第28話 山中の戦い


 走る、走る。


 辺りを見渡しながら走っていると――


「ブォォォォッ!」


 戦闘音や魔物が泣き声が聞こえて来たので、その方角へと走る。


「『シャインショット』」


 戦っていたのは青いローブに同じく青く長いツバの三角帽子をした少女だった、後ろには5~6歳ほどの男の子がいる、恐らくあの子供が叫んだのだろう。


「――」


 戦っているのはデビルベアーだった。

 黒く肥大化した肉体に頭部から生えた黒いツノが特徴の熊の魔物、A級相当の強さだ割り込むべきか慎重に判断する、変に割り込むと相手のリズムを崩してしまうかもしれない


「とはいえ......最悪、こっちに気をそらさせるか」


 これは遠距離魔法が苦手でも炎を当てれば気はそれるだろう。


「いまのところは戦えているか」


 遠くで観察する。


「『シャインショット』」


 指先から光弾のような魔法を撃ってデビルベアーにダメージを蓄積していく。

 しかしあっちは子供を庇いながら――


「ブァァァァッァ」

「――まずい」


 大口を開けて魔力を貯めている、少女はそれを避けようとするが子供がいるために避ける事が出来ていない――


「『魔力弾』」


 腕を広げて魔力が玉の形に変わってそれを真っ直ぐに飛ばす。


「これは真っ直ぐと飛ぶ、多少山なりになっても――」


 俺は遠距離攻撃の手段を模索してきた、それは楽する為でもあるがこういった時に使えるようにするためだ。


 バーンッ


 デビルベアーの首元に当たると激しい爆発が巻き起こると同時に土煙が吹きあがる。


「あら、頭狙ってたのに少し外したか......おーいッ大丈夫か!」


 今の内だ、あれは決定打にはならないだろう、精々時間稼ぎ。


 俺は急いで駆け寄る。

 その少女は長い金髪をしていて、俺が来たのを驚いている様子だった。


「怪我はしてないか!?」

「こっちは平気、それよりもこの子が――」


 子供の方は足を怪我していた、これでは逃げるのにも手間取ってしまう。


「ブァァアァァッッ――」

「――ッ」


 デビルベアーは俺に狙いを定めたのか睨みつけて来ると、そのまま突撃してきた。


「早......」


 デビルベアーは長いツメを露出させた手を振りあげ――


「――ッ!」


 振り下ろす。


「ッこんな事で怪我するわけにはいかないなッ」


 それを横に避け――

 デビルベアーがその巨大な手を振り落した瞬間の隙を狙う。

 横から頭部を――


 バキッグチュ


 魔竜のツメは鈍い音と共にデビルベアーの頭に突き刺さっていく、よし、入った――


「ブァァァァッ」

「嘘ッ」


 暴れ狂うデビルベアーは俺を振り払おうとその巨体で暴れまわる――頭に入ったのに迂闊だった、一旦抜いたほうが良いか――


「――ぁ」


 やっば抜けない。


「ッくそ、至近距離なら『ファイア――」


 駄目だ暴れてて狙いが定まらない――


「『シャインビーム』」


 光輝く光線がデビルベアーの頭を貫くと大きな遠吠えと共に倒れていく。


「――抜けた」


 なんだか全くに立てずに終わってしまった......


「助けに来てくれてありがとう、えっと大丈夫?」


 少女が近づいて来る、


「はは......こっちこそ助けてくれてありがとう――えっと名前は?」

「アスティ=オーラムよ」

「俺はガルス=アリオスト」


 アスティに手を引っ張られ立ち上がる。


「ありがとう、お姉ちゃんお兄ちゃん」


 子供の方も足を怪我しているものの大丈夫そうだ。


「どうしてこんな所にいたの、あんた危なかったのよ?」

「ごめんなさい、これを取りに行ってて......」


 男の子がポケットから薬草を取り出す。


「父さんが腰を痛めて仕事が出来なくなって、これは腰に効くって知って......」

「はぁ......それで何かあったらお父さん悲しむわよ?」


 アスティは子供を撫でながらそう言った。


「とりあえずここから離れよう、こいつみたいなのがまた出ないとも限らない」


 こうして3人でこの山を下っていくのだった――

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