第9話 帰郷――アリオスト家


 アリオスト家のある場所は少し田舎だ、周りも静かな緑豊かな場所で近くには大きな建物も少ない。

 まぁ過去のしがらみを抜きにすれば好きな場所だ。


 列車から一緒に降りるとソフィアは仕事の為に俺とは別の道に向かう。

 彼女とは帰りは別々になるだろうと話していた。


「それでは......頑張ってくださいね」

「そっちこそ、S級になってヘマとかしないようにな」

「私は失敗しませんので大丈夫です」


 それから俺は一人でアリオストの屋敷へと向かった。



 ■



 アリオスト家、ここ100年で生まれた新しい魔導士の家系だ。


 魔導士には出目問わずになれる現代において魔導士の家系とはなんだ、それは代々高名な魔導士を輩出してきていること。

 魔導協会の設立に関わった一族とか人類の繁栄に貢献してきた一族とか歴史ある家系でも言われたりはするが......まぁ現役で排出してないとな。


 アリオスト家はその点で微妙、中堅の魔導士が数人いるなんて特別な家でなくても普通にあり得る話だ。


「ただアリオスト家の成り立ちにはベルバスター家が関与してたって噂もある、そう考えると特別ではあるか......」


 だからベルバスター家の方とは色々と縁があるのだろう、ソフィアともな。


 色々と考え事をしながらも見慣れた......家に着く。


 豪華とはいえないまでもそれなりの規模の屋敷を持っていて庭もある。


「何か?」


 チャイムを鳴らすとメイドが来た、恐らくは新人、俺は基本家に帰って来ないからこの人は俺を客人とでも思っているのだろう。


「ガルス=アリオスト、て言えばわかるか?」

「――」


 メイドはすぐに俺を屋敷にあげてくれた。


 変わらない、外の空気とは打って変わって何処か陰鬱とさせる屋敷の中の雰囲気。


 メイドに案内されて当主......つまり俺の親父が座っている間まで来た。


「久しぶりです父上」

「......1年ぶりか」


 親父、ゾル=アリオストはかつてと変わらず黒いスーツを着て俺と似た茶黒い色の髪をしていた。


「......A級魔導士になったようだな」

「えぇ」

「まぁ......茶でもどうだ」

「......では」


 部屋に陽射しが差してメイドの入れた茶を飲む、酷く嫌で静かな空気感。


「......母上は留守で?」

「そうだな」

「メナはお変わりなく?」

「あぁ、変わらない......ノーゼルもな」


 俺には兄妹がいる兄のノーゼルと妹のメナだ、別に仲が良いわけではない、特に兄とは。

 一応兄も魔導協会のA級魔導士なのだが、正直よくわからない。


「......」


 沈黙が続く。


「みなお元気なようで良かった......では、そろそろ」


 居心地が悪い。


「......」

「お前を......あの儀式に参加させた事は謝ろう、だがアレは仕方のない事だったんだわかるだろう?」

「――ッ」


 子供の頃、屋敷の外はおろか中ですら自由に行き来することは許されなかった。

 どうしてかはわからない、多分恥さらしを隠すためだったのだろう。


 当時、屋敷の地下では竜を飼っていた、竜と言っても格落ちした魔物だったが、俺......いや俺たちはそいつらの餌にされていた。


 竜の気を間近に浴びる事で竜の力を継承出来るという噂があった......つまりは竜と死闘して獲得する方法、当然それは禁止されている外法で、本来は知性ある竜からか血統により得るべき力。

 しかし魔導士としての大成する為の近道として竜と直接戦うという方法を選ぶ者がいた。


「謝るんだったら......俺にじゃない、死んでいった奴らに謝れよッ......」


 それは自分で選んだわけではないだろう、彼らの親が勝手に選んだんだ。

 子供の方が確立が高いというのもあっただろう。


「何もわざと殺していた訳じゃない、ただ死の淵をさまよった人間の方が可能性が高くそしてより強くなる傾向があった――元より捨て子の様な扱いだった......」


 そいつらはアリオストの落ちこぼれか......もしくは他家の子か......彼らはその竜に喰い殺されて......一人、また一人......牢に入れられて竜に喰われる。

 そして最後に俺の番が来て――



『うわぁぁぁぁッ......』



 そこから先は覚えていない、気が付けばその竜を殺していた――

 そしてその時に俺は明確に転生者であったという強固なる自我を獲得した――


「お前には素質があったのに竜の力を継承出来ていなかった、それでは魔導士として大成できない、アリオスト家の恥さらしとして生きていく事になったんだぞ?」

「そうか俺の為ね、じゃああの竜を殺した後に閉じ込めたのだって俺の為か?」

「――そうだ」


 違うだろう?あんたら俺を......竜を殺した俺を恐れたんだ。


「......やはり恨んでいるのだな、だがアレがあったからこそいまベルバスターの娘と親しくなれているのではないか?」


 ......その儀式を行う以前から数少ない交流のある外部の者がいた、それがソフィア=ベルバスター。

 アリオスト家はベルバスター家と交流することで力を蓄えて来た一族でもあった為に基本はベルバスター家の意向に沿っている、だから俺とソフィアは会えていた。


 ただ当時はそこまで親しくはなく顔見知りに近い関係だった、アリオスト家とベルバスター家で何かを話し合いをしている間の暇つぶしに付き合っていただけの関係。


 しかし後に同年代の友達を欲するようになったソフィアから俺を指名される事になるわけだが......


「......いや」


 確かにあの後に親しくなっていたが......これだけは言える、俺とソフィアの仲にあの儀式の有無は関係ない。


「ソフィアとは......仮に儀式が失敗しても俺と友達になっていたと思いますよ」


 まぁ俺とソフィアを巡り合わせてくれた......その一点で俺はこの家に感謝はしている。


 A級魔導士になった報告を終えた俺はアリオスト家の屋敷を後にするのだった。

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