第29話 魔導士とは
それから子供を親元へ返した後、俺はアスティからこれも何かの偶然、せっかくだから少し話さないかと誘われて、近くの公園のベンチで親交を深める事になった。
「アスティが先にいてくれてよかった、俺しかいなかったらきっと間に合わなかった」
アスティ=オーラムは別の依頼で山に来ていたところを子供の声を聞いて駆け付けたのだという。
「――アンタってアリオスト家の魔導士なのよね」
アスティはどうやら俺の家について興味があるようだ、珍しい。
「物好きだなぁマイナー寄りだと思うんだけど」
「最近名を上げてるもの......それに友達にアリオスト家と縁ある人もいるから名前くらいは知ってる」
「そういう人もいるんだな」
自分の家の事を知ってくれている人がいるというのが嫌かといえばウソになる、複雑だ。
「アリオスト家ってベルバスター家とどれくらい関係深いの?」
「どれくらいって......互いの家の当主が話し合ったりとか......交流を続けたり、まぁ偶にお見合いもあるらしい......ただ俺は訳ありだからな、実家の事そこまで詳しくないんだよ、深いとこは話せないかな」
いざ聞かれると説明しづらい、特にベルバスター家との関係とか俺あまり詳しくなくて、個人的な付き合いとしてソフィアと会っているくらい、そしてそれが普通ではないことくらい俺にはわかる。
「へぇ......」
「......そこまででもう話す事はないな、魔竜云々とか竜飼いとかの話も知ってるだろ?」
「そうね、アタシの知りたい事はなかったみたい」
「悪いな、一族の腫れ物みたいな扱いだったから知らない事が多いんだ」
「......言い過ぎた......ごめんなさい」
「気にしてない」
アスティは溜息を零しながらベンチの背もたれに寄りかかる。
「......アタシも同じよ、家では腫れ物だった」
「......」
「アタシも小さいけど魔導士の一族の生まれだから......そういう理不尽は経験がある」
魔導士は人類を牽引して繁栄をもたらすという責務がある――というのを名分としてかなり好き勝手行うし己の理想の実現の為に魔法を利用する。
魔法だけではない一族から求める水準の子供が生まれない事を避けたりするし、そのために強力な魔導士との婚姻を目指す。
孫が強ければいいがそうならなかった場合、一族の衰退を避けるのが困難になっていく、仮に実力のある魔導士が生まれたとしても名家と言われる家は異質で異端的な魔導士の誕生を嫌う傾向にある。
理由は扱いづらくとんでもない厄ネタを背負い込む可能性があるからだ。
高位魔導士は魔法というものがいかに万能で不可思議で――だからこそ、とんでもない存在とパスを繋げてしまう可能性があることを理解しているのだ。
とはいえ他に選択肢がなければその危うい魔導士を後継者として育てる一族もいる訳だが。
「アタシ......あいつらを見返してやろうと決めてる、そのためにあれこれと頑張ってるわ」
「......お前は向上心あるんだな、尊敬するよ」
「ふふ、でしょッ?」
アスティは笑う、ツンケンとしてた表情だったから少し驚いた。
「ねぇ、アタシの友達紹介したいんだけど――」
似た境遇にシンパシーを感じたのか彼女は俺に友達と会ってほしいと言って来た。
「えー......」
「そんな変なのじゃないんだけど......」
「ん~どうしよっかな」
こういうのは厄介ごとの気がして基本お断りなんだが一応日付を聞いてみた、多分、俺も彼女にシンパシーを感じていたんだと思う。
「――その日は駄目だな、旅行に行ってる」
生憎か幸いか――その日は丁度『ブルーサピロス島』に行く日だった。
「仮に会うにしても別日だ」
「そうなると結構遠い日になるかもね、みんな忙しくなるから」
「え、みんな?」
みんなって、え、そんな数いるの?
「そう、普段は会わないけど、年に数回会う機会があるの、せっかくだからその日に合わせたかったんだけど......」
俺一人で友達の友達の会に参加するとかどんな拷問だよ。
「......ちなみにそのみんなは魔導士なのか?」
「みんなではないけどほとんどは」
「う~ん......」
結局、いつ会うのかは決められずにアスティと連絡を交換することで折り合いのつきそうな日が出来たら教えて貰う事になった。
「じゃあなアスティ」
「今日はありがとうガルス」
俺とアスティはお互い手を振る。
「そろそろ本格的に準備しないとな」
ブルーサピロス島に行く日も近い。
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