第3章 ブルーサピロス島編

第27話 魔導協会では


 魔導協会本部


 そこのある大部屋には大きな円卓の机がありそこには数あるS級魔導士の中から選ばれた魔導士が座る、ただ多くの椅子は空席である。


 何せこのようなお堅い会議を嫌う魔導士は多い、必然ここにいるS級魔導士は真面目な魔導士が多くなる。


 薄暗く些か不気味さを感じさせるこの空間にビクビクと動く存在が一人。


「はいぃリリケル=メールンと申しますぅ」


 黒い髪に二つのおさげをして丸眼鏡をしている少女が円卓のテーブルに座る者達を前にビクビクとしながらも話を始める。


「えー、幸いにして死者を出す結果にならなかったこと大変に嬉しい限りでございますぅ、これも魔導士様により尽力があったおかげでしてぇ、頭が上がらないと申しますかぁ――」


 緊張からか長々と話すリリケル。


「そういうのは良い、早く話せ」


 それにローブを深く被った男が催促した。


「あ、はいぃ......今回の棺はジャレイドラという宮廷魔導士のものであったことが判明いたしましたぁ」


 リリケルは書類をめくりながら話す。


「それで宮廷魔導士ジャレイドラなる者について各機関と協力して調べた結果、それに該当する魔導士は判明いたしましたがぁ、数ある宮廷魔導士の一人で類まれなる召喚士......という文言が残るばかりでこの魔導士についての事はそれ以外は一切不明......ですぅ」


 リリケルは乾いた声で笑う。


「また棺について中身は空っぽでしてぇ他に目を見張る物はなく、今も絶賛調査中ですぅ......質問とかぁは......ないみたいですね」


 ははは、とリリケルは笑うと逃げるようにその場を去っていく。


 そしてもう一人男が現れると今度はアルセムの今後についての説明を行う。


「アルセム=リンペリオへの処断について、『虹の瞳』の切除及び回収はアルセムと完全に合一している為に不可能、またアルセムの死は禁忌についての希少な知識の消失につながる為に彼の死に繋がるあらゆる事は禁じられています、現在は監獄への移送を検討しております」


 一人の魔導士が手を挙げる。


「質問よろしいかな?」


 白髪頭に眼鏡をかけたちょび髭、スーツを着た年配の男、メセト=ランズデール。


「......アルセムと最初に戦ったのはサルザー......そしてガルス=アリオストがとどめを刺したのは確かだね?」

「はい......サルザーと戦闘をしたアルセムはそのままガルスとも戦い、そして決着をつけたと報告を受けています」


 サルザーとガルスのみがアルセムと戦闘をしている、他に目撃者はいない、サルザーは初めに戦った後のことは全てガルスに聞いた結果である、アルセムもその事を否定しなかったためにこれは確定だろうと思われていた。


「ありがとう、続けたまえ」


 メセトにはアルセムがそう簡単に倒されるような者には見えなかった、サルザーは遠距離魔法を得意とした魔導士、『虹の瞳』とは相性が悪くかったのではないかと。


「アリオスト家か......」


 アリオスト家、魔竜の力を持つ一族でその力を用いて竜飼いをしていたがベルバスター家の傘下として100年前から魔導士の一族として活動している。

 100年前、アリオスト家とベルバスター家との間に何らかの取り決めがあり、その結果としてアリオスト家はベルバスター家の傘下として庇護されてきた。

 そういった関係は今も続いている。


「魔竜の力が『虹の瞳』に有効だった?」


 メセトは色々と考えながらもどうにも納得いかない。


「......」


 ガルス=アリオスト、彼の存在は覚えておくことにしよう――


 メセトは眼鏡を光らせてそう思うのだった。



 ■



 無事退院した俺は魔導士としての仕事に励んでいる。


「『ファイアボール』」


 俺は相も変わらず遠距離は魔法は当たらないので結局は近接戦をすることになるのも変わらない。


「......あの場面では拒否できないよな」


『ブルーサピロス島』へのホテル宿泊チケット2枚、それを渡された時、まず思ったのは誰を誘うべきなんだろうということ、あまり親しい友達はいなかったし、で思わずソフィアの方を見ると、ソフィアは明らかにあのチケットを羨まし気に見ていた。



『......どうだ行くか?お前が良ければ』

『ガルス君が良いのであれば』



 ポーカーフェイスを決めていたが喜んでいたのは長い付き合いだからわかること。



 ......まぁそんな訳で二人で行く事になったのは良いが旅行に行くのは少し先だったので今はこうして依頼をこなしている、せっかく旅行に行くのだから小遣い稼ぎもしておきたいしな。


 幸いにしてマトラ遺跡の件もあったからか俺への評価も多少は改善されているのである程度の依頼なら出来る、しかしS級魔導士同伴だったから思ったよりも評価はされてないみたいだ。


 試験の事がまさかここまで尾を引くとは思わなかった。


「とりあえずこれで終わり、簡単な依頼なのにここの依頼主羽振り良いから助かるよ」


 今回の依頼はある豪商の別荘の裏山にいる魔物退治だ、難易度としてB級もないはずだがここの人は金持ちでキチンと働いてほしいからなのか大金払ってA級以上の魔導士を所望している、しかし実際の難易度はB級以下、つまり俺にはうってつけの依頼という訳。


 そんな事を考えながらゆっくりしていると遠くの森から――


 ドーンッ


 爆発音が響くとともに黒煙が空に伸びていく。


「なんだ?」


 空を見上げながらつぶやく、誰かが魔法を撃ったのだろう。


「誰か助けてッ」


 ――誰か襲われてるのか?


「......」


 他に人もいないだろうし流石に無視するわけにもいかない、場所も俺のいる場所からは近いようだし、つまり俺が行くしかないな。



 はぁ、と少しだけ気後れする――しかしそれはすぐに立て直す。



「――いま行くぞッ!」



 聞こえるかわからないが叫びながらその場所へと走っていく――

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