第8話 ソフィアと列車
なぜソフィアがいるのか......もう列車は進んでいる。
「昨日言いましたよね、時間がある時にまた会おうって」
普通ここに来るとは思わないだろ。
「良いじゃないですか二人旅とでも思えば」
「旅って程のものじゃないけどな、実家に戻るだけだし」
大体ソフィアもヒマじゃないだろうに、ベルバスター家......アリオスト家とは比較にもならない正真正銘の名家、そしてそのご令嬢が彼女ソフィア=ベルバスターだ。
「ただこういう風に二人でゆったりするのは久しぶりかも」
俺とソフィアの付き合いは長い、10年ほど前から続く仲だ。
「ですね、魔導協会の魔導士になってからはお互い会ってゆっくりする機会がありませんでしたから」
お互い......というかソフィアは忙しい身で魔導士としての仕事もあればベルバスター家の内部の事もある、だというのに俺の事も時折気にかけてくれていた。
「私、窓側が良いのですが」
「先着順だぞ、諦めなさい」
俺が拒否すると彼女は俺に顔を近づける。
「私と貴方の仲でしょう?」
「う......」
「ガルス君」
おのれ卑怯な、彼女の顔立ちは整っているしそれを自覚している、だからこういう事をしてくる何時まで経ってもこれは慣れない――が、それは今までの話だ。
「お前の我が儘がいつまでも通ると思わない事だッ......な」
「ほう......言う様になりましたね、やはりA級魔導士ともなると変わるのでしょうか?」
「変わるんだよ」
「私の力でそのA級の昇格試験に受けられたというのに?」
「......」
それを言われると何も返せない。
「貴方はA級魔導士ではなく恩知らずになられたのです?」
「なんで窓側を譲らなかっただけでそこまで言われるんだよ......傷つくわぁ」
「ふふ、冗談ですよ、窓側に行きたいなんて子供ではないのですから」
正直別にソフィアが窓側を好むのは前から知ってたから良いんだけどな。
「......意地悪したのですね、ガルス君」
それからも他愛もない話を続けた。
ここまでリラックスしたのは久しぶりだったと思う、魔導士として活動していた中で俺には友達という者は少なかった、別に作らなかったわけではない。
ただ何かと向上心のある奴が下位ランクには多くてそういう奴らから見て俺みたいな奴は魔導士を舐めていると思われていた、まぁ実際手は抜いていたしあながち間違いではないが......俺は決して魔導士を舐めてなんかいない。
「ふふふ――」
「ははは――」
落ち着く、俺はこういう時間の方が好きなんだ緩やかに穏やかな時間――
だというのにそういう時に蘇る――
『お前に平穏は訪れない、お前の未来は嵐だ、たとえわずかな平穏あれど、それは嵐の前兆である、お前に平穏は訪れない、それがお前の未来であり運命だ』
「――っ」
どうして今その言葉を思い出すのだろうか、ある魔導士が俺に告げたその言葉。
「どうしましたか?」
「い、いや何でもない」
こんな嫌な事を思い出す必要はない。
「しかし......俺の家についていってどうする気だ?」
「あぁそのことですか、依頼をこなして時間を潰しますから大丈夫です」
「?」
彼女は俺に事情を説明してくれた、どうやら今回俺と同行しているのは依頼の為で場所が偶然にも俺の実家の近くだったからいま一緒に乗っているのだという。
「なんだよてっきり――」
「俺が心配で来てくれたんじゃなかったのかよ――ですか?」
「......は?違うが?」
「あら違いましたか?」
「ヒマすぎて俺に構ってほしくて来たのかと思った」
それから列車に着くまでの間この会話は続いた。
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