第13話 束の間の休息


 影の魔物たちを倒しながら突き進む。


「ひょーすごいですねぇ、レポートで読んだとはいえ実際に見ると全く違いま――うがッ」


 リリケルはウロチョロしようとするが他の研究員に押さえつけられる。


「ちなみにリリケルさん、ここはどれくらい広いの?」

「あ、えっと、この通路を抜けた先にもう一つエリアがあってその先に例の棺と儀礼品があるとの事ですぅ、なのでそこまで広くはないかとぉ」


 魔物も大したことはなかったし、これならすぐに終わるだろう。

 そしてサルザーが提案する。


「そんなに苦戦はしなかったとはいえ体力の回復が大切だ、この通路では魔物も出ない様だし少し休もう」


 そんな訳で少し休む事になった、俺はソフィアの近くに座らせてもらった。


「ガルス君、戦闘を見ていましたがちゃんと強くなっているではないですか」

「俺だって訓練くらいしてるからな......というかソフィアも戦闘参加して」

「私には研究員の近くで彼らを守るという使命があるので」

「そりゃ......そうだけどさ......」

「えぇそうです」


 言い返せない正論。


「......なぁ、1次調査の時も同じように戦ってたんだよな、多分」

「でしょう、一度目は視察の為に来ただけ......なんてあれらにわかるとは思えませんからね」


 まったくキチンと働いてほしいもんだよ魔導協会。


「しかし......こうも連戦が続くと皆さんの体力が心配ですね、サルザー君なんて特に魔法の燃費悪いので途中で脱落も――」

「いや、俺は配分考えてやってるからね!?前のは一度戻るってわかってたから無茶しただけだから!」

「――おっと、ふふふ......」


 サルザーによる抗議の声、ソフィアは口を手で押さえて微笑む。


「良い人でしょう?」

「良い人なのはわかったが......燃費悪いってホント?」


 耳元で小さく聞く。


「残念ながら、遠距離で広範囲で高火力な攻撃魔法......強力なのですがね」


 攻撃魔法で遠距離と広範囲そして高火力を全て持ち合わせている魔法はレアだ、だからそれが使える魔導士はそれだけで評価される、後は回復魔法を使える魔導士。

 サルザーはそれが出来る魔導士らしい、多分、会った時ヘトヘトだったのはそれを使ったからだろう。


 そんな事をソフィアと話しているとレイがひょっこりと割って入った。


「ね、ガルス」

「――ッッいきなり驚かすなッ(死ぬかと思った)」

「ごめんごめん、ソフィアさんとガルスってどういう関係なの?」

「どういう......関係って?」

「二人の事、あまり詳しくないからさ、家の事情とか関係は少しはわかるんだけど......」


 そうかレイには話して......いやわざわざ他の人にも話してはいないか。


「自分で言うのは少し恥ずかしいけど、まぁ幼な――」

「――許嫁ですよ「――そうだったのッッッ!!??」


 !!!???


「あ、ごめんなさいガルス君、冗談ですよ、ガルス君とは幼馴染です」

「――お、だよな......すぅーはぁー......だよなぁ幼馴染だよ俺たちはさ、はは」


 おのれソフィアめ、俺を殺す気か!


「はぁ心臓に悪い......そういう冗談は勘弁してくれ」


 そりゃそうだ俺とソフィアは仲良くやっているが俺と彼女では釣り合わない、個人としてもそうだし家の格としてもそうだ、アリオスト家はベルバスター家の傘下だ。

 それにベルバスターと言えば魔導士の名家、それに比べればアリオストなんて知っている奴も少ない家でレベルが違う。

 今あるこの状況がどれほどの奇跡か――それは俺が一番に理解しているつもりだ。


「ってなわけで、聞きたかったのはそれだけか、レイ?」

「いやそれもそうだけど、どうして普段は二人で活動してないのかなってそれに一緒には入らなかったの?」

「それは――」


 彼女が魔導協会に入る時、俺も一緒に入ろうと誘われていた、俺は遅かれ早かれ魔導協会には入る事になっていたから当初は一緒に入るつもりだった。

 しかし俺の祖父が亡くなったことで後継者争いが勃発して俺の自由が制限される事となった。


「どうして?」

「知ってると思うがベルバスター家は親分なんだよ、その親分の娘と親しいってだけで事態はさらにややこしくなる、早い話面倒は起こすなってことだ」


 こういった当主争いは珍しくない、親族が賊に襲われて殺されたりするのもこの時期に多くなる。


 そこでソフィアも話に加わった。


「その時、私はどうにか会おうとしましたが父に止められました、いくら傘下と言えど他家の争いに口を挟むと禍根を残すと」

「そうつまりこの間、俺たちは絶縁状態だったわけ」

「いつ終わるかわからない後継者争いを待っている訳にはいきませんでした、なので私たちは別々で魔導協会に入ったのです」

 

 バラバラに魔導協会に入り、俺が入った時にはソフィアは既にA級まで上り詰めていた。


「へぇ......やっぱり名家とかって色々大変なんだねぇ」


 レイは理解したのか理解していないのかわからないがとりあえず説明出来たし良しとしよう。


「色々と話しましたし、レイさんの事も教えて貰って良いです?」


 お、ソフィアが今度はレイに聞くのか。


「良いけど......面白くないよ?」

「構いませんよ、貴方の剣技を見ているとずば抜けているなぁと思っていまして、家は普通だったという事ですが......何か特別な事をしたり受けたりしたことはしたり?」


 まぁこれは大体の奴は気になるだろう、聞きにくい事だし。


「......んーそういうのないかな、直感?で今までやって来たから」

「つまりはセンス?」

「カッコつけるとそうかも、勿論訓練とかしてるけどね」


 あれをセンスでされるのはなぁ、俺はそこまで強さに固執してるわけじゃないが、近くにいたら嫌になる奴もいるだろう。


「そろそろ行こう、次のフロアの先がゴールだすぐに終わらせよう」


 サルザーの号令が響く。


「ありがとうございます、興味深いことが聞けました」

「こちらこそお話を聞いてくれてありがとうございます」


 こうしてマトラ遺跡の調査の続きを再開した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る