第14話 帰るまでが遠足


 切る、叩く、壊す。


 ザラン=ゴルバルに剣士としての誇りはない、ただ剣士の家系だったからそれだけだ。


 ゴルバル家という先のない家に生まれ母も早くに亡くなった、しかし己の才を周囲に見せつける事で成り上がっていき周囲から家を建て直す者として称えられる魔導士。


 しかし


『――どうでもいい』


 父ズリージャからの愛を受ける事はない。


「クソッ多いッ『アースクラッシュ』」


 自らの雑念をぶち壊すが如く地面に剣を叩きつける。


「ザランッ大技ぶっ放して何やってんだ!ここ地下だぞ!?」


 ガルスの忠告が耳に入る。


「うるせぇッ黙って戦ってろ!」


 ザランから見てガルスは弱い、A級魔導士としての実力はないと判断している。そもそもガルスが魔導協会でランクを上げてこられたのはベルバスター家の力添えがあったに違いないと思っているのだ。


 実際今の戦いを見ても、成長こそはしているが鈍く甘い――だというのにそんな魔導士なのにどうしていまも生きている?


「――ッ」

「ぁ――ごめんッ!」


 ガルスに気を取られ最後の魔物はレイに横取りされた。


 田舎娘、無名の家の生まれでありながら同じ魔導士からも『天才』と囁かれている剣士、ズリージャがその存在を好ましいとしている少女。


「焦るな、俺は強い――あいつは早いだけだ」


 気休め程度の言葉で自分を慰める、そして焦らせる、レイとは何度か依頼を同行しているから実力は把握していた。強い、だが負けるほどではない、それがかつて下した評価、だが――


「クソ......」


 今も同じ評価を下せるかわからない、それほどにレイの成長が恐ろしかった。


「――こっちは終わったぞ」


 サルザーの声が響き、深呼吸する。


「......ッチ、どいつもこいつも舐めやがってッ......」



 ■



 通路を抜けた先も同じような魔物が湧いて出て来たもの同じように対処して、ついに最奥の棺の場所までたどり着いた。


「おおお、これが......さぁさぁ皆様早く行きましょう」


 最奥の棺の周りは儀礼品や装飾品により彩られていた。


「リリケルさん、気を付けてくださいね」


 ソフィアはリリケルに注意を促した。


「えぇ勿論ですぅ、戦闘ではともかくこういったものの対処は専門家の仕事なので問題なしですぅ」


 リリケルたち研究員は何かの儀式を始めた。


「こういった物には呪いのような罠があるかもしれませんからね、準備が必要なんですよ」


 ソフィアが説明してくれた。


「今回は専門家が同行してくれていますが場所によっては守りながら進むとかそんな余裕もないですし、依頼によっては呪いとか受けない様に気を付けないといけません」


 ソフィアが話したのは未踏の地での依頼のことだ、そういった場所だと研究員を庇いながらは難しい、安全を確保して後にまた来るか、その場で魔導士が作業を開始するか.......とにかく危険な仕事なのだ、その分報酬も栄誉も得られるが。


「魔導士様ぁ終わりましたぁ」


 どうやら終わったようだ。


「早急に持ち帰るべきは棺だと判断しましたぁ、ですのでこれを持ち帰りますぅ」


 棺を丁寧に布に包む。


「簡易的に調べた結果は問題なしという結果でした、一応安全だと思いますがぁ......何かありましたらよろしくお願いしますねぇ」


 棺は開けられていない、これはちゃんとした場所で開けるらしい。


「しかし、何かって縁起でもないな......」


 とはいえ本気だろうな。

 リリケルはおっとりしているとはいえ魔導協会の研究員......元々危険物を扱ってきた人物だしそれはエオール帝国の研究員も同じだろう。


「まだ何か罠があるとも限らないからな、俺が先頭で行く」


 サルザーを先頭にし研究員を中心に出口へと向かう――



 ■



 やっと出口の近くまで来た、棺を交代交代で持っていた所為か結構時間を食った気がする。


「足元には気を付けてくださいね」


 ソフィアは出口付近で立って待っている。


「重そうですねぇ、私も行きましょう」

「俺も手伝うよ」


 棺は結構重かった、俺とリリケルは研究員の持つ棺を補助する為に後ろへと周って手伝う。


 そしてどうにかマトラ遺跡の大広場まで戻って来た頃には空は沈みかけていた。


「(しかしこれじゃA級の仕事とは言えないな......まぁ良いか)」


 元々はA級に見合う魔導士だと認めさせる事だったのだが、上手くいったのだから良いだろう。


 するといつの間にかソフィアが近くに来ていた。


「ガルス君の戦闘を目の前で見られて良かったです、機会があまりないので」

「見て楽しいモノじゃないだろ?」

「そうでもないですよ、私と貴方の戦闘スタイルは結構似ているので参考になります」


 そうだったな、ソフィアは俺と似て近接タイプだ、彼女の場合遠距離も普通に出来るけど。


「なぁに仕事を終わった気になってんの、ガルスもソフィアも」


 サルザーが遠くで頭を掻きながら困り顔を見せる。


「そうだった......リリケルさん、この後はどうするんだっけー?」


 俺は遠くにいるリリケルに聞く。


「えっと、これをジャウラ町まで持って行きましてぇ――」


 ――ソフィアの方角から悪寒がした。


「――しゃがめッッ!ソフィアッ!」

「――ッ!?」


 ――シュン


 咄嗟に魔力を込めた手刀でソフィアの頭上を切った。


 ぐにゃり――と空間が歪む。


「――ほう、感知したのか――」


 瞬間真っ黒い玉が現れる、それはゆらゆらと揺れながらも人の形を成していく。


 気が付けばみんな人纏まりになって戦闘態勢を取っていた。


 祭祀場の周りからぞろぞろと人が現れる。


 そしてリーダー格と思われる者が人を割って近づいて来た、その男は紺色のローブに紺色の髪をして眼鏡をかけていた。


「――棺を持ち出してくれた事を感謝しよう、後の事は我ら『虹の瞳にじのひとみ』が引き継ぐ」


『虹の瞳』自らをそう自称した奴ら。


 暗黒の玉も気が付けば人の形を成し、灰色の髪をオールバックにした男がいる。


「なに簡単な話だ、言う事を聞けば生かす、聞かなければ殺す――至極単純だろう?」


 どうやら俺たちは良いように使われていた様だ――

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