第3話 命が軽い


 大王カマキリ、個体差はあれどB級魔導士ならば倒せる魔物である、故に魔導士たちも油断こそしないがそれほど危険な魔物だという意識はない。


「見つからないな、そっちはどうかな?」

「いません、大量発生という話は本当なのでしょうか?ねぇそっちは?」


 この魔導士3人組も同じ考えだった、大王カマキリは油断ならないが前衛と後衛が連携すればそこまで難しくない相手という認識だった。


 だから油断した――


「いや、いな――」


 後ろを見れば大王カマキリが静かに佇んでいる。

 およそ2mの巨体なそれを見れば普通の大王カマキリとは違うということはわかったのだ、即席とはいえ出来た仲間を置いて逃げようかと判断するも――


「――ぁ」


 逃げる隙はない、後ろへと退いた瞬間に鎌が右の肩から左横腹まで切り裂かれていく――


「――『ファイa――ッ」


 身体を引き裂かれても魔法を行使しようとしようとする意志も虚しく首を撥ねられる。


 まず一人、B級魔導士としては優秀で将来を有望視されていた一人の魔導士はこうして死んだ――


 他二人の魔導士はその様を見てパニックに陥り、逃げようと背中を見せるがそれこそ隙を見せる事となり逃げていく二人の背中へ目掛けて、大王カマキリは突進しそのまま大鎌二つを交差して切り刻む――


 B級魔導士計3人、およそ1分ほどの戦闘で全滅。


 大王カマキリは新たな獲物を求めて徘徊を開始する。


 ■



 大王カマキリと冷や冷やしながら戦闘中。


「危ないなッ虫の癖に」


 一体この試験内容を考えた馬鹿は何処の誰だ!

 こいつ、A級相当はあるぞ!


「ちッ」

「キリリッ......」


 まるで......歴戦の剣士気取り、こいつは俺の攻撃を警戒して間合いを取ってくる。


 奴の鎌の振り下ろしを右に避けて――


「『竜腕』」


 バキンッ


 炎を腕に纏い勢いのままに奴の鎌を叩き壊す!竜の力は既存生命なんか訳ない、だって竜だから!それをもろに受けて、虫如きが無事な訳ない!


「キィィィ」


 大王カマキリの金切り声が響き、右の鎌はピキピキと割れていき、そのまま崩れ去っていく。


「良し......――ッ」


 右の鎌を巻き添えにするように左の鎌が俺の首に真横に振り払う――


「――なッ!」


 ジャンプし回避――


「ッ自分の右鎌諸共に俺を殺す気とか――」


 腕に魔力を込めていく、こいつに生半可な攻撃だと殺しきれないかもしれない――


「頭を狙う」


 竜の腕を形成していく。

 腕が竜の爪のような物に覆われていき、それを手刀のようにして――


「竜刃』」


 一閃――


 そのまま奴の頭部を俺の手刀で切り飛ばした――


「決まっ――うぁ」


 緑色の血しぶきが飛んできた......。



 ■



「とりあえず、一匹は討伐完了っと」


 大王カマキリの頭部を風呂敷に包んでおく、これで最低限のノルマは完了した。


「しかしあれがそこら中いるとしたら......」


 今回の試験で多くの死人が出ているかもしれない。


「......運がなかったとしか言えないな、仕方ない魔導士のB級なんだ死ぬ覚悟くらいあっただろう」


 しかし協会も杜撰だ、魔導士に死は付き物とは言えこういう危険な試験が出たという話は聞いた事がなかった。


「とりあえず夜だしとりあえずあまり動かないように――」


 迂闊に動かないようにと考えていると近くで物音が聞こえて来る。


「なんだ?」


 魔物だろうか......違う。

 聞こえて来る物音や話し声から人であることがわかった。


「これは何か急いで......いや逃げてるのか?」


 というか音がどんどんと近く、こちらに近づいてきている。


「やばいやばい!」「ひぃッ......」


 数人ほどの魔導士は一部は血で汚しながら逃げ着て来た。


「何があった?」

「大王カマキリだよッ普通のじゃないッ!」


 少し話を聞くとどうやらこいつらは大王カマキリから逃げて来きたらしい、一人殿を務めてくれた魔導士がいたおかげで助かったようだ。



「何してんの、早く逃げてッ!」



 奥から走ってきたのはベージュ色のキャスケットを被った緑のショートヘアーの少女だ、長袖の服と長ズボンにポシェットをぶら下げていて一見はただの子供だ、しかし長い刀を持ちながら走ってくる、ところどころには魔物の返り血で汚れていた。


「来てるよッ沢山!」


 彼女の言葉の言う通り逃げて来た魔導士はそのまま走り去って行く。


「はいッ!?」


 俺も言われるがままに走る、確かに奥から今まで聞いたことのないような音が聞こえて来る。


「沢山ってどれくらいだ?」


 同じように並走して刀を持った魔導士に話しかける。


「ちょ、離れて逃げて!近くにいない方が良い」

「なんでさ」

「仲間の血に誘われてるみたいだから、派手に血を浴びたのがまずかった......」

「――なるほどな、お前は返り血を浴びてるから引き寄せてると......」

「だから君も逃げた方がいいよ、あんまり強くないんでしょ?」


 強くないとか思われてる......公にコネがバレるってこんな感じなんだな。

 こいつは強いようだから一人でもどうにかなるだろうが流石に少女一人おいて逃げるのは無いカッコ悪い......何より――


「逃げたいけどな、お前と同じ状況なんだよ」


 仲間の血に誘われて来るってことはあいつの血をガッツリ浴びた俺にも襲ってくる訳だ、拭いたくらいじゃあ意味ないだろう。


「え?」

「つまり――」


 ガンッ――


 真横から隙を狙っていたであろう大王カマキリによる飛び出しからの振り下ろし――


「わ――」


 その不意打ちによる攻撃は左手で魔導士の並走を止めさせた事により回避、そして大きく振りかぶった攻撃を外した為に地面に鎌は突き刺さり隙を見せた――


「――ふんッ!」


 その隙を逃さない――


 ブシャッ


 魔力を込めた拳で頭部を地面に殴りつけ――


「死ねッ」


 グチャ


 そのまま大王カマキリの頭は踏みつぶすと、地面諸共に頭は粉砕され小さなクレーターが出来上がる。


「俺......既に返り血浴びちゃってたのよ」


 魔導士の方を見る、少し驚いている様子だった。


「怪我とかは......してないな、よかった」

「うん、大丈夫......ありがとう」


 しかし相当汚してしまった、これじゃあ拭くくらいじゃ無理だろう。


「......まずい来てる」


 レイの言葉を聞き思い出す。


「......ぁ」


 そういえば俺たち逃げてたんだった......


「ちょっとチンタラしすぎたか」


 もう既に近くまで寄ってきていた。

 月光に照らされる大王カマキリは些かパニック映画に出て来るモンスターだ、わかるだけでも10匹はいるだろうか。


「......っ」


 油断したか、俺は複数相手にするのは苦手だし逃げるにしてもさっきみたい事が起こるリスクがある。


「不味いな......こりゃ共闘かな?」

「そうみたい......私はレイ=グリンドっていうんだけど、君の名前は?」

「ガルス=アリオスト」


 レイは刀を抜刀する。


「実はこいつら全滅とかできたり?」

「俺はあんまり強くないんじゃなかった?」

「む、そういうのは今関係ないんじゃないかなぁ、根に持つタイプ?」


 レイは俺を軽く睨むと敵の方を見た。


「でっ実際どうなのかな、あれ本気じゃないでしょ?」

「いや無理......ある程度減らしたら川まで逃げよう」


 まぁ実際は頑張れば全滅は出来るかもだろうが、血に誘われ数が増えると面倒くさい。

 だから川に逃げて血を洗浄して再度時を待つという作戦は提案した。


「わかった」

「あぁ、隙を作って逃げる時は一緒にだぞ」

「もちろん、一人で逃げるとか無しだからね?」

「しませんって」


 それじゃあ――レイと一緒に大王カマキリ共と戦ってやろうじゃないか!

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