第41話 平穏な日――不穏な影


 4日目の朝。


 3日目はほとんど寝て過ごしていた、4泊5日と言っても早いものだ。


 現在はせっかく来たのだからビーチに行こうという話となり、ソフィアに連れられてビーチに来ている。


 やはりと言うべきか俺たちが成したことは全く話題にもなっていなかった、ただせっかくの休みをゆっくりできるのだから悪い事と言う訳でもないだろう。


「ガルス君の水着......フツーですねぇ......」

「男の水着なんて個性的になるか?」


 俺は黒だがソフィアだってシンプルな白い水着だ、胸も相変わらず寂しい感じ――


「おや、何やら良からぬ考えを――」

「考えてません、そ、それよりさっきリンバルを見かけたんだよ、ちょっかいかけに行こう」


 話をそらす。


「ふふふ、良いですね――」



 ■



 船上にて――


 一羽の白鳥が一人の赤黒い髪をした男の肩に泊まる。


「.....」


 もう一人、ウェーブのかかった赤黒い髪の女はその男に何があったのか聞く。


「お父様、使いはなんと?」

「ザイロが捕まったようだ」

「それは幸いですね」


 男はさらに語る。


「しかし誰が?ザイロは手練れのはずですが......」

「なんでもソフィアが現場にいたらしい」

「あぁ......S級魔導士を纏めようとしたり、何かと能動的に動いていて煙たがれている、あのベルバスターの娘......ですか」

「そう......全く忌々しい限りだ」


 男の名はS級魔導士ゼク―ド=レイルザンド。


「目障りな娘ではありますが......レイルザンド家の家宝を盗んだ輩を捕まえたのは功績でしょう」


 同じくレイルザンド家の一人でゼクードの娘、S級魔導士ラナ=レイルザンド。


「ふ、確かに」


 レイルザンド家は古くから続く名家で、1000年前のバンターグ帝国時代から続いている。

 同じくバンターグ帝国時代からの系譜を継ぐのはベルバスター家である。


 レイルザンド家はバンターグ帝国時代において宮廷魔導士として多くの政敵を蹴落としてきた歴史を持つ、そしてその際には多くの財産を没収し隠し持ってきた、今ではその財産も忘却されたか売られたりして数は少ない。


「ザイロ=カルバズ、奴は一族が秘匿してきた物を奪い取ったのだ、その罪は重い......着いたら現地で即刻尋問を行う、ラナ、お前も準備しておけ」


 その中でもレイルザンド家が隠し持っていた家宝をザイロは盗んだ、この事件について魔導協会は把握しておらず公にもされていない、協会にバレれば必ずや没収される物だったからだ。

 それを避けたかったレイルザンド家は事件に関連するあらゆる情報を協会を通さず自力で獲得して犯人の目星も既につけていた、そしてその苦労がようやく実る。


「はい、お父様」


 ラナはニヤリと笑い頷いた。



 ■



 ブルーサピロス島の某所


「――これで良し」


 一人の青年、何やら作業をしていたがその作業も終わったようだ。


「......のんきなもんだ」


 ビーチを見下ろすと様々な人が遊んでいる。


「ポルバン、急げ」


 年のいった男に急かされるとすぐに移動を開始する。


「ポルバン、作戦は頭に入れてるな?」


 ポルバンと言われた青年は緊張した様子でついていく。


「......これで良いんだよな?」

「......」


 ポルバンは後ろめたそうに言うが男には聞こえていないのかあえて無視しているのか......ある程度歩いていると他にも仲間と思われる者達とも合流していく。


 どれほど歩いたか――


 小さな洞窟にたどり着くと髭を伸ばした男が座っている。顔には大きな傷が残っている。

 そしてもう一人近くに立っていた黒髪の男が穏やかに問う。


「ちゃんと言われた通りに出来たかい?」


 その問いに集まった者達は各々で肯定した。


「うん、それでいい」


 黒髪の男は続きを話そうとするが、すると一人いない事に気が付いた。


「そういえば一人、見当たらないね」

「......あいつか、仕方ねぇなぁ......ラーペ、悪いが少し待っていてくれ、俺が連れ戻してくる」


 髭を伸ばした男が立ちあがると渋々とその場を離れて行った。


 ■


「......」


 木に寄りかかりながら考え込んでいるのは青いローブに同じく青く長いツバの三角帽子をした少女。


「アスティ......もう時間だ」


 少女の名はアスティ=オーラム。


「おじ様......」

「もう散々話し合っただろ?」

「......だけど」

「全く、お前は......」


 男は苦笑いを浮かべた。


「他に方法はないの?」

「ない、上位魔導士に恐怖を植え付けるには生半可な物ではいけないからな」

「だからあの魔導士と手を組むって?」


 アスティは黒髪の魔導士、ラーペの事を信用していなかった。




 それは少し前に時を遡る――




「私の案に乗ってくれた事に感謝しよう」


 各地にいる魔導士を敵視、もしくは魔導士社会の改革を目論む一派がおりまた、過激な思想から魔導士を度々襲撃を測って来た者もいる。

 そんな彼らに声をかけて集めたのがラーペという魔導士である。


「ブルーサピロス島を選んだのは、外界とのアクセスを丁度良く切れてなおかつ上質な魔導士が集まる所だったからだ、私の召喚魔法には膨大な魔力が必要だからね」


 ラーペは淡々と説明する。


「召喚魔法を成功させ魔導協会の本部を襲撃する、それがこれから決行する作戦だ」


 そして自身が召喚する予定の魔物を説明する。


「魔神ミシャール......それはバンターグ帝国を滅ぼした悪魔、1000年前のものとはいえそう易々と倒されない」

「アンタはどうしてそんなのを知ってるの?」


 アスティは睨みながら問うとラーペは平然と答える。


「これさ――」


 ラーペが古びた本を見せる。


「『ランディス魔導書』......バンターグ帝国の宮廷魔導士による魔導書だ、ある骨董品屋から見つけてね......信憑性については知っている者もいるだろう?」


 ラーペは辺りを見ると顔を青くした者もいた、恐らくはこの魔導書による魔法で痛い目に遭った者なのだろう。


「そして最も興味深いものが最後の方にある魔法の説明、これが帝国崩壊の原因とされる魔神ミシャールの召喚についてだ」


 魔神ミシャールの説明を受けると集まっていた者の多くが萎縮する。


「まぁ......そう怖気づかないでほしい、所詮は1000年前の魔法だ、現代なら完全に制御できる」


 ラーペは威勢よく語ると集まった者達を見る。


「君たちは私が見立てた中で一番の実力を持つ者たちだ、きっとうまくいく事を信じているよ――」




 こうしてブルーサピロス島での恐ろしい計画が着実に進んでいった――




「......あの黒髪の魔導士は信用ならないわ、あいつは何かを隠してる、コソコソと動いてるのを知ってる」

「疑り深い奴だな、アスティ」

「当たり前よ、アタシはこんなんでも魔導士の端くれなんだから」

「ったく......俺だってラーペに命まで預けてはない、もし奴が裏切ったんならぶっ飛ばしてやるよ」


 何かあればラーペを止める、男がそういうとアスティも少し微笑む。


「......アスティ」

「......わかった......」


 アスティはラーペをいまだ納得できないものの男を一人にすることは出来ず、結局一緒についていくのだった。

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