第23話 決着の余韻


 激しい爆風は周囲の地形を大きく変形させていた。

 長い時間土煙で満ちていたと思う。


「ッッ......う」


 どうなったんだ......とにかく、早く立たないと。


「......アルセムッ」


 アルセムは奥で倒れているが油断ならない、奴は死霊を扱える、どんな手段を持っているのかわからない、マーク島でも生き残った事がある事からこいつの生命力は普通じゃないのはわかってる。


「はぁ......はぁ......」


 少しずつ近づいていく、どうやらアルセムは爆風で吹き飛ばされそのまま大木にぶつかったようだ。


「まず聞く、サルザーは生きているのか」


 近づいてアルセムに言った。


「それは知らないな、とどめは刺していないとだけ言っておこう」

「......わかった」


 とりあえず殺した訳ではないらしい、あの人がそう簡単に死ぬとは思えない、大丈夫だ。

 だから、別の大事な事を聞く。


「全ての死霊を解放しろ」


 俺はさらに近づいて要求する。


「なぜ死霊を解放させたがる?」

「......最初は死者を良い様に扱うお前が気に喰わなかっただけだ――今は違う......彼らの助けを求める声が聞こえたんだよ、俺なんかを頼ってまでだ」

「死霊に感情移入し声まで聴くとは......死霊魔術師の領分をよくも......よっぽど死に近い経験をしてきたと見える」


 アルセムは苦笑いを浮かべながらも答えた。


「まぁそう警戒するな、既に死霊はいない、解放したと言って良い......もう戦えない」

「......信じられるか......仮に死霊が居なくても、お前自身にどんな魔法があるかわかったもんじゃない」

「......好きにするがいい」


 アルセムは小さく呼吸をする、そしてその言葉は嘘ではないようで、もはやアルセムには動く体力すら残ってはいないようだった。


「仲間はこの遺跡を襲った奴以外にもいるのか?」

「いるが......それも時期にいなくなる、所詮は私の魔法で動いていた人形だ」

「......ってことはスケルトン以外の魔導士もお前の死霊魔法で動いてたと?」

「そうだな、ほとんどは死者だ」


 アルセムはマーク島で多くの部下を失った、組織としてはその時点で壊滅していたらしい、それを補う為に死んだ部下の中から五体満足の遺体に死霊を入れた、元の遺体の持ち主の場合もあれば、適当に入れられた者もいたらしい。


「......私は死というものに幼少から興味を持っていてな、未知というものへの探究心があった......あぁだからか死霊魔法なんて得意になったのは......」


 アルセムは笑う。


「私は禁忌とされ秘匿されるもの全てを解明する――その為ならば時に死者をも利用する、死霊の知恵だって全て使う」

「だから死霊をも自分の血肉に道具にしたと?」

「そうだ」

「そこまでして......『虹の瞳』を維持したかったのか?隠れて生きる事だって出来ただろ」


 こいつの事は認められない......だが『虹の瞳』に固執する必要はなかったのではないかとも思った。


「そこまでしなければならない、『虹の瞳』はその為の組織だ、それにゾルマットから託されたものを私が壊す訳にはいかない」

「ゾルマット?」

「『虹の瞳』創始者、ゾルマットは私の夢に共感し組織を託してくれた」

「その夢ってのが......未知への探究心、解明って奴か」


 夢......こんな悪人にもあるんだな、そういうのが。


「......あの棺をどうして狙った、ただの棺じゃないんだろ?」


 気になっていた事だ『虹の瞳』がそういう物を集める集団であるとしてもどうして棺を狙ったのか理由があるのではないかと思っていた。


「......何でもない棺と思っているのなら大間違いだ、あれは宮廷魔導士ジャレイドラの棺――あれには多くの秘密が隠されている......貴様らの目は節穴だったようだがな」

「......その棺を求めた理由はそれだけか?」

「......少し話そう......マーク島で死にかけた私は死霊を使っての自己強化で生き延びた、この『虹の瞳』もその時に体の一部となった」

「手術でもしたのか......だけどそんなの誰が」

「....ビフロンス」


 ビフロンス、確かソフィアに襲い掛かった奴か。


「ビフロンスと俺はある契約をした、奴が求めるものを探し見つけたら譲渡する、代わりに私を治すと......そうして『虹の瞳』を埋め込まれた、ただ隠していたばずの『虹の瞳』をどうして見つけることが出来たのか......ふ、それは今になってもわからないな」


 起きたらあんなのがあるなんて想像したくないな......あれ?


「......待て、ビフロンスはお前の部下じゃないのか」

「あいつと俺は対等だ、そして棺を求めたのも奴だ」

「だったらなんであいつは最初から棺を狙わなかったんだ、お前にそんな大事な事を――」

「言っただろ私とビフロンスは対等――そしてお互いを信頼していた、こいつなら上手くやるとな......わかるだろう?」


 それは俺が――俺たちがお互いを信頼して戦っていたのと同じだった。


「だがそんな信頼を損ねてしまったな、最後の最後で我欲に走った、貴様と戦う必要などなかったのに」


 アルセムは笑った。


「貴様の未知の力......心躍った、躍ってしまった、まだこんな未知があったのだな......とな、愚かなことだよ」


 そしてアルセムは俺を見る。


「......未知を見せてくれた礼に一つ忠告しておこう、貴様から出ていた黒い『何か』について――その事は誰にも言うな」

「どうしてだ」

「......多くの禁忌に触れて来たからわかる――あれは同じ類だ」

「どういう意味だ、それは――」


 足音が近づいて来る。


「――爆発が起きて何事かと急いでみれば......倒していたか」

「――誰だ」


 人、女が近づいて来た。


「安心してほしい、魔導協会の仲間だよ」

「――」

「随分と酷いやられっぷりだなぁ......あれ......」


 薄い灰色の髪をポニテ―ル、ソフィアと似たコートを着ながらも前のボタンを閉めずたなびかせていて、長く黒いズボンをはいていた。

 そして煙草を吹かしながら近づいて来る。

 ソフィアとは似ても似つかないのに顔立ちなどその面影を感じさせる。


「お前は確か......まぁ良いや」


 彼女はアルセムの方を見る。


「――『虹の瞳』アルセム=リンペリオはお前だな?」

「......いかにも、私が『虹の瞳』指導者アルセム=リンペリオ、貴様の名を聞こう」

「フローネス=ベルバスター、お前を捕らえに来た女だ」


 フローネス=ベルバスター、その名を聞いて思い出した。

 彼女の事は実家にいる時から耳に入っていたしソフィアも彼女について話していた記憶がある、俺も数回は会った事がある。


「ちなみに抵抗はおススメしないね」

「......見ての通りこの様だ、歩く事もままならない」

「そうみたいだ、楽が出来て助かるよ」


 フローネスは煙草を吹かすと俺を見た。


「そして思い出したが......お前ガルスだろ」

「そう、ガルス=アリオスト......何回かは会ってるはず」

「やっぱりそうだったな、あいつもお前の事を話していたし記憶に残ってる......他に仲間はいるか?」

「マトラ遺跡の方にサルザーがいるはず、あとアルセムの仲間ビフロンスとソフィアが戦ってる」

「――」


 ソフィアの名を聞いて、フローネスに一瞬の間が生まれた。


「......ソフィアは後回しにしても平気だろうしサルザーの方を急ぐとしよう――っとその前に」


 フローネスは俺の頭に手をつける


「『ヒール』」


 俺の身体を暖かな光で包み込む、これは――回復魔法か、回復は高度な魔法で使える人は少ない、まして効果の高い回復魔法使いなんて滅多にいない。


「応急処置だが十分だろ、安静にしてろ」

「ありがとう」


 体中に感じていて痛みや倦怠感は大分和らいだ。


「気にするな」


 こうしてフローネス=ベルバスターはサルザーとソフィアの元へと向かっていった。

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