第15話 『虹の瞳』


「『虹の瞳』だぁ!?そんな訳ないだろッ」


 サルザーは叫ぶ。


「いいや、私はアルセム=リンペリオだ『虹の瞳』の指導者だぞ?たかが凡百の魔導士如きに殺されやしない」


 しかしサルザーは認めない。


「あれは滅びた、お前は殺した、マーク島で俺が......俺たちがッ!」

「滅びてないし、殺せてもない、現に貴様たちの前に立っているだろう?」


 俺はソフィアに近づいていく、ザランは警戒していて、レイも戦闘態勢を取っている、研究員も後ろで身体を潜めている。


「こいつらの目的は......俺たちが持ってきた奴だよな」

「でしょう......しかし『虹の瞳』」

「知っているのか?」

「えぇ、『マーク島解放作戦』でマーク島を支配していたのが『虹の瞳』......知っていますか?あれの大本は魔導協会の一部なのです」

「一部?」

「はい――」


 魔導協会には様々なものを研究する機関がある、その中でも最も危険で秘匿されているのが『禁忌局』と言われる機関だ。


「かつて『禁忌局』局長が研究室や研究物と共に雲隠れした事件がありました、そこからは詳しくはわかりませんが......局長に共感しついていった研究者や魔導士が後に各々で新しい組織を作っていったと聞きます」


 その一つが『虹の瞳』という訳か。


「――貴様らがその棺を渡すなら穏便に済ます、だが拒否するなら――」


 アルセムはニヤリと笑う。


「よく考えろ」


 そんなの答えは決まっている、断固拒否。


「サルザー君、アルセムとの戦闘経験はあるのですね?どのような魔法を使うのです?」

「あぁ、奴は死霊魔法の使い手だった」

「となると、更に数の有利を取られてしまいますね」


 死霊魔術師の定番であるスケルトン召喚、シンプルに厄介だ。


「我々はどうしたら良いのでしょうぅ......」


 さらに問題は研究員たちだ、庇いながら戦う事になる。

 彼らは戦えないし棺も放置するわけにはいかない。

 助けを呼ぶにもジャウラ町まで結構あるし、そこから外部に助けを求める手段がない。


「......嵌められたか」


 俺は思わずつぶやいた。

 ここは敵側には絶好の場所だ、周りは山に囲まれていて唯一ある町も頼りにならない。


「誰かが時間を稼ぐ必要がある、棺を渡す訳にはいかないからな」


 恐らく奴らはこの棺の何かを知っているから欲しいのだろう、だから渡すわけにはいかない。


「さぁ話し合いは終わったか?」

「あぁやっぱりお前らには渡せないってなったわ、悪いな?」


 サルザーの言葉を聞いてもアルセムは変わらぬ笑みを浮かべていた。


「いいやわかっていた――ビフロンス」


 灰色髪に黒いスーツの男、ビフロンスは赤い瞳を見開きながら手を開いた。


「くく、言われずとも――準備は終えている」


 瞬間、ソフィアに向かって――


「ソフィア!」


 こいつ、ソフィアを狙って!思わずソフィアを見て――


「構わずに、ガルス君は出来る事を――」


 ソフィアは変わらず笑ってそのままその場を去っていった。

 ソフィアの後を追う



「お前たち早く逃げろッ」


 いつもの俺なら安心する言葉だ、俺は基本、戦いというか痛いのは嫌だし楽がしたいから――だというのに今の俺は安心できず、喜べもしなかった。


「――ッ後は頼んだ!」


 俺は急いで研究員を連れて逃げる、勿論、棺も一緒にだ。


 それにはレイもザランも驚いた様だった。


「――ガルス、良かったの!?」

「棺があると戦闘の邪魔になる、俺たちがいると戦闘の邪魔になる、そうだろレイ、お前ならわかるんじゃないか?」

「......」

「それに――」


 周囲から物音が聞こえる。


「奴らの仲間を倒すのだって俺たちの役目だろ!」


 いまは俺の出来る事をやるまでだ。

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