第32話 波乱の予感


 ブルーサピロス島にて


 ひと気のない夜。

 ある魔導士はいま謎の相手と対峙していた。


「貴様――俺を誰だと思っている!?A級魔導士のズーラ『マーク島解放作戦』にも参戦した魔導士だぞッ!?」

「知ってるぜ?」

「なんだと、貴様まさか――」


 ズーラはこれが昨今噂になっている魔導士を目的に襲撃を繰り返している者であろうと推測する。


「――舐めるなァッ!」


 目掛けて攻撃の準備を始めるが――


「――」


 ――ズーラの攻撃は間に合わない。


「遅せぇ――」

「ぐぁッ」


 顔面を殴られ――


「――」


 蹴り飛ばされる――


 そのまま近くの建物まで蹴り飛ばされていった。


「......ふん」


 つまらない、内心そう思う


「A級魔導士もこの程度か」


 失望、そして怒り――


「ここならば多くの魔導士が集まる、そう思い来たが......腑抜けた奴らの集まりだったか」


 ため息交じりにその場を後にするのだった。



 ■



 二日目の朝。


 何だか身体が重い。


「ガルス君、起きてください」


 目を開けると俺の上に座っているソフィア、何をやっているんだ。


「ぅ......おはよう......」

「おはようございます、朝ですよ?」

「もう少し......」

「いいえ、起きるのです――よッ」


 そう言いながら両手を思いきり引っ張られる。


「っ......いま何時......」

「5時半」

「いや早いなッ!?」

「それには理由がありまして......外が騒がしいとは思いません?」

「外?」


 耳を澄ましてみると確かに窓の外から何やら声が聞こえて来る、この感じからして只事ではなさそうだ。


「行ってみましょうよ」

「俺も?」

「ガルス君もです、それともいたいけな少女を一人で行かせるのです?」


 いたいけって......俺より強い癖に。


「......はぁ、まぁ俺も気になるし」


 よし、行こう。



 ■



 騒ぎの元まで行くと、建物には大きなクレーターが出来ていた。


 近くにはガレキを掃除している人がいたので話しを聞いた。


「なんでも手も足も出ずに蹴とばされたらしい、とんでもない怪力の持ち主だろう......君たちは魔導士かい?」

「そうだ」

「なら気を付けたほうが良い、旅行中に怪我を負うなんて溜まったもんじゃないだろ?」


 そこでソフィアも相槌を打ち話しを続ける。


「因みにどのような方が被害に?」

「あぁ確か――」


 被害者の名前はズーラというらしく、今は島内の病院で治療中とのこと。


「ただなぁ犯人は捜しは駄目だろうな」

「どうして?」

「あれ、知らないのか?」


 男は小声で話す。


「この島の王......あぁ王は通称でまぁブルーサピロス島を支配してる人がいるんだよ」


 島の王......


「ビルビ=サーフェイっていう奴だ、そいつはとにかく問題が起きるのを嫌うし出来るだけ内密に穏便に済ませたいって人なんだよ、だから今回の事件も大ごとにすることはないだろうって皆は噂してる」


 なるほど、ビルビは観光地のブランドが傷つくを避けたいのだろう。


「ま、そういう訳だから気を付けて楽しめよ、

「おじさん、勘違いを――もがッ!?」「はい、バッチリ楽しみますので」


 ではでは~、とソフィアは俺の口を手で塞いだままその場を俺と一緒に後にする。


「お前ッ一体どういうつもりなんだ」

「どういう?」

「変な噂が広まったらどうするんだって話だよ!」


 何とぼけてるんだ。


「何もそこまで気にする必要はないのでは......」


 クソ、俺の気持ちを知らずにッ!......ただ旅行中にそれこそこんな事で喧嘩はしたくないし......今は必至に呑み込み、事件の話題に切り替える。


「まぁ良いや、それよりも......魔導士が襲われる事件についてどう思ってる?」

「え、あぁ......ビルビの思い通りにはいかないと思います、犯人はまた繰り返すはず」

「そうだよなぁ、魔導士が襲われて、しかもA級魔導士......」


 魔導協会でA級魔導士はメイン戦力、S級魔導士は強力だが一部の協力的な魔導士を除いては手綱を握っているので精一杯、手綱すら握れているのか怪しいくらい。


 魔導協会にとってA級魔導士をこういう風に削られていくのは結構しんどいだろう。


「高位魔導士を狙った襲撃は各地で起きていると聞いてはいましたが、まさかこの島でそんな事件に遭遇するとは」

「ズーラって結構な実力者だったんだろ?」

「はい、しかも今回の被害者のズーラは『マーク島解放作戦』でも戦闘に参加していた魔導士です」


 そんな魔導士が襲われた、手も足も出ずにだ。


「あれだな、夜の外出は控えた方が良いだろう」


 元々するつもりはなかったが今回の事ではっきりとわかった、一人での夜の移動は危険だ。


 そうこれは当たり前の提案なのだが――


「あれ、捕まえたりしないのです?」


 ソフィアは俺の提案をまるで想定していなかったような返答をしてきた。


「――はぁ?」


 この人は何を言っているのかわかっているのでしょうか。


「はぁ?ではないですよ?、襲撃者は多くの魔導士を手にかけている常習犯、このまま放置すれば取り返しのつかない事になるかもしれません」


 何ということだ、せっかくのバカンスがこんな――


「ガルス君、一緒に捕まえましょうッ!」


 こんなことになるなんて――


「......はぁ......全く、しょうがねぇなぁ」

「――ガルス君!」



 波乱の予感――

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