第39話 襲撃者


 なんだか懐かしくなって作戦の場所に移動しながらあれこれと語り合った。


 そうだ、俺にとって魔導士は誰かに強制されたものではあった、だけどあの日からは少しは変わった。


「今も色々と不満も沢山ある......だけど魔導士になった事は悪くなかったとも思ってる」


 魔導協会での依頼とかでも依頼主に感謝されたりな。


「......そうですか」


 ソフィアはなんだか言いにくそうに語る。


「あの、貴方に足手まといだから逃げろと言ったのは本心ではないですからね?」

「今更だなッ」


 俺を助ける為に言った、それに俺は弱かったし気にしてはいない。


「そろそろ夜も深くなってきました......ガルス君、相手は一人の時を狙って襲ってくる傾向にありました、私は隠れていますので適当に歩いてください」


 ソフィアの手首には小さな赤い魔石が付いている、これで遠くのリンバル達とも簡易的な合図は出来る。


「遠目で見ていますから安心してくださいね」



 ■



 そして一人夜道を歩く。


「......潮風の所為か、案外涼しい」


 襲撃者を捕まえる為に夜道で囮になるとか、まるで映画の様だ。


「願わくばメルゲイトの方を襲っててほしいな、あっちの方が強いだろ」


 そんな事を言っていたら、人影が近づいて来た。


「ん?」


 大きな体に長く紫の髪だった、ニヤリと鋭い目つきで見ながら笑っている。


「お前は――メルゲイトか?」


 あーなんとなく察した。


「......別人だなぁ」

「あぁ、ならもう一人の奴かッ――」


 一瞬の間に俺の目の前に来ていた。


「ガルス=アリオストッ、メルゲイトに負けた奴だなッ!?」

「ぐおッ」


 どうにか腕で奴の殴打を耐え――


「――自己紹介くらいしろッ!」

「――っと」


 俺のカウンターを意図も容易く避ける。


「ザイロ=カルバズ」


 ザイロ――奴はそう名乗ると、再度俺に攻撃を仕掛けて来る。


「お前の戦いなら遠目で見させてもらった」


 単純な武闘派、近接戦を得意としているのだろう。


「ふんッ」


 奴の拳を――


「『魔竜のツメ』」



 バーンッ



 奴は俺のツメで相殺してきた――勢いのままにもう片方のツメで切りつける。


「ッ――なんだよ、結構やるじゃあねぇかッ!」


 だが、ザイロは俺の攻撃を受けたにもかかわらず、怯まない、怯まないどころか――


「お返しだァッ!」

「がッ――」


 相手のボルテージを上げる結果と成った、そのまま奴は俺の腹を蹴り飛ばす。


「――」


 ッまた来る――


「『黒き爆発ブラックバースト』」



 するとザイロに向かって魔力弾が飛んでくる、そしてそれにザイロが当たると同時に赤黒い爆発が巻き起こった。



「ガルス君」


 ソフィアが駆け寄ってくる。


「ソフィアかッ......」


 ソフィアはザイロに不意を突いて援護をしてくれたようだ、急いで体勢を立て直す。


「ガルス君ッ、リンバル君たちもすぐに来るはずです、私達で彼の足止めをッ」


 俺もそれに賛同した。


「ッ、二人相手か......良いぜ、乗ってやるさ」


 ザイロはソフィアの魔法を直撃しても平然と立っていた。


「ザイロ、どうして魔導士を襲うんだ!?」

「俺はただ強い奴と戦いたいだけだ、それ以外に理由はねぇ」


 なんて自分勝手な奴だ。


「さぁ――行くぜぇッ!」


 ザイロは同じように俺へと突進してきた、避けようとするが――


「ガルス君、少しザイロを抑えていてくださいッ」

「......わかった」


 ソフィアの意図を察し、俺は構える。


「少しは耐えろよ、小僧ッ」


 バキッ


 両腕を交差して防御したが――


「グッ......」


 両腕から全身へと響き渡る震動と激痛――だが


「――ん?」


 ザイロの腕をどうにか掴む。


「どういうつもりだ?」


 ザイロは不可解そうに俺を見る。


「いまだッ」

「――『黒き爆発ブラックバースト』」

「――ッ!」


 至近距離での爆発、流石のこいつもダメージを負っているはずだ。


「――なるほどな」


 黒煙が晴れるとザイロはニヤリと笑いながら。


「ふんッ」


 ザイロは呟くと腕から木の根が伸びて来て、俺の腕、首元まで根っこが伸びていく。


「ッなんだこれは――ぐあッ!?」


 すると徐々に俺から力が吸い取られていくのを感じた。


「『マナドレイン』」


 ザイロの傷口が癒えていくのが見えた。


「――『赤蝕せきしょく』」


 ソフィアは躊躇なく奥の手を使おうとするが――


「判断が遅いな、それじゃあ死ぬぜ――ッ!」


 もう片方の手からも木の根が伸びていきソフィアへと襲い掛かる。


「くッ――」


 しかしソフィアは異形の手と化した力でそれを容易に振り払う。


「んぁ?、結構やるな」

「ッ、舐めないでくださいよ、私はS級魔導士ですよ?」

「S級――」


 ソフィアは自分へと意識を向けさせるためにわざと言ったのだろう。


「やっぱ――ここに来て成功だったなッ!」


 俺の魔力を吸い取りながらソフィアへと感心を向けて、木の根による攻撃を行っている、今がチャンスだ。


 だが刻々と俺の魔力は吸われ続けている、これ以上吸われれば戦えなくなるだろう。


「......ッ」


 俺の新しい魔法を試すしかない、ソフィアは今は避けられているが、俺は人質に取られているようなものでソフィアも本気を出して攻撃が出来ない。


 足手まといになっている。


「――」


 今まで遠距離戦への執着を見直し、近接戦闘の為の魔法、そして――


 メルゲイトとの戦いでの経験を元に――


 今までの魔竜の力は腕のみの強化だった、それを全身に強化する。


 初めての事だ、腕だけでも辛うじての事だったから、だがこのままではソフィアが危ない――


「――はぁぁぁッ」


 魔力を内に溜めていく。


「お前......何をする気だ?」


 ザイロが俺へと意識を戻してきた。


 腕から身体、そして足、竜の鱗で覆われていく。


 紫色の鱗だ、ところどころにも紫の結晶が突き出ている、全身に激しい熱が駆け巡っていくのを感じながら――



「『魔竜の鱗装まりゅうのりんそう』」



 ザイロの木の根を破壊する――

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