第24話 姉妹


 ソフィアとビフロンスの戦闘は続いていた。


「ちょいちょいちょいッ!」


 ソフィアの猛攻を避けながらもビフロンスは困惑を隠せない。


「仲間を信じてるとか抜かしてなかった!?めちゃくちゃ焦ってんじゃねぇか」

「さぁ気のせいではないですかね?」

「」


 それからどれほど戦いが続いたか――


「『赤蝕せきしょく』」

「ッ」


 不意を突かれ右腕に触られる、ビフロンスは『赤蝕』によってその腕が徐々に赤いひびが広まっていく。


「クソ――」


 その広まりは止まらずに徐々に赤いひびは広まる。


「結界で相殺出来ていたのではなかったのです?」

「お前......」


 ビフロンスは苦々しく笑う、その姿を見てソフィアはさらに続けた。


「あぁ他にも今までみたいに回復する剣でも作るという手段もありますね」


 そしてソフィアはある確信をする。


「この結界だったり姿隠しというのは恐らく相当な魔力を使うはず、更には黒剣という魔力の塊を大量に生成――恐らく今の貴方は魔力が枯渇しかけている、回復が間に合っていない」


 そう、ソフィアはビフロンスが戦闘の続行が困難であると判断したのだ。


「つまり――この結界を維持できるのも時間の問題でしょうね、私はさっさと壊したいので戦いますが」


 ビフロンスは右腕を抑えながらソフィアを睨む。


「因みにだが......『赤蝕』は永続か?俺の全身にまで広がっていくのか?」

「......さぁ?」

「......まぁ良い、自分の武器を晒す必要はないッ――」


 瞬間、ビフロンスは自らの右腕を引きちぎった。

 黒い血が噴き出しながら辺りに巻き散る。


「......とんでもない方ですね、正直ドン引きです」

「ふぅ......もし『赤蝕』が俺の全身にまで広がるんだったらそれこそ致命的だ、いまの俺は万全じゃないしな」


 腕を地面に投げつけると赤いひびは右腕全体にまで広まり赤くなりそのまま崩れ去る。


「それで右腕の無い貴方はどうするのです?」


 ビフロンスは笑いながら黒いドーム状の結界を解く。


「......解いちゃっていいのですか?」

「俺とアルセムの仲だが流石に死ぬまで戦う訳にはいかないからな、俺はトンズラこくとしよう」

「逃がすとでも?」


 ビフロンスは笑う。


「くくく、いいやお前は俺を追えない、仲間が心配なんだろ?」

「――ッ」

「その苦虫を嚙み潰したような顔――それが見たかった」


 ソフィアは睨むがその様をビフロンスはさらに笑う。


「くく、ほら行って仲間を助けに――ぁ」


 ビフロンスの表情は変わっていく。


「?」


 ソフィアも同じ方向を向く。


「――ぇ......」


 何故ここにいるのか、それがまず初めに思った事。


「どうしたビフロンス、ほら笑えよ」


 薄い灰色の髪をポニテ―ルに黒い長ズボンの女フローネス=ベルバスター、煙草を吹かしながらニヤリと微笑む。


「お前が何故いる」


 ビフロンスが問う。


「......成り行き?」

「......アルセムはどうした」

「負けた」

「あ――負けた?」

「はははそうだ負けた『虹の瞳』を露出して倒れてるよ」


 フローネスはヘラヘラと笑う。


「お前もあいつと同じになるか?」

「馬鹿が、なる訳ねぇだろ――」


 ビフロンスは後ろに下がっていく。


「......しかしアルセムの奴、ヘマしたのか......残念だが仕方ないなッ!――」


 ビフロンスはそのまま黒い闇となりながら逃走を開始する。


「――チッ」


 全身から黒い影の獣たちをバラまき始めると同時に黒い霧が周囲に立ち込める。


「じゃあな――また会おう」


 いつの間にかビフロンスの身体を一匹の大蛇が巻きついている、そして突如巻き起こった疾風と同時にビフロンスは姿はまるで木の葉のように散り散りになって消していた。


「あらら逃げられちゃったか......棺は守護した、とりあえず深追いはやめておくか」


 フローネスはそういってビフロンスがばらまいた影の魔物を対処しようとするが、ソフィアは彼女に近づいていく。


「姉さん、お久しぶりですね」


 フローネスは居心地の悪そうにするがソフィアはそんな彼女に続ける。


「お元気でそうで何より」

「......まぁな」


 煙草に火をつける。


「他の皆さんは大丈夫でしたか?」

「あぁレイたちは無事だ、サルザーは案外平気だったしな......ガルスもな」

「なら......良かったです」


 話していると影の魔物はどんどんと近づいて来る。


「......」


 ソフィアは再度『赤蝕』の準備に入り戦闘態勢に入る。


「それもう限界だろ、やめておけ」


 しかしソフィアが怪物の手を時折抑えたり、気にしたりする素振りをするのを横目で見ていたフローネスは既に限界が近いのだろうと察していた。


「その力は身体への負荷が大きいだろ」

「......知った風な事を言わないでください、私は戦えます」


 フローネスを睨みつけながら魔力を更に高めていく、どれだけ言ってもソフィアは言う事を聞かないだろう。


「.....まぁ今は良いか、雑魚相手だし」


 渋々とフローネスはそれを受け入れてビフロンスがまき散らした魔物の掃討を開始するのだった。


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