第26話 誇り
何処かくらい場所にて片腕を無くし大蛇に巻かれている灰色髪の男が一人――ビフロンスである。
「ふぅ......危うく死ぬところだった」
大蛇がビフロンスを離れていく――
「本当じゃボケェ!」
バキッ
大蛇から人間の姿へと変容し黄緑の長い髪をした糸目の男が現れるとそのままビフロンスの後頭部を殴りつけた。
「何考えてんだ、こっちは冷や冷やもんだったんだぞッ」
「いってぇなマルティム!あぁ......クラクラする」
マルティム、と言われた黄緑の長い髪をした男は溜息を吐きながら続ける。
「あれは皆の息を合わせて成功する魔法なんだよ、あんな危機的状況で使わせんな、こっちが緊張するわ」
ビフロンスから渦を巻くように風が吹きそのまま実体化していくもう一人の美しい男。
「――その通りだ、いくら僕の魔法と彼の力を使っても発動までに相手にバレたら意味ないからね」
「セーレ、そのために俺が闇の霧を出して誤魔化してやったろ」
水色の髪をした美しい男、セーレはやれやれとした態度を取る。
「......棺の奪取は失敗しちゃったけど、どうするんだい?」
「アルセムがミスしたのは予想外だったが......まぁ仕方ない他を当たろう」
ビフロンスのその言葉にマルティムは意見する。
「良いんか、それで」
「良くはないがな、わざわざ魔導協会本部にカチコミするわけにも行かんだろ?」
「そうだね、いつかやるにしても、まだそれは時期尚早だ」
3人の話し合いは続き、今後の方針を語る。
「しかしその右腕はまだ生やせないんか?」
マルティムはビフロンスの右腕について話す。
「少し時間がかかるな、魔力を浪費しすぎた、それにあの女の魔法の所為だな」
「そんな強いんか」
「......変な魔法もあったが......なんというかあいつの魔力にも嫌な感じがした」
「嫌?」
セーレが話に入ってくる。
「魔力が特殊ということかい?」
ビフロンスは言葉を考えながら話す。
「いや、何というかじっとりしてるというか......もう魔力からねっとりしてんだよ......炎の魔法もこびりついてくる炎というか、もう気持ちが悪い」
「うげぇなにそれ」
マルティムはうげぇと思わず舌を出す。
「ちなみに次は勝てそうかい?」
「そうだな、次に戦う機会があったとしたら――あぁ」
ニヤリと笑い――
「勝つとも」
ビフロンスは煙草に火をつける。
「......とりあえず拠点に戻って、あいつにも相談する、そこで今後の方針を固めるとしよう」
ビフロンス、マルティム、セーレの3人は暗闇へと消えていくのだった。
■
マトラ遺跡での戦いを終えて数日後――
「......」
俺は病室で過ごしている、無理して魔力を絞り出したのが祟ったのだ。
他にサルザーが入院しているらしい、ザランは無理やり退院したようだった。
「なんだかあっという間だったな」
『虹の瞳』アルセム=リンペリオとの戦い、あれを俺が倒したという実感が湧かなかった、例の黒い『何か』のおかげではないか、という思いが沸々と湧き立ってくる。
「だからかな、あぁいう報告をしたのは」
今回の事をアルセムが言っていた事も思い出して少しだけ嘘を交えて報告した。
何せA級魔導士になったばかりの男が一人で『虹の瞳』のボスを倒したと言えば俺に何か秘密がある......と詮索されるかもしれない、もし俺の力に何かヤバいのがあるというのなら隠せるだけ隠していた方がいいだろうと思った。
サルザーが頑張ったおかげで倒せたことにした、これでも相当すごい事だが問題はないだろう、A級魔導士としての実力を示すのにはこれで十分すぎるくらいだと思う。
そんな事を考えていると。
トントン
ノックする音だ。
「はーい」
ドアが開くとソフィアが入って来た。
「どうも」
ソフィアは彼女が戦ったビフロンスという謎の男について軽く調べたみたいだがやはりよくわからないようだった。
「どうです、調子は?」
「変わらないって魔力を無理して出しただけだしな、もうすぐ退院だよ」
ちなみにソフィアの両手は激しい火傷を負っていたが、それ自体は既に回復している。
「お前はもう平気そうだな」
「回復は早いので、ほらもう綺麗で白い肌」
そういって俺の顔を手でスリスリと触ってくる。
「......やめて(こんなの外じゃ絶対にさせんぞ......)」
あ――そういえば。
「......魔導協会の本部に行ってたんだろ?どうだった、レイとかと会った?」
「......会いはしませんでしたが、レイさんの話題が多かったですね」
今回の事で一番名を上げたのはレイだ、棺を守り切り、町での戦闘も負傷者を最小限に抑えて見せた彼女の実力を下に見る奴はいない。
「しかしアルセムを倒したのだって話題になっても良いと思うのですが......」
死んだ組織のボスが実は生きていた、話題になっても良いとは俺も思うのだがな。
「......一度倒した相手でしたし、辺境の場所での事......恐らく皆さんは我々が対峙した者達を過小評価しているのでしょう」
ソフィアは明らかな不満を感じさせて来る、確かに驚きの事件ではあろうが、結局は一度は滅びた組織と死んだと思っていたボスがまた現れて討伐されただけ。
サルザーはアルセムを倒したことがある訳だから、今回の事件について他の奴らはサルザーがアルセムに致命傷を負わせて俺が倒したとかそういう解釈が起きているかもしれない。
「......レイを持ち上げるのもA級魔導士になったばかりなのにすごいとか、そのレベルなのかもな」
レイがジャウラ町を一人で守り切ったことで被害は少なく済んだ訳だが、逆に大したことのなかった相手たちだったと思われている可能性もある。
......そう考えると今回の事件のことが軽く扱われていることも頷けてしまう。
「他の人が何と言おうと今回の依頼を受けた人は知っています、貴方がアルセムを倒したことも、他の方のことも――全て誇るべきことのはず」
「......俺が倒せたのはそれはサルザーが戦ってくれてたからだけどな?」
「そうだとしても、『虹の瞳』の指導者を倒すという偉業が貶されて良いはずがないのです」
誇るべきことか......アルセムに立ち向かった事、誇ってもいいのか?......結局、その場の空気に流されただけだったんじゃないか?勝てた事の奇跡さえあれの力のおかげではないのか?
「......」
「もし貴方がそのことを後ろめたいと感じたとしても、胸を張ってほしい」
「......流されるままに戦っただけでもか?」
「どういう流れで戦ったのかは知りません、ですが――本当に流されて戦っていたのですか?」
「――」
『応えるしかないだろッックソったれ!』
そうだ、例えあれが勢いだったとしても、あの死霊に助けを求められて、戦ったこと、あの一瞬の奇跡の様な熱――あれは確かに俺が誇れる戦いだった。
今になって、そう思えて来た。
「......そうだな、ありがとうソフィア」
そんな事を話していると思い出したかのように、ソフィアがコートのポケットから封筒を取り出す。
「......話し込んでしまいましたが元々今回来たのはこれを渡すためでした」
なんだろう。
「姉さんから」
姉さんということはフローネスからか。
「フローネスから?そういうえばあの後どこへ?」
「もうどっか行きました、あの人は魔導協会の魔導士でもありませんし、次は何処で会うやら」
「え、魔導協会の魔導士じゃないの?」
「言っていませんでした?」
知らなかった、確かに彼女の話を魔導協会ではあまり聞いた事がなかったけど。
「その姉さんが貴方にと」
封筒を渡され開けてみる。
「席を外したほうが良いですか?」
「平気だろ、多分な」
中身はなんだろなと――
ん?
「これは......チケット?」
手紙も入っていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ガルス=アリオストへ
そのチケットは友人が手に入れた物だ、アタシはそういうキラキラした所にはいかないからお前にやるよ、何枚か入ってるから好きに使え。
フローネス=ベルバスターより
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チケットは2枚――
行き場所は――
『ブルーサピロス島』
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