第35話 勝者は――


 ソフィアとリンバルは戦闘を見守っている、ソフィアは座ってられなかったのか立っていた。


「かなり押されているね......このままだと危険かもだ」


 殺しはご法度、しかし死亡事故は起きている。メルゲイトは躊躇なくガルスに魔法を行使し続けていていつ致命的なことが起きるかわからない。


「――」


 ソフィアはリンバルの言葉が聞こえていないのか、ガルスを心配そう見ている。


「......遠目に見ていてもわかるが......あれは駄目だ」


 リンバルは戦闘を見ていて思ったことだ、最初こそガルスも攻めていたが途中からは完全にメルゲイトの独壇場になっている、どうしてそうなったのか......彼は察しがついていた。


「......恐れてしまったか......まぁ戦いを好き好む人なんていないだろうがね」


 だがそれでも......魔導士ならばそれは避けては通れぬ道。


「――」

「聞いてないよ、ったく......」



 ■



 ソフィアが不安気に俺を見ている、無理矢理俺に参加させたくせに......だけど遠目でもわかった。


 あの不安気な表情――


「――クソッ」


 己を奮い立たせる。


「――ッ!!何考えてたんだ、俺はッ!」


 こんな大勢の前で――ソフィアの見ている前でッ醜態を晒す気だったのかッ!


「――戦いに集中しろッガルス=アリオストッ!」


 自分自身を鼓舞する、痛いのは確かに嫌だ、だが負けるのはもっと嫌だ。


「――『魔竜のツメ』」

「――ッ!?」


 間一髪、どうにか相殺する。


「ギリギリッ」


 己の中にある楽に生きられる可能性を自分自身で否定するもう一つの自分――


「――『ドラゴンテイル』」


 足を竜の尾に見立て――


「なんだとッ!?」


 魔力を込めた足払いをした、メルゲイトは俺の豹変に驚いたのか対処できずにそのまま態勢を崩していく。


「隙ありッ!」


 メルゲイトの腕を掴む――そしてそのまま――


「おりゃぁッ!」



 バーンッ


「グァッ......」


 勢いのままに地面へと叩きつける。


「――くッ『氷――」


 魔法を邪魔する為に再度叩きつける――


「うしッ」


 反撃の隙など与えない、基本奴の方が上手である以上俺に出来るのは一気に畳みかける事――


「つまり――」


 このままリング外の海へと落とす!


 リング外まで急いで走っていく――


「グガガガッッ」


 メルゲイトを引きずりながら走っていく、しかしもう少しという所で――


「『氷結連刃ひょうけつれんば』」

「――危なッ!」


 氷の刃を避ける為に手を離してしまった、後少しだったのに。


「はぁッはぁ......なめやがって......『氷竜のツメ』」

「ッ――『魔竜のツメ』」


 お互いの魔法がぶつかり合う――やはり力ではあっちの方が上手なのだろう、俺の強化魔法は徐々に押されていく。


「今度こそ......これで終わらせてやるッ――」


 ただメルゲイトは痺れを切らしたのか至近距離で指先を伸ばしてきた――これは『魔破』か!?


 どうするべきか。

 俺の後方すぐはリング外だ、あの魔法をこのまま撃たれれば、俺はリング外に吹き飛ばされて負ける、だが避けたり防いだりも間に合わない――


「――『魔破』」

「一か八か、か――ッ」


 メルゲイトの腕を思いきり掴む。


「――ッ!?」


 いきなりの事で驚いたのだろうメルゲイトは驚きながら問いかけて来る。


「――ッ何のつもりだ!?」

「わかるだろ?」


 お前も一緒だ、どっちに飛ぶにしても――俺には問題ない。


「――く、離せッ!」


 メルゲイトはどうにか俺の手を離させようと殴ったりするが間に合わない。

 閃光、そしてそれと共に激しい衝撃が俺に襲い掛かってくる――


「絶対に離すかよ――うわぁぁぁッ」


 そのまま吹き飛ばされていく――


「(俺の方と一緒にメルゲイトは飛ばされた――後は)」


 気が付けば真下は海だ、つまり俺の作戦通り。


「メルゲイトを先に――落とすッ!」

「させるかッ!」


 しかしあっちだってそれはわかっている、メルゲイトは俺にしがみついて殴り掛かってくる


「お前が落ちろッ」

「俺だって負ける訳にはいかないんだよッ」


 ここで負けたら意味ない、そもそもの目的が俺の武勇を示す事だ。


 お互い殴りながらもみくちゃになって――



 ――ザボーンッ



 一緒に海へと落ちていった――



 ■



 ガルスとメルゲイトが医療班により回収されていく中、『魔破』による視野の妨害と落ちる瞬間の水しぶきにより観客たちもどちらが勝ったのかわからなかった。


『どちらが先に落ちたのかいま審判と協議しておりますので少々お待ちください――』


 ソフィアとリンバルもそれは同じで判断が出来ずにいた。


「まぁよく巻き返した方かな、よくやった......とでも言っておくか」


 リンバルにしてみれば最大の賞賛だ、ガルスを見直したとでも言うべきか。


「ソフィア的にはどうだったのかな、今回の試合を見ての感想はさ」

「久しぶりにガルス君の戦いを見ましたが......」


 ソフィアはクス、と笑う。


「変わりませんでしたね、危なっかしい戦いっぷりでした」

「それ......褒めてるんだよね?」

「もちろん」


『協議が終わりました――』


 アナウンスが流れる。


『今回A級魔導士同士の戦いとして接戦を繰り広げたガルス=アリオストとメルゲイト=パーナーン、今回の勝者は――』


 勝者は誰か、観客の一同は勿論のこと、いま運ばれているガルスとメルゲイト、ソフィア、リンバルもわからない、故に結果を聞き漏らさぬようにと皆が沈黙し、静寂に包まれていた。


『僅差の差でしたが――勝者、メルゲイト=パーナーンッ』


 ソフィアは傍から見てもわかるほどにガクリと肩を落とした。


『この素晴らしい戦いを見せてくれた両者に惜しみない拍手をッ!!』


 こうして今回のA級魔導士同期の試合であるガルス=アリオストとメルゲイト=パーナーンの戦いはメルゲイトの勝利で終了したのだった。

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