第20話 死者を弄ぶ者


 俺に力が注がれていくのを感じる、その力が何なのかわからない、善か悪かもわからない。


 膨大な魔力が俺の周りをまるでホルマリン漬けのように、加護するかのように、溢れていて外皮からあらゆるところから俺の内に入ってくる、注がれる。


 ただただ満ち満ちる、それは今までにない万能感、何に焦るでもない安心感――


 それは異様に俺と馴染む、新しく得たのではない、元々あったものが戻ったような――そんな感じだ。


 それが注がれる度に水晶玉は割れていく、許容量を超えた?


「なんだろう、この感じ」


 今までにない魔力で満ち溢れている事だけはわかる、しかしどうしてこんなにも魔力が溢れているのかそれがわからない。


「――わからない事も多いが、今考えている暇はないな」


 まだそう遠くへは行っていないはず、急いでアルセムの後を追う。



 ■



「『冥霊破――」


 アルセムの魔法、冥府の霊を消費した衝撃波――

 

「今の俺ならそれくらい――」


 どうして平気だと思ったのかはわからない、ただ今の俺は万能感に溢れている、絶対的な安心感が身を包んでいた。


「――ッな」

「――はは」


 その確信は間違いなかった、奴の魔法は俺には効いていない。


「『死玉』」

「その魔法は――」


 両手に無色透明な水晶玉を持つとガルスから様々なものを吸い取っていく――


 ピキピキ


 しかしその水晶玉はひび割れていった、今の俺には効かない?


「――これは」


 距離を詰めていく――


「『死地業火しちごうか』」


 アルセムは両手を地面につけると大地がひび割れ炎が噴き出していく、地割れを避けようとするもその地割れから噴き出した灼熱の業火が襲い掛かる。


「ッ」


 大地がそそり立っていき、俺の逃げ道を塞いでいく――俺を閉じ込める気だ。


「......俺を蒸し焼きにする気か」

「――案ずるな、肉体は残してやる」


 そのまま岩に阻まれて閉じ込められていく、まだ耐えられるが時間の問題だ。


「砕けろッ――」


 魔力を込めて殴りつける、一発、二発――


「いッ」


 分厚いその壁を殴りつけ――


「おりゃぁぁぁッ!」


 破壊――


「まさか――壊しただと」


 身体からにじみ出るように出た黒い魔力――


「グァッッ!」


 それがアルセムをかみ砕く――


 これは何だ、やっぱり俺以外の『何か』が俺の近くにいる。

 それの正体はわからない、俺の味方なのか――それ以外のなにかなのか、ただ今は俺の味方ではあるようだ――


「――くッ!」


 それに考えている暇はない、さっきの黒い奴のダメージは通っていた。


「だが、まだだッ『魔力弾』」


 更に魔力弾を至近距離で持ちそのまま殴りつける――


 当たった――


「――」


 しかし爆風が止むと確かに多少のダメージこそ通って入れど軽傷、本来は遠距離で使う魔法を至近距離でこれしか効いていない。


「やっぱり、なんか変だ」


 当たる瞬間に明らかに魔力が弱まっていた。

 さっきの戦いの時から感じていた違和感が確信に変わった――


「仕切り直しだ――」

「――ッ!?」


 そしてその瞬間――アルセムが爆発する。


「けほけほ......自爆......なんて奴......」


 激しい土煙が舞う。


「――自爆か、そんな愚かな真似はしない」


 土煙が晴れると上半身が爆破により露出したアルセムが立っていた――


「――なんだよ......それ」


 アルセムの上半身の心臓部にあったもの。


「これか?」


 それは虹色の目だ、しかも時々動いている......ぎょろりこちらを観察しているのがわかってしまう。


「これが『虹の瞳』」


 こちらを見る虹の瞳、意思や感情は感じさせない、ただゾワッと恐怖を覚えさせてくるだけ――


「恐ろしいか?しかしそれが正常な反応――これはまさしく畏怖すべき超常のものなのだから」


『虹の瞳』これは魔法か?魔道具か?わからない。


「......『虹の瞳』は組織名ってだけじゃなかったのか......」


 それに何とも言い難い不気味さだ、ただ動いているだけなのか、生きているのか。


「そんなものを身体に入れて......その瞳も気味が悪いな」

「ふ、今の貴様に言われたくはないな」


 アルセムには俺の近くにいるものが見えているのか?


「元々その姿だったのか?」


 興味が湧いて質問をする、アルセムは不機嫌になりながらも答えた。


「忌々しいマーク島での戦いを生き延びる為にこの姿となった、そして――」


 アルセムは青い肌の死霊を出す。


「さらに強くなるために私は死霊を自らの血肉、魔力の糧とする力を会得した――それがこの強化魔法『死霊剛体しりょうごうたい』」

『■■■』

「......ッ」


 死霊は叫びならがもアルセムに吸収される、その叫びに思わず耳を塞いでしまう。

 吸収されていく、するとアルセムの魔力が増えていくがわかった。


「誇れ、サルザーも見る事のなかった魔法だ」


 アルセムは眼鏡を光らせてニヤリと笑う。


「まぁあくまで一時的な強化魔法、それに死霊の質によって強化の幅があるし、蓄えた死霊を消費する欠点はあるな」

「......どうしてそんな残酷な魔法を」

「簡単だ、より安易に効率的に強くなれる――所詮は死者、資源も金も必要はない、多少の消費も他で補える」


 補う、つまり強化に消費した死霊を他で殺してきて回収するということだろう。


「この野郎――ッ!?」


 アルセムは殴り掛かってくる――


「クソッ!」


 避ける。


「この程度か......凡百の死霊では意味はないな、貴様のその成長スピードを考えれば強力な死霊を吸収し全力を出すしかあるまい」

「死者を消耗品の様に扱うな」

「ふ、悪人でもか?」


 俺にはこいつの死者をまるで道具のように扱うのが看過できない、そりゃ生前悪人だったのかもしれないけど、こんなの――


「貴様の力の全てを理解してみせる、そして貴様も我が死霊の一兵にしてやろう――」


 アルセムの心臓部にある『虹の瞳』が虹色に輝き出した――


「瞳よ――照らせ『七つ色の眼光ななつしょくのがんこう』」

「――うぁッ!?」


 瞳から虹色の光が放たれる――

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