第40話 事件解決......?


 腕から身体、そして足、紫色の竜の鱗で覆われる。


「『魔竜の鱗装まりゅうのりんそう』」


 俺を縛り付けていた木の根を切り裂いて、すぐに――


「――」

「『魔竜のツメ』」


 ザイロはソフィアへ向けていた手を俺に向けて木の根を伸ばしてくる、だがそれごと――


 バリッ


「よし――」


 当たった、木の根を破壊した。

 だがザイロは変わらずに俺へ攻撃を仕掛けて来る。


「『赤蝕』」


 ソフィアは近づいてザイロへ攻撃をしようとしていた。


「ッ――」


 しかしザイロはそれを近づかせずソフィアを腕から伸びた木の根で妨害する、木の根は赤いひびと共に瓦解していくが、ザイロの本体に達する前に木の根を切り離して無効化した。


「なるほどなッそれに触れられる訳にはいかねぇかッ!」


 ソフィアの『赤蝕』を警戒しザイロは遠距離による木の根で攻撃をする、俺も同じように攻撃する。


「ったく、待たねぇのかッお前らはよぉ」


 俺はそんなザイロの隙を突くように近づいて『魔竜のツメ』でソフィアの方を向いていた奴の上半身を切り裂く。


「――くッ」


 ザイロは態勢を崩す、追撃を加えるが


「ふんッ」


 すぐに態勢を戻されて殴り掛かってくるが、さっきまでの俺じゃない、奴の拳諸共――


 バギッ


 ザイロの拳からは血が零れていく。


「――ッ!?やっぱり、強くなってやがるなッ!」

「――く」

「もう一発ッ」


 ザイロの拳が繰り出されると俺も同じように対処する。


「ッ」


 殴り返す。


「クッ、良いねぇメルゲイトの時もその胆力を見せれば勝てたんじゃあねぇかッ!?」

「うるさいッ」


 殴っては殴り返すが徐々に押されていく。


「どうした、その『魔竜の鱗装まりゅうのりんそう』とやらで強化したんじゃなかったのかよッ!?」


 ッまだ練り上げが上手く出来ていない。


「気のせいだよッ」

「は、そうかいッ!」


 出力も落ちていく。


 いつの間にかソフィアはザイロの背後に近づいていた。


「――当たるかよッ!」


 振り向きざまに払うがソフィアはそれをしゃがんで避けて――


「――『黒き爆発ブラックバースト』」


 ソフィアは『赤蝕』ではなく『黒き爆発ブラックバースト』を放つ――


「ぐぁッ――!」


 直撃だ。


「ッへ、流石S級かッ......」


 ザイロはケホケホとしながらもいまだ立っている。


「ガルス君ッ」

「わかってる!」


 俺とソフィアはお互いザイロを逃がさぬように挟んで攻撃を加える。


「――『ウッドプラント』」

「「――ッ!?」」


 ザイロは大きく地面を踏むと足元から木の根を発生させてソフィアと俺の足元をすくい上げる。


「ヒヤッとしたが、この通り――」


 ソフィアと俺の足を縛り付けてくるが――


「「『ファイアボール』」」


 バーンッ


 自然と息が合った、至近距離の俺とソフィアの炎魔法、俺だって至近距離なら当てられるんだよ。


「ッ......ったくよぉ」


 ソフィアはいまだ戦意を喪失させていない、だが俺は『魔竜の鱗装まりゅうのりんそう』の強化も解けてきている。


「『魔竜の息吹』」


 これが今の俺に出来る最大の攻撃ッ――


「うぉ――」


 全力のブレス、魔力大波をザイロにぶつける。



「ッ......げほ......」



 だが、俺の魔力が持たず、『魔竜の鱗装まりゅうのりんそう』も完全に解けてしまった。



「......危ねぇ危ねぇ、やっぱ強い奴ってのはこうじゃねぇとな......」


 ザイロもかなりのダメージを負っている様だがまだ決定打に欠けていた。


 すると遠くからキラリと光る何か――


「――」


 ザイロも察知したようでそれを避けると地面に凍りが広がる。


「この魔法は――」


 この魔法には見覚えがあった、これは――


「メルゲイトか!」


 だがザイロはすぐに魔法の出どころを探る。


「次は誰だ――あッ!?」


 すると今度はザイロを覆う様に鉄格子が現れた。


「これは?」

「......リンバル君の魔法......ですね」


 話をしているとリンバルとメルゲイトが現れる。


「僕の魔法の『アイアンプリズン』」

「......もっと早く来て欲しかったんだけどな」


 かなり苦労する羽目になってしまった。


「俺の考えだ、遠目で奴の戦いを見ていて思った、捕まえるには誰かが奴を削る必要があるとな」

「......と言うわけ」


 会話の間、俺たちを縛っていた木の根も消えていて、ザイロは鉄格子の中で暴れまわっている。


「本調子で捕まえるのは骨が折れるだろ?」


 メルゲイトはザイロを見て言う、なるほどな、俺とソフィアでザイロを削ったから捕まえられたと。


「......ソフィア、大丈夫か?」

「大丈夫です......また、貴方に助けられてしまいましたね」


 ソフィアはなんだかしょんぼりとしていた。


「いつも肝心な時には貴方に助けられてる」

「......気にしすぎ、俺だって負けてたし」


 どういったものか......。


「俺たち二人はリンバルとメルゲイトに助けられた、だから今度は二人を見返してやろうぜ......うんそれが良い」

「......そうですね、ありがとうございます」


 さて、そして問題は――


「こいつどうする?」


 だがその問題もすぐに解決できそうになる。



「貴様ら何の騒ぎだッ!」



 ブルーサピロス島の兵士たちがぞろぞろとやって来た。



「えっと、色々とあって――」



 ■



「......では、そいつが本土で話題となっている襲撃犯と?」


 自分たちが魔導協会の魔導士である事を示すと兵士たちは納得してくれたようだ。


 ソフィアは檻に捕まっておとなしくなったザイロの元へと行く。


「仲間は何処です?襲撃犯には仲間がいると聞いていますが?」

「仲間だ?......いねぇよ」

「......それはどういう?」

「まんまの意味だ、仲間なんていらねぇ」


 ソフィアはそれはおかしいと言った、数少ない目撃者からは複数人いたという情報があったのだという。


「貴方には多くの殺しの容疑がかかっていますし、しっかりと白状した方が身のためですよ?」


 ソフィアが話していた、被害者は多くの場合追われていた形跡があり、また致命的な部位を執拗に攻撃された跡が残っていたらしい、つまり殺しを目的にしていた。


「殺しを目的になんてしてねぇよ、殺しちまう事はあったかもしれねぇけどな」


 だがザイロが語った事が本当なら、こいつは本当に強者と戦う事が目的であり、殺しを目的にしてはいない、つまり――


「襲撃をしていた別の存在がいた......という事ですか」


 その通りなのだろう。


「別の奴でも捕まえられたんだから良かっただろ」


 俺はソフィアに言った、そうだ、ブルーサピロス島でザイロを捕まえられただけでも良かっただろう。

 放置していたら、もっと被害者が増えていたであろうから。


「とりあえずこいつを連れて行きます、貴方方にも同行をお願いしますが......良いですね?」



 ■



 事情聴取の為に兵士についていき、あれこれと聞かれそしてある場所へと案内された。


「困るのだがねぇこういう問題を起こされると」


 サングラスをかけている小太りの男が一人座っていた、この男の名はビルビ=サーフェイ、ブルーサピロス島では王の様な存在とされている男。


「僕達は犯罪者を捕まえた功労者のはずだ、どうしてこんな扱いに?」


 リンバルは珍しく苛立ちを覚えているようだった、というのもここに連れてこられる間、俺たちは賞賛はなく、また輸送も内密の扱いとして秘匿されザイロとさして変わらないものだったからだ。


「感謝はしている、だが私達も捜査はしていた」

「勝手に捕まえた事は認める、だが僕達を隠す様に輸送したのは何故だ」

「ここには多くの魔導士が疲れを癒しと平穏を求めて希少な時間を使いやってくる」


 そこでソフィアが問う。


「......騒動を起こすなと?平穏を壊すなと?」

「ソフィア殿の不満も理解はしましょう、だが騒動が起きれば魔導士は否が応でも動かざるを得なくなる......君たちの様に」


 俺たちは偶然、ザイロの事件を知ったからあれこれと動いていた、その事を言っているのだろう。


「現に君たちも多くの時間を削って働いたのだろう?」

「――俺は後悔してないけどな」


 俺は思わず口を挟んだ。


「......もし目を瞑ってその所為で誰かが死んでいたとしたら、それこそ俺は後悔する」

「随分と正義感をお持ちのようで......どちらにせよこういった事を勝手にするのは控えていただきたい」


 そこで沈黙を守っていたメルゲイトが口を開いた。



「面倒事を避けたいのはわかったが、ザイロが言っていたことはどう考えている?」


 それはザイロが輸送中に語った事だ――



『俺はブルーサピロス島で暴れてほしいと依頼された、強い奴と戦う目的とも合致してたから受けた』



「奴はブルーサピロス島で暴れろと依頼を受けたと言った、それについてはどう考えている?」

「私を蹴落とそうとする者の輩でしょうな、そういう手合いは多い」


 ビルビはザイロの言っていた事もあまり重くは受け止めていないようだった。


「私も無対策ではない、契約している魔導士もいるのでな......だから安心してここブルーサピロス島で休暇を楽しんでいただければ」


 結局、ビルビ=サーフェイから追い出される事となった。



「......どうしようか」

「どうするもない、ザイロの言った事の真偽もわからない以上、お手上げだろう?」


 リンバルの言う通りだ、ザイロが本当の事を言っていたとしてもだったら何が出来るというのか。


「......メルゲイト君への報酬は払えなさそうです、ごめんなさい」

「......そういう事もある、次に儲け話があったら教えてくれ、じゃあ」


 メルゲイトはそう言って離れて行った。


「リンバルは?」

「僕は休暇の続きを楽しむとするよ......今度は面倒事を連れて来るなよ?」


 リンバルはそう言って別れる。




「......ふぅ」


 気が付けば、太陽は真上に来ていた。


「三日目だな」

「ですね、午前中は取り調べやらなにやらで時間を奪われてしまいましたが」

「はぁ、眠い」

「私たち昨日から眠れていませんからね」


 言われてみればそうだった、それに二日目は戦いばっかだったから疲労も溜まっている。


「とりあえず、ホテルに戻ろう」


 ザイロ=カルバズによる襲撃事件はこうして無事解決したのだった。

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