第34話 ガルスの戦い


 観客席ではソフィアとリンバルが見ていた。


「はぁSランクの相手がいないとは......」


 元々はソフィアも参加する気持ちだった、実力を示すのならばS級の自分が出た方が手っ取り早いとも思っていたからだ。

 しかしS級魔導士の相手がいなかった、基本対等な相手との戦闘が求められていることもありソフィアの参加は却下された。


「残念だったね、まぁここでわざわざ戦う物好きなんてそうはいないさ」

「貴方も出ていただければよかったのに」

「僕は休暇中だよ?そこまでする義理はないね」

「ならどうして今もついてきているのです?」


 リンバルは今回の事に関与する気はなかった、今ついていっているのはなんとなくであり......そして


「メルゲイト=ラーパーン、奴が気になってね」

「あぁ......見た事はあるのですよね?どうでした?」

「試験の時に一度だけ目にした程度だけど」


 多くの大王カマキリを背負いながらも体には傷跡すら残さずに歩く姿、あの場にいた魔導士ならば、試験官も含め萎縮しただろう。


「......奴はS級も遠くないだろうね......ガルスが勝つのは難しいはず」

「どうでしょう、実際に戦っている場面を見ない事には――」


 ソフィアはなお態度を崩さない。


「僕は彼を知っている訳ではないが......その無根拠の信頼はなんだろうね」

「......彼は強いのです、少々自信がないだけ」

「ふぅん、なら期待して置こうか」


 ソフィアは微笑むばかり、目線を変えて会場を見るのだった。



 ■



 メルゲイト=ラーパーン――流星の如く現れた新星、レイをも超えると言われ、その将来性を示し、多くのS級魔導士が興味を示している魔導士。


「来たな......」


 青い髪、陰気な雰囲気を醸し出すが、顔は整っており、俗に言うイケメン......と言われる部類の顔立ちだろう。


 戦う前の挨拶をするためにお互い近づいていく。


「俺はA級魔導士ガルス=アリオスト、よろしく」


 手を伸ばす、戦う前の礼儀だ。


「メルゲイト=パーナーン」


 そういってそのまま離れて行った。


「は?」


 感じ悪いな......こんな奴に負ける訳にはいかないな、俺の目的は襲撃者の標的になる事だし、いくら試験の同期で最強と噂されていても負けたくない気持ちが生まれた。


 気が付けば歓声も止んでいた――


 審判の一人がマイクで話す。


『再度ルールを説明しましょう、リタイアを宣言するか、戦闘不能と判断された時は敗退、リングの海への落下した者もまた敗退となりますッ、そして意図的な殺害行為は禁じ、それを犯した者は失格とし――』


 それからも色々と説明されるがまぁ簡単だ、戦う場所はこの会場のみだとか、武器なども事前に許可をされていればOKとか、制限時間は50分とかその程度。


 そして――


「......」


 始まる。


『ガルス=アリオスト、メルゲイト=ラーパーンッお互い向かい合って――』


『始め――』


 ゴングが鳴り響く――



 ■



 開始の合図――まず動いたのはメルゲイトだった。


「『氷結連刃ひょうけつれんば』」


 手で風を切ると同時に氷の刃が発生しこっちに目掛けて飛んでくる。


「――ッ」


 魔竜のツメで防ぐ、しかし砕かれた氷が視野を悪くさせる――


「――ッ何処だ」


 しまった見失った――


「それが魔竜の力か――」

「――そこかッ」


 背後から聞こえた声に攻撃をしようとするが――

「ッ――」

 メルゲイトは指先をこちらに向けていた、俺はそこで動揺してしまった。


「――ふん、それでA級魔導士か......」


 紫の光玉が浮かぶ――


「くらえ」


 それを俺の間近に近づけて――


「『魔破まは』」


 ――瞬間。


「――まずい」


 ――光玉が膨張を始める、間近でされたから避けられないし防御も間に合わない、紫の玉から白い光が溢れ――


 カッ、光る。


「うわぁぁぁぁッ!」


 閃光が辺り一面に広がっていく、白い光はまるで大波のように俺を弾き飛ばす――


「まずい、このままだと――ッ」


 リング外まで吹き飛ばされる、落ちる訳にはいかない――


「クッ!」


 咄嗟に地面に腕を食いこませるが、勢いを殺しきる事が出来ない。


「――『ファイアボール』」


 逆噴射する形で後ろに魔法を撃ちどうにかリングから落ちることを避ける事が出来た。


「――っ」


 メルゲイトにはさっきの閃光で隙が出来ていた――いまだ!


「『魔竜のツメ』」


 まずは右腕を狙う――


 しかし、メルゲイトは俺が近づいてきても防御も反撃の動作もしない、棒立ちだ。


「え――」


 な、どういうつもりだ!?


「おい、何を考えて――」

「甘い――」


 メルゲイトの全身から白い霧が立ち込める。


「『氷竜の鱗ひょうりゅうのうろこ』」


 氷がメルゲイトを腕を鎧のように包み込んでいく――まさか、こいつも竜の力を――


 ガリッ


 氷は俺をのツメを半端に抉り込ませる――抜かなければ!


「抜けないッ!?」


 抜こうとしても氷が俺の腕を侵蝕していく。


「それが――」


 メルゲイトは左腕で――


「アリオスト家の魔導士かッ!」


 バギッ!


「ガハッ......」


 俺の顔を殴りつける――その衝撃で腕は抜けるが――


「――」


 追い打ちをかけてくる。


「――ウガッ!?」


 今度は俺の上半身を思いきり殴りつけて来る。


「――ッ」


 されるがままにはさせない、どうにか突き放して距離を取る。


「けほ、けほッ......」


 口からは血がこぼれていた、顔を殴られて体中から痛みが走る――


 あぁノーゼル兄貴に殴られたことを思い出す、痛いんだ、あいつはいつだって俺を嫌ってたから。


 これだから、嫌なんだよ、痛い思いなんて――


「さっきまでの威勢は何処へ行った」

「ッ......うるせぇ『魔力弾』」


 メルゲイトに向けて遠距離魔法を撃つ、しかし――


「......ふざけているのか?」

「『ファイアボール』」


 当たらない、あぁクソクソクソッ――


「これがA級......所詮はコネか――『氷結連刃』」

「――ぁ!」


 ――動揺し過ぎたッ


「うッ......!」


 反応に起きれて避けたり防いだりすることも出来ずに氷の刃が突き刺さる。


 メルゲイトは俺の遠距離魔法を無視して近づいて来る――


「これで終わりだ――『氷竜のツメ』」


 奴の腕は水色の氷に覆われていて、指先には大きなツメ。それは俺のものよりも大きいものだった。


「――」


 不味い――


「――ッ」


 竜腕でどうにか防ぐ、しかしあっちの方が強度は上手だったらしい、俺の強化魔法はガラガラと壊れていきながら吹っ飛ばされる。


「安心するのは早いッ」

 吹っ飛ばされるが奴は追い打ちをかけようと追いかけて来る――


「――クソッ」

「逃さん」


 どうにか態勢を立て直して距離を取ろうとするが追いかけて来る。


「(このままだと負けるッ......)」


 逃げ回る――


 惨めだ。


 観客席の歓声は俺をせせら笑っているのだろうか?


「畜生......」


 それにそういえばこんな大勢の前で戦うのは初めてだったな、こんな惨めな姿を周りに晒していると思うとドンドンと心が圧迫されていく。


『リタイア』――その言葉が頭によぎる。


「――逃げてばかりか」


 メルゲイトは俺に飛び掛かってくるがどうにか避けて、逃げるを繰り返す。


「ッ......!」


 奴のツメが振り下ろされると地面には大きなクレーターが生まれている。


「もし当たったら......」


 死ぬ、死ななくとも致命的なダメージを負うかもしれない、それくらいの事は俺にもわかる。

 ......こんなの俺が頑張る必要があるのか?ここまでする必要があるのか?


「......ない」


 そうだ、これは俺が提案した事だ、ここでリタイアを言おうが誰の所為でもない、そりゃあその所為で襲撃者は捕まえられず被害者は増えるだろう、だけど被害者は上位の魔導士だろ?魔導士は危険な職業だしいつ死ぬかもしれない事くらい覚悟の上じゃないのか?あぁそうだろ、おかしい、ここまで苦労を買う必要はない、本来はもっとちゃんとした奴がするべきことなのだ。それにこれだって俺にしてはよくやった方じゃないのか?同期最強の魔導士と少しとはいえ戦ったんだぞ?


 頭に浮かぶ言い訳の羅列――


「そうだ、リタイアはしたって――」


 そう思ったとたんに視界が広がった、そして観客席が視界に入り――


「――ぁ」


 ――ソフィアと目が合った。

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