第10話 マトラ遺跡へ
実家から戻って何日経ったか、俺はソフィアの為にもA級魔導士として頑張るぞと息巻いていたのに仕事がなかった。
理由は単純で俺の悪評により難易度の高い依頼は仲介されない事、次にチームを組まないから数の必要な依頼が来ない事、だからチームはわざわざ俺と組んでくれる人はいません。
だから俺はB級が選ぶような依頼を受けたりして日銭を稼いでいる。
A級魔導士なのにB級魔導士みたいなことをやっている。
だから評価は上がるどころか下がる悪循環。
駄目だ、このままじゃあ――
「ガルス?」
振り向くとベージュ色のキャスケットを被った緑のショートヘアーの少女レイ=グリンドがいた。
「どうしたの?」
「仕事がない、わざわざ俺に依頼してくれる奇特な人がいない」
もう野良で難易度の高い魔物と戦うしかないだろう、野良って事は報酬はないし、危険だ、ただそれでも倒した功績があれば依頼だって増えるだろう。
「流石に危険かなぁ、ガルスってそういうの嫌じゃなかったの?」
「そうだけどな、俺にも事情があるんだよ」
「事情ねぇ......依頼さえあればいいの?」
レイは笑顔になる。
「じゃあ丁度いいかも」
「え?」
「ガルス、実はね――」
■
マトラ遺跡はエオール帝国にある古代遺跡、そこでは最近になり大きな墳墓が発見された、そこには古代魔導帝国の皇族が埋葬されている――とかいないとか。
「まさか、俺を誘ってくれるなんて」
「良いよぉ気にしないで、元々功績を横取りしたお返しはしたいなって思ってしね」
マトラ遺跡の近くには一つ町があるだけで他には人里のあるものはない。
そして交通の便も悪く徒歩以外では馬車でしか移動できないし、魔物だって良く出て来る結構危険な道だ。
そんな訳で俺たちは現在馬車に揺られている訳だ、今乗っているのは魔導士は俺とレイ。
「そういえばそっちはどうなんだ?やっぱり忙しい?」
「そうでもないかな、結局やる事は前と変わってない敵を倒す事だけだし」
彼女は敵と戦う事に躊躇がない、『火竜の島』でもそうだったし、道中出会う魔物に対しても変わらない、出会ったらすぐに切る――何というか判断が早いのだ。
「でも油断してたらやられるよ?」
正論ではあるのだが......このちんちくりんには俺にはない何かがあるのだろうか。
「ま、そうだけどな......今回の依頼にはお前みたいなのが向いてるのかもしれないな......」
俺たちの目的はマトラ遺跡の発掘作業を見守る事。
遺跡の発掘調査を見るだけ、正直内容だけならば何も難しそうには思えないだろうがこの世界において遺跡の埋蔵品は危険物としての側面が大きい。
古代の大豪族が埋葬されている場合、見つかるのは大体は金品や財宝、儀礼品――そしてその儀礼品こそが魔導士たちが動員される理由なのだ。
埋蔵品の中には危険なアイテムがある、例えば国ひとつ壊せるものや精神を瓦解させるもの......それらを悪用する輩は何処にでもいる、普通は監視が万全な場所にあるものだが例外がこういった遺跡の発掘現場などだ。
発掘の隙を突いて盗む輩から守る為に俺たちは派遣されているわけだ。
「今いるのは二人、現場には魔導士は既に来てるんだろ?」
「確かぁ......A級一人にS級二人」
「S級二人?多いな」
S級はただでさえ数が少ないのにそのほとんどは活動をしない置物だ。
きちんと活動してくれるS級はかなり希少な存在、それを二人というのは珍しい。
「そろそろつくよ」
マトラ遺跡の近くにある唯一の人の住む町ジャウラに着いて、先についていた魔導士が宿屋に待機しているらしい。
町と言っても小さな町で家と家の間も広くて宿屋まで歩いて移動するだけでも結構な距離を歩いた。
一階は酒場らしいがどうやら何かあったらしく外から住民が中を何事かと除いている。
「......何があっ――」
中に入ると何人かの男たちが端っこに飛ばされている、そして中央の丸机に男が一人座っている、こいつは――
「よーガルス......来たんだな?」
「......げ」
ザラン=ゴルバルが座っていた。
......そりゃザランもA級魔導士だからいるのがおかしくないが。
「お、おい」
思わずレイに聞いてしまう。
「隠してた訳じゃないよ」
「いや隠してたろ......」
「......んふ」
何が、んふ......だよ!かわい子ぶるんじゃないよ!
「ガルス、知ってんぜお前A級になったのに、らしい事何もしてないそうじゃねぇの」
「俺も好きでそうなってんじゃないけどな」
「へ、そうかい、それで次はレイの力を借りたってわけか」
こいつは何というか子供っぽい......俺が魔導協会の魔導士になってからいつもこんな感じだった、不愉快だったが腐っても同じ協会の魔導士だし喧嘩沙汰は避けるようにしてきた。
まぁこいつは17歳、俺は肉体年齢こそ16歳だが前世の年齢も足せば精神年齢は30とか40くらい?前世での年齢はそこまで覚えてはないが......年上だからな......俺も肉体に精神が引っ張られがちだけど。
「......前から思ってたんだが、どうして俺にいちいち絡むんだよ」
「あ?」
「俺、お前に何かした?」
とはいえ純粋に疑問に思う事ではあった。
まぁただの暇つぶしで俺をからかってるだけの可能性もある。
「......知らねぇよ」
あれ、マジで過去にザランに対して何かしてたのか?......ただこの感じだと問いただしても答えてはくれないか......なんか変な間が生まれたのでレイに話を振る。
「......そういや他のS級魔導士はどこに?」
「あ、そういえばいない、ザラン他の皆は?」
レイはザランに聞く。
「あー......遺跡を見てくるってよ、仕事熱心なことだ」
「どうしよ、マトラ遺跡も結構距離あるし......」
俺とレイはとりあえず、ジャウラの周りを探索することにした。
「あ、そうだ、後――」
レイは再度ザランの方に振り向く。
「その伸びてる人達は君がやったんでしょ、後片付けしておいてね」
「......チッ」
レイはザランに釘を刺した。
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