第33話 名案
ソフィアによる提案によりバカンス中のはずなのに襲撃者を探すことになった俺はどういった人が被害者になっているのかを道行く魔導士などから情報を集めていた。
「......被害者の共通点はB級以上の魔導士であることと、ひと気のない夜に出くわしている......それくらいか?」
俺が聞いている魔導士は見た目は20代、青緑の髪をした男、彼はリンバル=セスト昇格試験で試験管をしていたA級魔導士だ。
「......そんな情報を集めてどうするというんだ」
「あー、あそこにいる方のお願いでしてね?」
長いツバの白い帽子に白いワンピースと白いパラソルをさして浜辺を見たりこちらをちらちらと見たりしている。
「......探偵の真似事でも?」
「そういうこと、襲撃者が今もこの島にいてな被害が大きくなる前にそいつを捕まえようとしてる」
「襲撃者がここにいるのは初耳なんだが、大ごとになっていない理由は察しがつくけど......」
リンバルは溜息を零す。
「......魔導協会も動いているはずだし、個人があれこれ働いてどうにかなる事なのかな?」
だよなぁ......魔導協会としても人材の喪失を避けたいのもあるだろう、何より舐められていると思っているはずだから犯人捜しは躍起になったはずだ。
「だから......諦めてバカンスを楽しんだほうが良い、貴重なバカンスタイムをこんなので浪費するなんて馬鹿げてる」
「――」
なんというか、俺が思ってたことを言われてしまった――だが、それではいけない、もし犯人を放置してしまえば何れ――
「――それが出来ればいいですが、死人が出てしまえばそれこそバカンスを楽しめません」
ソフィアは待ちかねたのかこちらに来た。
「ここでは死人はまだ出ていませんが、本土の方では死者は少なからず出ています」
エオール帝国では既に死者も出ている、ここで死者が出なかったのは偶然だろう。
このまま放置すれば絶対に死者が出てしまう、俺としてはこういった危険な事は避けたいところだが、ソフィアは捕まえたいようだし俺も出来るならバカンス中に死亡者が出る事を望みはしない、だから今動いているのだ。
「知ってるよ、だが、それで頑張るのは我々である必要はない」
「えぇ無理強いはしません、ガルス君と私が勝手にやっているだけですから」
「まぁその心意気は良いけどね、どうやって捕まえる気だい?」
「その為の情報収取でしょう?」
犯人の姿についてはハッキリした情報がない、顔を隠しているのだろう、それに幻術系の魔法も仕様しているのかもしれないな、だから探す当てがないわけだが......
「それが時間の無駄だとね......」
そう、俺だって時間の無駄はしたくはない、バカンスを楽しむ時間を少しでも残したい、だから犯人をさっさと捕まえたいのだ。
「うーん」
一度会えればどうにかなるはず......会う?
「――あ」
......どうしよう、良い案、浮かんでしまった。
「.....どうしたのですガルス君?良い案は浮かんだんだけど、言いたくないなぁ、みたいな顔をして」
「心でも読めるわけ?」
クソ......まぁ仕方ないか。
「......誰かが囮になればいいんだよ」
「囮作戦ですか......考えていませんでした」
「危険な作戦だけどな」
相手は上位の魔導士が一人の時を狙う強者だ、生半可な魔導士では危険なだけ。
「それもかなり運が絡むね、標的にならなければ意味ないわけで」
「......とりあえず目立つというのは?」
「なぜ?」
「少なくとも相手は上位魔導士を標的にしているのは確かだ、ただ誰がどのランクかわかっていないんだと思う、だから片っ端から襲撃してる」
「......まぁ可能性としてはありえるか」
この考察は良い線を行ってるはず。
「だからブルーサピロス島で俺たちは如何に強く上位の魔導士であるかを誇示する」
「ふふ、名案ですね?」
「ふん、だろ?」
「――なら、やることは一つ、ですね?」
ソフィアは満面の笑みでこちらを見てくる。
「......?」
■
観客がこちらを見てわーきゃーと歓声をあげながら見てくる。
「なんでだ......」
堂々と会場に進んでいき、目の前の階段で止まる。
『ここには様々な施設があります、そして今回の作戦の成功に不可欠な武勇の誇示を手に入れる為には――『水上決闘場』が一番良いと思います』
飛び入りOKのここはその魔導士のランクに合った対戦相手と戦えて、勝利すれば相手のランクにあった金額が手に入る。
俺の場合はA級相当の魔導士が相手になるだろう。
観客も多いし、目立つから確かに目的と合致するが......
「こりゃあないでしょッ!?」
なんで俺だけ参加なんだよぉッ!
そんな心の叫びも届かない、淡々と試合の始まりは近づいて来る。
「仕方ない、やるからにはやる、絶対に負けない」
油断はしない――
出場する魔導士を紹介する演出が入る。
『今回の対戦する人を紹介します、まずはA級魔導士ガルス=アリオスト、最近になりA級に昇格したばかりの新規精鋭の魔導士だァ』
歓声がより高まる、緊張こそするが誇らしい気持ちもある、不思議な感覚だ。
階段を上るとリングの周囲を水で囲んでいて、そこからさらに外側で観客が見ている。
『そして何たる運命かッガルス=アリオストと同じ昇格試験を介してA級魔導士となった魔導士メルゲイト=ラーパーンッ!』
――メルゲイトッ!?
俺と同じ昇格試験に参加し、同期のA級魔導士の中で最強と噂されている魔導士――
「まさか、こんなところで......」
同期最強の魔導士を相手にして俺は――勝てるのか?
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