楽に生きたい転生者、楽に生きられず近接戦闘
村日星成
序章
第1話 魔導士ガルス=アリオスト
俺、ガルス=アリオスト16歳は実は前世で日本のニートとして過ごした記憶がある、まぁ前世の経験は生かせず、今では魔導士として生計を立てている訳だが。
魔導士というのは何でも屋みたいなもの。
「待ちやがれッ!『ファイアボール』」
今だって森の中で盗賊を追っている真っ最中だ、こんな時は遠距離魔法を使えば早い、だが......
「あー、また外したッ」
火球の玉は奴の右側に大きくそれてそのまま爆発する。
「ッテメェの魔法はノーコンだってわかってんだよ!」
クソ舐めやがって......しかしどうにも遠距離魔法は苦手だ。
師はかつて言った、近接戦闘をメインにした魔法が俺には向いていると――
「っ......」
奴は俺の魔法はどうせ当たらないと思ってそのまま走っていく――
「――逃がすかよ!」
逃がしたら大変だ......仕方ない。
「『竜腕』」
両手を竜の腕の形をした魔力で包む、さらに――
「『竜足』」
同じように足も変化――
こうなれば最早こっちのもの。
「行くぞ――」
全速疾走で相手を追う――
「――なッ!?」
奴は驚いた様子を浮かべて何か魔法を唱えようとしていたが――
「遅い――やぁ!」
バシュッ――と、首根っこを掴んでそのまま地面に叩きつけた。
「......ふぅ」
一仕事完了と休んでいる暇はない、後ろから拍手しながら誰かが近づいて来る。
「久しぶりですね、ガルス君」
この聞き馴染みのある声は――
「ソフィア!」
少々華奢な背丈に薄い紫セミロングヘア―、紫の瞳、濃い赤色のコートはシンプルながらも高価な事がわかる。
「一体どうしてこんなレベルの相手に手間取っていたのです」
ソフィア=ベルバスターは俺にとっては数少ない気心の知れた友人で俺と同じ16歳なのにS級魔導士という凄腕の魔導士なのだ。
「しかも......先ほどの戦いを見ていましたが貴方......初めから近接戦闘に持ち込めばすぐに片付いたはずでは?」
「......まあね」
「それにどうしてB級なのですか、貴方はA級は行けるはずなのに」
くそ、何から何まで知られてる、ソフィアは今まで別の大陸にいたはずなのに。
「お前にゃわからないだろうな、俺の計画が――」
「その言い訳は前にも聞きました」
怒涛の攻め、俺が言い訳を言う前にさらに釘を刺してくる。
「手ェ抜いてた訳じゃありませんよね?」
怖いわー。
「すぅ......」
逃げ――
「逃がさない」
「うぐッ」
今度は俺が首根っこ掴まれる。
「んしょっと」
俺が倒した盗賊と一緒に運ばれていく。
「魔導協会のお歴々の方々に直々にお願いしまして、A級の昇格試験に参加する資格が貴方に与えられました、嬉しいですね」
「そういう事をするのは良くないと思いまーす」
「良いのです」
あー連れていかれる、せっかく楽に稼いできたのに。
「逃げ癖が出ましたね、低ランクを装えば簡単な依頼だけで稼いでいけると考えたのでしょう?」
ソフィアはぶつぶつと文句を言っている、だいたい逃げ癖というと感じが悪いよな、俺は楽がしたいだけ。
魔導士になったのも今世において俺の才がそっちに向いていたというだけだ。それに俺には選択肢がなかったし。
「とりあえず今回の依頼を済ませたらすぐに魔導協会の本部に向かいなさい、話は通しておきました」
「はい......」
こうしてソフィアに言われるがまま、俺は渋々と魔導協会の本部に向かう事にした。
■
魔導協会は魔導士などを管理する組織で世界の繁栄の為に邁進する事を是としている。
魔導協会の本部は一国の宮殿を思わせるほどに大きい。
白と青を基調とした宮殿に前の広場は薄橙色の地面と木々、辺りではゴーレムや魔導士が木々の枝を切ったりしていた。
「前世と同じとは言わないが結構発展してるんだよな」
令和の日本を生きた経験で見れば、この世界はそこまで遅れてるとは思わない、テレビや電話のような物も数こそ少ないが一応はある、まぁ世間で流通しているとは言い難いが。
「おい、ガルス」
俺を呼び声が聞こえて振り向く。
「お前は......」
取り巻きを連れて近づいて来るのは――
「よぉ?」
金髪の髪をした大剣を片手で持ち上げている男ザラン=ゴルバル、B級魔導士で取り巻きと一緒に俺に絡んできた。
「噂は聞いたぞ」
ザランは近いうちにS級まで上り詰めると予想されている魔導士だ、こいつの剣技は
噂?そういえば俺をじろじろ見てくる奴もいたが......何かしたっけ。
「ははは、コネでAランクへの昇級試験を受けるんだろ?」
「は?なんでその事知ってんだよ」
「否定しねぇのか?」
まぁそれについては嘘じゃないから......ただ。
「どうしてその事を知ってんだ、噂ってことは周りにもバレてるんだろ?」
「知らねぇ」
こいつに言っても仕様がないか。
しかしソフィアが周りに言う訳がないし、俺も誰にも言ってないし、内部の誰かが流したのか?
「......それだけか?忙しいだけど」
「いやなに、俺も昇格試験を受けんだよ、だからアイサツをな?」
「挨拶ね」
こいつは性格が悪いが実力はある、悔しいが。
「ははは、ま、良かったじゃねぇの、友達のおかげで試験に参加する資格は得られて」
「......」
「卑怯な手を使ったんだ、ソフィアの面に泥を塗らないようになァ、はははッ!」
そのまま取り巻きと一緒に本部から離れていった。
「......」
楽して生きたい、平穏に幸せに生きたい――
だけど時折それとは違う感情だって出る事はあった――
「舐めやがって......」
俺への嘲笑は我慢できる、だけど俺以外の人が俺の所為で嫌な目に遭うのは嫌だ。
「......あぁやってやるとも――恥はかかせないさ」
俺はA級魔導士になる為の昇格試験を受ける覚悟を真に決めた。
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