの大王カマキリの頭を渡していく。

 その中にはザランもいた、まだ血の乾いていない身体に両手で頭を二つ。

 俺を無視して進んでいったのは予想外だった、てっきり絡んでくるものだと思っていたからだ。


 それぞれが大王カマキリの頭を渡していく中。


「......なんだか大きい個体が多いな?」


 試験官の一人、リンバル=セストのその言葉に魔導士たちはみな無言の抗議をしていたのはよく覚えている。


 どうやら彼らは今回の大王カマキリについて認知していたわけではなかったようだ。


「な、なんだ、そんな顔をして僕を見て......」

「今回の魔物は普通じゃなかったんだよ」


 俺はリンバルに今回の事を説明すると顔を青くして慌ただしくし始めた――




 後にA級昇格試験にて大王カマキリの個体が異常に強化されていたことと特異個体が発生していた事が魔導協会の調査により発覚した。


 そして特異個体討伐の名誉はレイ=グリンドが得ることになっていた、レイは拒否しようとしたものの既に決まっており時すでに遅しだった。

 彼女が特異個体の頭を持ってきた、多くの大王カマキリと戦い魔導士を救ってきた......だから誰も彼女の功績を疑うことはなかった。


 俺も思うところがなかったわけではない。

 俺にだって人並の名誉欲はあるし功績だって全くいらないとは思ってないのだ、とはいえ俺が戦いました言っても誰も信じないだろう。

 それに実際倒した、とどめを刺したのはレイだし。


 そして俺は晴れてA級魔導士になるわけだが......評価はコネで試験を受けて、レイのおこぼれを貰ってA級魔導士になった魔導士ガルス=アリオスト、といったところ。


 つまりこれは俺があれを特異個体だと判別できず彼女に頭を渡したこと、彼女の戦いにあまり参加せずに観察に徹したこと、何よりコネで受けたという事実がもたらした結果だ、俺のミスだ。

 俺だって大王カマキリを倒していたというのにヒドイ話だよ、それに――


「ソフィアに迷惑をかける事になった」


 わざわざ俺に試験を受けさせてくれた......いや俺の意思を完全に無視して無理矢理受けさせやがった訳だけど、正直その事について言いたい事はあるわけだが......これはダメだ。


「後で謝っておかないとな」


 A級魔導士になった後も楽に過ごそうとも思っていたのだがそれでは......ソフィアの名誉が傷ついたままだ。

 だから俺はA級魔導士に相応しい魔導士であると周囲に認めさせようと思う。


 楽に生きるのはそれからでも遅くはないだろう。

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