第19話 ガルスVSアルセム


 レイたちが逃げていく中で俺はアルセムと対峙する。


「......良いだろう」


 アルセムは戦闘態勢に入った、よし、まずは俺を意識したな。


「『死霊の舞ゴーストダンス』」

 アルセムから現れる青い顔の亡者の群れ――それぞれが剣や槍を構え、うわ言を呟いている、これは――


「その死霊を解放しろ、アルセム」


これは魔法により作られたものではない、実際に生きていた人を利用しているッ!


「私が蓄えた戦士だ存分に戦うが良い」


 右、左に次々と近づいて来る――


「――ッ許せ『竜のツメ』」


 魔力で模した竜のツメでそれぞれ対処する、一体一体確実に対処していく。


 まずは右、それに左ッ――


 剣に槍、着ている鎧から何処かの国の兵か、魔導士らしき者もいる。


「死者を弄びやがってッ」

 大丈夫だ対処できてる、俺も別に遊んで過ごしていた訳じゃない――


「『冥霊破めいれいは』」


 ――しまった、霊に気を取られ過ぎたッ。


 冥府の底から呼び寄せた霊をただ己の為の糧として消費して放つ衝撃波、生半可な魔法では相殺できない。


「――っ!」


 寸でのとこで回避――


「ッはぁはぁ」


 駄目だ、距離を取られていると防戦一方になる――こっちから仕掛けないと不味い。


「――ッ」


 怖気づくな行ける。


 間合いを詰めて俺の一撃を食らわせる。


「来い」


 ――手刀!?こいつ俺の竜のツメに手刀で止める気かよ!


「舐めるなァ!」


 カキンッ


「――ッッ」


 相殺――違う、割れていく負けた!?


「竜の力はその程度か?」


 来る、俺のツメは破壊されその衝撃で動けない、なのにアルセムだけは平然と追撃を加えようとする。


 殴打――


 まずは顔面を殴りつけて来た。


 殴打――


 腹を殴りつけ――


 殴打――


 また、顔を殴る。


 手刀を使わないただの殴り、魔力で防御を固めているはずなのに容易に貫通してくる異常さ――


「『竜の息吹』」


 純粋なる魔力の放射での攻撃――これで距離を取るもののやはりアルセムへのダメージにはなっていないようだ。


「――やはり――」


 アルセムは戦闘中だというのに何か考え込む。


「魔力による竜の形への模倣、ただそうしているだけだと思っていたが――貴様、力を使いこなせていないな?」

「――」


――そう、俺はまだ完璧には扱えていない。


「何もかもが脆い、竜とは既存生命を凌駕する超越種、その力を持つ者がこうも容易く扱われている事――断じて恥ずべきだ」


 アルセムは語気を強め――


「『死玉しぎょく』」


 腹を殴られると同時に何かをねじ込まれた、それは心の底から凍えるような何かを感じた――思い出す、これは死だ。


 暗さ、寒さ、孤独さ、耐え難い恐怖――それが死、俺がガルスとして生まれた時から何処か忘れていて、だけど忘れられずにいたもの、そして今の俺として生まれ何度も味わいそうになった死の味――


「カハッ......」


 無色透明な水晶玉が宙に浮いていた、それに熱を吸い取られ、意思を吸い取られ、血を吸い取られ――吸い取られる度に紫色の玉に変色していく。


「これが私に歯向かうという事だ」


 まだだ、まだ死なないッ......死ねないんだッ!


「......ガルス=アリオスト、この程度か――」



 待て、行かせないッ......


 待てッ.....


 まて.....


 ......





 ......意識が朦朧とする。


 魔竜、魔力そのものを扱えた竜でありそれの力を代々受け継いて来たのがアリオスト家、竜飼いの一族が当時のベルバスター当主に目を付けられた理由の一つだろう。

 そして俺はそれを継承出来ていなかった、アリオスト家にとって魔竜の継承は武器であり生命線、それがなければあまりに弱く脆く崩れさる家系だった――



 そしてある日の事を思い出した。


 思い出すのは儀式の日のこと、同じように儀式に参加をする子供たちと話す機会があった。


『これは十中八九、死ぬ儀式』


 いくら子供と言えど、魔導士の家系に生まれた者にはそういう知識があったのだと思う、ただその子はきっと落ちこぼれで儀式に参加させられた。


『あの儀式を失敗させよう』


 それは子供たちの浅知恵だ、大人の魔導士が編み上げたモノを子供が破壊するのは困難だ、それでも生き残るべく子供たちは思考した。


『儀式の前提を破壊する、つまりあの竜を殺せば儀式は出来ない』


 結局、思いつけたのはそれだった、その竜は純粋な竜ではなかったはず、長い時を生きて何かに成り果てた竜、到底小さな子供が勝てるわけがない。


『結局はそれしかないんだね』


 結局は死闘をするしか選択肢がなかったわけだ。


『この中で一番腕に自信がある奴から行こう、竜の体力を削るんだ』


 儀式の順番が近づくと一人、また一人と牢に連れられて減っていく。


『俺が倒して見せるさ、安心しろッ!』


 子供たちが竜の力に覚醒して生き延びる事を――竜を殺し儀式が失敗する事を皆が願った。


 子供たちは全員死んだのか、奇跡的に覚醒出来た人もいたのか、それはわからない。


 どちらにしても竜を殺す事が出来たのは最後に残っていた俺だった。



「――ぅ......」



 魔竜でも何でもいい、俺に力を――

 このままだとみんな殺される――

 そんなの嫌だから――



「――ッ」


 突如として鼓動が強まる、そして揺れる水晶玉――


 ピキピキッ......


 水晶玉にひびが入る――



 ■



「ふん、期待外れだった」


 吐き捨てるように言い捨て、アルセムは先へと急ぐ。


 竜の力を持つ者は数少ない、まして魔竜となれば余計にだ、魔竜の力を使い竜飼いとして生きて来た歴史を持つのがアリオスト家だった。


 魔竜――魔力そのものを扱うのに長けていた希少なる竜、一度だけその力を持つ者と戦った経験からもう一度その力を持つ者と再戦したいとは思っていた。


 それ故に良い機会だと少し時間を使ったものの結果は竜の力すら使いこなせない小童だ、期待外れだ、時間の無駄だった。


「――なんだ?」


 歩いて来た方向から来る異様な魔力を感じた――


「これは竜の魔力か?......いや.......」


 ほぼ間違いなくガルスのもの......だが。


「これは......なんだ」


 わからない、多くの禁忌に触れて来たのにその魔力がわからない。

 しかし明らかにこちらに向かってくるのは確かだった、ならばと戦闘態勢を取る――そして奴は来た。


「――アルセム」


 予想していたよりもガルスの状態に変化はなかった、ただし彼の真後ろにいる蠢く黒い『何か』を除いては――


「......一体......なんだそれは?」

「何のことを言ってるんだ?」


 それは本当に知らないが故の返答か、どちらにせよ今のガルスは警戒をするに足る存在となったのは確かだった。


「......凡そ真っ当なものではあるまい......」


 本来の目的とは違う、ただここで時間を使っても棺の方はどうにかなると考えた、彼らがジャウラ町についたとしてもあそこの魔導士では戦力にならず、外部に助けを伝える手段もない――何より。


「ならば、私の獲物だ――」


 興味が湧いた、だから奴を標本にしよう、そしてあの黒い『何か』の正体を必ずや掴もう。


「さぁ――来い」


ガルスとアルセムとの決戦が今始まる――

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