第1章 昇格試験編

第2話 コネで受ける昇格試験は肩身が狭い


「うーん、風が心地よい」


 俺は現在、青い空の大海原で豪華客船に乗りながら考え事の真っ最中。

 この船は観光の為ではなく協会の貸し切りであり昇格試験の会場である『火竜の島』まで移動しているのだ。


「はぁ」


 魔導士の昇格試験があるのはB級からだ、B級には全体的に基礎的な事をやった記憶がある。

 そしてA級昇格試験は個人の力は勿論のことチームワークが重視されている。


 まぁただチームを活かすというのも別に強制ではない、要はターゲットの魔物を倒せればよいのだ。

 だからこの昇格試験はぶっちゃけ運ゲーだ、別に個人が弱くとも強い仲間を作れれば楽ができる。


「とはいえな」


 俺を見てくる奴らの視線が痛い......。


「何処かの馬鹿がコネで受けた事をバラした所為だ」


 コネなんて多かれ少なかれ皆やってる癖に、今回の試験だって俺以外にもコネはいるだろうに......


「それに今の状態は結構不味い」


 流石にコネで受けてるとわかってる奴とチームを組みたい奴はいない、ましてそのコネは俺の家の力とかではない訳で......つまり俺とチームを組むメリットはない!


「どうする......せめて試験の内容が温ければ」


 わざわざ島の指定という事は何かしらのサバイバル知識が必要か?ただそこにしか生息しない魔物だからそこなのか?

 色々と思考を巡らせながらそんな事を考えていると大海原の先に藍色の島影が見えて来た。


 ■


『火竜の島』名の通り火竜が住む島で一般人はまず来ない秘境だ。


 試験内容を知らされたのは島に到着してから船内に魔導士が集められ説明を受けた。

 大王カマキリの討伐、なんでも最近大王カマキリが大量発生している為に今回の試験に選ばれたのだという。

 ノルマは一人一匹、制限時間は24時間。

 まぁ次に船が来るのは24時間後だから嫌でもこの島で1日は過ごす羽目になる。


「大王カマキリかぁ......」


 大王カマキリはとにかくデカいカマキリだ、その大きさからのフィジカルの高さは油断ならない恐ろしい魔物。


「一応B級の魔導士でも討伐は出来る強さだが......あいつ個体差激しいからなぁ」


 船から降りていく魔導士たちの表情は様々だった、暗い面々のやつ、普段通りのやつ。


「よぉ」

「あぁ」


 ザラン、こいつも特にお変わりなく俺に絡んできた。


「なんだ?お前まだ仲間作ってなかったのかよ?」

「......」

「ははは、無理せずに船に戻ってお家に帰ればいいだろ、死なねぇようにな!」


 まぁソフィアに恥を晒す事になるがな、と言い残してそのまま取り巻きを連れて土龍の島を進んでいった。


「ふん、いいさ」


 大王カマキリはソロで倒した経験がある、というか俺は基本ソロで活動してるんでね。


 たかだか虫如き、一人で倒してやんよ。



 ■



 昇格試験を受ける為にはA級難度の依頼をいくつか受ける必要がある、つまりB級魔導士はA級の難度の依頼を複数受ける事が必須条件という訳。


 ちなみに俺も数回は受けた事もあったが基本A級を避けて来たから昇格試験を受ける資格はまだなかった、ソフィアがS級魔導士という地位と家の力で無理やり許可させたのだろう。


「......朝12時にここに来て、今は日が沈み始めている」


 大体17時くらいというところだろうか、大王カマキリが大量発生という話だったのにまだ見ていない。

 他の魔導士は見つけたのだろうか?


「夜には動きたくないんだよな」


 大体こんな森の中を夜に一人で動くのは危険だし。


「最低でも一匹は倒さないとだめだから早く終わらせたいのにな」


 一匹倒せば後はそいつの頭でも持って逃げていれば平気だ。


「そう考えると今回の依頼は簡単な部類だな、サバイバルだってまぁ1日くらいならどうにかなる」


 ごそごそ


「ん?」


 既に夕暮れ時で薄暗い森を大きな影が動いているのがわかる。


「――」


 大王カマキリの大きさは1m50㎝が普通の大きさだった。

 だというのにこの影は2mはあった。


「簡単すぎとは思ったけどな......」


 どんどんと近づいて来た、どうやら俺をターゲットにしたようだ。


 夕暮れのオレンジの光を奴を照らした。


 赤いカマキリ特有の目

 2mを超える若干緑っぽい黒い身体に

 鋭く生えている黒い鎌は夕焼け空により不気味に赤く照らされる――



「あぁ畜生」



 楽するのは無理そうだなこりゃ――

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