第16話 ソフィアVSビフロンス


 ソフィアはアルセムからビフロンスを遠ざける為に移動していた。


「どこまで逃げる気だ......くく、もしや仲間の安全の為か?優しいんだな」


 ある程度の所でソフィアは止まり、ビフロンスに話をかける。


「ま、それもそうですがね......リングは広い方がいいでしょう?」

「くく、そうだな」


 自分に隙を突いた魔導士、あの時はガルスのおかげで上手く避けたから良かったもののあんな間近まで接近されて気が付けなかった事は致命的だ。


「私に不意を突こうとした魔法は使わないのですか?」

「あんな魔法そうそう乱用は出来ない、安心しな......クソ、あのガキがいなけりゃあな」

「ふふふ、ガルス君は強いので」

「どうだか......そんな強そうには見えんかったがね」


 不機嫌そうに煙草を吸うビフロンスはソフィアを見て笑みを浮かべた。


「まぁしかし、ベルバスターの娘が相手とはな......お前を倒せば俺の名はさらに上がる」


 煙草を捨てる。


「くくく、良く見てろ......」


 ビフロンスの両腕が黒く変色していく。


「......壊死ですか?」

「......俺の魔法だよ馬鹿、ふん、ふざけていられるのも今の内だ」

「ふざけてはいませんが」


 強化魔法の類だろうと分析する。


「『闇裂きやみさき』」


 身体が真っ黒になった瞬間に目のまえに現れる――


「――早い」


 黒い腕による引っ掻き――


「――ッ」


 それを片手で掴む、そしてそのまま腕を両手で掴んで――


「『暗赤炎あんせきえん』」

「――ぎぁぁぁぁぁッ!」


 燃え盛る赤黒い......暗赤色の炎がソフィアの手からビフロンスへと包み込む、どうにか振り払おうとしてもソフィアの握力が異常に強く離れない。


「クソッ離せッ離しやがれッ!」

「そんなに離れたいのですか、ではどうぞ――」

「――がッ!?」


 ソフィアに投げ飛ばされると――


「プレゼント、ですッ!」


 赤黒い魔力の玉がビフロンスに飛んでいく――


「『黒き爆発ブラックバースト』」


 ピカ――


 魔力玉がビフロンスに当たると発光し赤黒い爆発が巻き起こる。

 炎に身を焦がしていたビフロンスはソフィアの魔法により今度は爆発されて吹き飛ばされていく。

 周囲に土煙が舞っているがそれでもソフィアはビフロンスのいるはずの場所を見ている。


「――ビフロンス......でしたね、どうしたのです?まだ生きているのでしょう?」


 土煙が収まってくると表皮が所々で剥げて黒い肉を露出し黒い血を流しているゾルガントが立っていた。


「はぁはぁクソガキが......勝った気でいるなよ......」

「いませんよ、というか貴方は人間ではありませんね?」

「いいや人間だ......まぁかなり歪んじゃあいるがな」

「でしょうね、その黒い肉も黒い血も真っ当な人間のものとは思えま――」


 気が付けばビフロンスの表皮は完全に回復していた。


「(再生......しかも早い)」


 ソフィアは再度魔力を込める。


「ふぅ......そうさ、俺は当の昔に真っ当な人ではなくなった、年齢も人間以上だ」


 ビフロンスは手の平を地面に広げ――


「来たれ――」


 肉体から魔力が溢れていきそれが手の平に集まって黒い剣が出てくる、大剣ほどとはいかずとも大きめだ。


「お前は知っているか、人知及ばぬ力を――」

「知りませんよ」


 即答である。


 その回答にビフロンスは笑いながら。


「くく、くくくッ......いや良い、所詮は小娘という訳だな、うん」


 魔力玉が飛ばされ――


「――『黒き爆発ブラックバースト』」


 ビフロンスに黒い爆発が巻き起こる。


「『黒き爆発ブラックバースト』『黒き爆発ブラックバースト』『黒き爆発ブラックバースト』――」


 問答無用の連続爆撃――


 黒煙は空すら覆うほどに舞い上がっていく。


「さて、これでどれだけダメージが――」


 待っていた土煙を黒剣で切って払うと黒剣は朽ちている、しかし肝心のビフロンスは平然と立っていた。


「ったく......とんでもない嬢ちゃんじゃねぇかよ......脳筋が」

「さっきまで受けていたダメージは何だったんですか、今のを無傷で済まされると困るのですがね......」

「いいや今のは大ダメージだった」

「はい?今立っているのは?」

「簡単さ、すぐに回復したんだよ――剣でな」


 意味が解らない、ソフィアは純粋にそう思った。


「それに俺は周囲の魔力で回復できる......当然攻撃魔法とか例外はあるけどな」

「さっきの剣は武器というよりは回復アイテムだったということですか......」

「理解が早い、そうだアレは俺が溜め込んでた魔力を物質化したに過ぎない、それを回復に割り当てたってわけ」


 魔力での自然回復などたかが知れている、こんな方法は普通では不可能だ。


「そしてまた――来たれ」


 黒剣を呼び込む。


「別に剣でなくともいいんだけどな、これがしっくりくるんだ」

「同じ芸当ですね、種が分かれば問題なし今度は更なる連撃でそれごと粉砕してみます」


 ソフィアは自信満々に宣言するがビフロンスは余裕を崩さない。


「くくく」


 その不気味な笑みにソフィアは警戒心を強める。


「何がおかしいのですか?」

「勝てっこない相手に熱くなるなんて......あれだな、ガキみたいだ、あぁでもお前はガキか」

「――舐めないでほしいですね」

「舐めてんだよ――ガキ」


 自らの魔力を肉体に込めていきながらゼルカントを睨みつける。


「――これ以上の会話は意味ないようですね」


 しかしビフロンスは笑いながらそんなソフィアを見る。


「元々意味ある会話なんかしてないがな、くく、お前にとっては実りある会話があったか?」

「......私は忙しいので、ガルス君とかみんな待っているので――」


 ソフィアの身体の周りに黒い何かが包みこむ、するとソフィアの両腕は黒く変色していた、黒く異形な禍々しき怪物の手、鋭く赤いツメが黒い手には良く目立つ。


「ほう俺と似ているな、お前の方がキモイがね......くく、壊死でもしたか?」

「壊死しているか試して見ます?」

「――それは骨が折れそうだ――『闇に巣くう者どもダークモンスターズ』」


 ゼルカントは地面に腕を叩きつける――


「餌の時間だ」


 シュルルルッ......


 ――黒い腕から沿う様に這い出る黒い何か、それはソフィアに猛スピードで近づいていく。


「肉体に魔物まで飼っているのですか――『赤蝕せきしょく』」


 ソフィアの怪物の手に魔力が零れるそれはただ真っ赤で不気味だ――


「それタッチ」


 真っ赤なそれがただ触れるだけでその魔物たちは真っ赤になりながら瓦解していく。


「――」


 思わず目を見開く、あれはなんだ。


「......魔力による浸食......か?......わからんな、しかし一応あれでもA級相当の強さなんだが......それをこうもあっさりと――」


 ――愚痴を零していた瞬間である。


「――『赤蝕せきしょく』」


 気が付けば目のまえにソフィアが迫っていた。


「――(いつの間にッ!?)しまったッ!」


 隙を突かれ――


「――ッ」


 怪物の手は不気味な赤に染まりながら首に近づいていく――


「殺しはしません、知りたい事があるので――」


 あの手に触れるのはヤバい、直感がそう囁く――


「――俺の詮索は止してくれよッ、トップシークレットさッ――『闇海やみうみ』」

「ッ!」


 ソフィアは危険を察知し攻撃を中断、そのままバックステップする。


「賢明な判断だ」


 黒剣がバラバラに砕けるとビフロンスの周囲を守るように地面が真っ黒に染まる。


「これは底なしの闇、踏み込んだ者を引きずり込む」

「さっきから意地悪な技ばかり」

「これが俺の戦略なのでね」


 少し時間が経つと闇の範囲は徐々に小さくなり消えてなくなった。


「――くくく」


 そして同じように黒剣を出しているビフロンス。


「......」


 ソフィアとビフロンスの戦いは続く――

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