第2章 マトラ遺跡編
第7話 晴れてA級魔導士になった訳だが
薄暗い屋敷の中を一人歩いていく。
ザラン=ゴルバル、最近A級魔導士に昇格した魔導士だ。
A級に昇格した旨を自らの父に報告に向かっている最中であり、ある客人を招いている最中でもある。
トコトコ
後ろからついて来るのは小さな背丈にキャスケットを被った少女だ、長い刀剣を両手で大事そうに持っている。
「――」
ザランはレイを時折睨み、しかしそれを悟られぬようにと前を向いて歩く。
「しかしザランA級昇格おめでとうだね」
「......」
「なんでお前は呼ばれたんだよって顔、依頼だよ君のお父さん直々に渡す者があるからね」
無視して進む。
「それにしても君のお父さんって怖い人だよね、私も睨まれるだけで身構えちゃう」
「は、そりゃそうだろ!お前如きすぐに殺される」
「んふふかもね」
そして二人は門の前で止まる。
「父上」
ザランは門の前でノックして聞く。
『入れ』
その言葉に応えて、二人は門を開ける。
「......」
ソファに座る一人の男。
ズリージャ=ゴルバル
長い金髪の髪に目つきの悪い顔立ち、全体的に肌の色が青白く不気味な雰囲気を醸し出している、彼の近くには長い大剣がソファにかけられていた。
「父上、A級魔導士に――「――そんな事はどうでもいい」
鋭くザランを睨みつけ、その後はレイを見る。
「レイ、良く来た」
レイに対しては自然体で接する、しかし彼の瞳は鋭く睨んでいなくとも睨んでいると錯覚させる。
「お前とは師と共に一度会っているな」
「はいズリージャ様、その節はありがとうございました」
レイは礼儀正しく礼をする。
「ふむ、でも例のものを」
「はい」
レイはズリージャに密書を渡すと、ズリージャは中身を確認する。
「ほう......よしわかった」
何かを納得したようだ。
「では、話は終わりだな――ザラン」
再度ザランを見る。
「お帰りだ、案内しろ」
二人は沈黙しながら歩いていく。
「......親父とはどういう関係だ」
「ん?」
「あの人はそう馴れ馴れしく話す人じゃない、ましてA級程度の魔導士じゃあな」
ザランは疑問に思っていた事をレイに聞く。
「そんなに深い仲じゃないかな、師匠がズリージャさんと友達ってだけだし、今回は時間の関係で私が来ただけ」
「ふんそうかよ、ま、お前はあの特異個体を倒したんだ、俺と違って、だから好印象なんだろうよ」
その話題を出されるとレイは少し暗くなる、彼女にとって後ろめたいことだからだ。
「......あれは私じゃない、とどめを刺しただけだよ」
「はぁ?」
「そう、ガルスっていう――」
レイから説明をするがザランはそれを全く信じない、レイは意味がないなと思って途中で話を終わらせた。
「そういや、お前の他にも一人有名人がいた」
A級昇格試験のノルマは一匹だけだが、当然それ以上倒して持ってきた者もいた、ザランは二匹、レイは特異個体一匹持って行った。
だが、10匹を背中に抱えて持ってきたとんでもない魔導士が一人いた。
名をメルゲイト=ラーパーン、過去の魔導士としての活動を鑑みてA級昇格試験に参加していた魔導士では恐らく最強――と評価されている魔導士だ。
■
エオール帝国、大陸内でも1位2位を争う大国だ。
その首都であるオリア、その端の場所で俺は部屋を借りている。
「私は気にしていませんでしたがね、わざわざありがとうございます」
電話で話している相手はソフィア、俺からかけ今回の試験の結果を謝った。
ちなみこれは俺の電話ではない、俺の借りているアパートの共用電話を使わしてもらっている。
「しかしガルス君......良かったのですか?本来は得られた名誉を手放してしまって」
「仕方ないだろ」
A級魔導士に晴れて昇格したわけだが、結果は試験前より俺の評価は悪くなった。
レイと一緒にいた俺はレイからのおこぼれを貰ったと思われている。
「気づいた時には話は大きくなってたし、誰も俺を信じる状況じゃなかった」
「......そうですか」
とにかく俺がやるべきことは決めている、A級魔導士として実力があることを示す。
そのためには難易度の高い依頼などを受ける必要があるだろう、正直言って面倒くさいし嫌だし逃げ出したいところだが、俺のしくじりでソフィアに迷惑をかけたくはない。
「とりあえずは一度実家に戻ってA級魔導士になったことを報告しに行こうと思う」
アリオスト家、魔導士社会においてその名は有名という訳ではない、とはいえ中堅の魔導士を何人も排出してきた訳だしそれなりの家ではあろう。
俺はそこの生まれではあるが散々な目にあって今では家との関係は最悪だ......ただこういう報告を疎かにすると後々面倒くさいことになるので昇格などの報告は欠かさずするようにしている。
「そうですか......ガルス君、今度はゆっくりと会いましょう」
「そうだな、ヒマが出来たらまた会おう」
電話を切った。
■
次の日、俺は駅へと向かった。
「ふぅ、間に合った......結構ギリギリだったな」
俺の実家は少し遠い為に列車の使用が不可欠だ。
「はぁ~もう疲れてるわ、やっぱ帰りたくねぇ......」
これからだというのに、窓を見ながら思わず愚痴を零す。
「ですよね気持ちはわかりますよ、仕事に行く途中から既にお疲れモード......もうどうしたらいいのですかね」
「だよな、今回は仕事じゃないけど心理的負担がね......って誰――」
隣から声が聞こえて声する方へと向くと――
「......いやなんでいるのさ」
華奢な背丈に薄い紫セミロングヘア―、紫の瞳、濃い赤色のコート......ソフィア=ベルバスターが何故か俺の隣に座っていた。
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