第8話 地下ダンジョンの宝箱


 出てくる魔物は低レベルなので、Bランクの殿下たちなら苦戦することはないはず。

 序盤でしかもまだ勇者になっていない状態だと、冒険者ギルドにそもそも登録すらしていない状態だから。

 そう考えるとちょっと安心だけれど、もしここで置いて行かれたら詰む。

 出てくるミニマムドッグという魔物は、数は多いけれど殿下たちが剣一振りで倒してしまうのでほぼ無双に近い状態となっている。

 この洞窟でレベル10まで上げると後のボス戦で余裕ができるからと、沢山ミニマムドッグを狩りまくった前世の記憶が頭をよぎる。

 ちなみに今の私のステータスはこんな状態だ。


『ローズクオーツ

 職業:学生 マーランド伯爵家長女

 レベル:19

 スタミナ:69%

 体力:101

 魔力:303

 知力:89

 防御:35

 俊敏:27

 器用:41

 運:39

 スキル:詳細鑑定 全属性初級魔法

 ――――――』


 一言欄はプライベートなので割愛。自分にはハートの好感度情報はないとだけ言っておこう。

 勇者候補の子やライ君と比べると、レベルの割に弱い。鑑定を使うと経験値が貰えるのか、レベル自体は上がっていくしその分ステータスも底上げされるんだけれど、スキル内容によって偏るんだよね。あとは好き嫌いとか得意不得意とかでも変わってくる。ライ君の魔力千越えなんてでたらめ過ぎて笑いすら起きない。

 運なんてたまに上下するから、下がっている時は大人しくするのが無難だというのを私は今まで生きてきて学んだ。

 今日の運は悪い方じゃないんだけどな。勇者候補の子も結構運が高かった気がする。もしかして勇者回避は運がいいってことなんだろうか。

 体力というのはHPのことで、魔力っていうのはMPのことだと思う。通常満タン時私のMPは400超えだから、そこら辺とか鑑定しているせいで下がっているのだ。魔力だけは高いんだけどね。攻撃用魔法は不得意らしく、憶えても初級どまりなんだ。

 でもこの洞窟なら初級魔法でも行けるかな。

 少しは貢献しないとお荷物になってしまうのが心苦しい。

 グロリア様は攻撃魔法がお得意らしく、シーマ様と共にガンガン魔法を使っているから、何もしていないのは私だけなんだ。


「ここからちょっと先に宝箱が……」

 

 あったはずで。

 やり込んだマップを思い出していた私は、無意識に呟いていたらしい。後ろにいたアレックス殿下がすぐに食いついた。


「なにそれ! 宝箱あるのか⁉ うわラッキー行ってみよう! いいの出るといいな」

 

 ワクワクしながら先頭のザッシュ様に指示を出す。


「宝箱って、どこだよ」

 

 ザッシュ様にツッコまれて、殿下はグリンと首を回して私を見た。

 やっちまったという気持ちは顔に出てないといいな、と思いながら、私はそっと前の方を指さした。


「な、なんかよくわからないけど魔力っぽいものがあるようなないような……?」

「ローズクオーツ嬢が言うなら間違いないな。よし、ザッシュ、行け!」

「死なばもろとも」


 まるで犬にするような指示に鼻を鳴らしたザッシュ様は、不穏と言えば不穏な発言をかましてくれた。

 死なないから。死なないし、序盤宝箱だからショボいのしか出ないから。

 期待値高めな殿下の顔を見て、心の中で謝る。


「ローズクオーツ様はすごいのですね。魔力を感じることができるのですか。ああ、じゃあ、私が転びそうになるのも、魔力の動きで……!」


 そしてグロリア様は感動したように手をポンと打った。


「違います。グロリア様の動きを予測して予防しているだけです」

「グロリア嬢の動きを予測できるのもそれはそれですごいことだと思う」


 シーマ様真顔のツッコミに、グロリア様はうんうん同意していた。いやいや、そこ同意するところじゃないから。可愛いなおい。


「よし、ローズクオーツ嬢は優秀ってことで。宝箱に行こう!」


 この国の第三王子であるはずのアレックス殿下の目が、何やらお金マークになっている気がする。

 一番お金に苦労しなそうな境遇のはずなのに。尊い方たちも色んな苦労があるんだな、とちょっと同情しながら、ルンルン先頭を進み始めた殿下を皆で追った。

 程なくして、ゲーム内でもあった場所に、宝箱はあった。

 古く所々錆びていて本当に開くのか心配になるほどに朽ちかけているそれは、宝箱なのかそこら辺にある背景と同じようなボロ箱なのか区別するのが苦労する見た目だった。

 ザッシュ様が剣でゴンゴン叩いてみたり、突いてみたりして、罠の有無を調べている。罠はないよ、とは言えないジレンマに、ただ殿下たちが宝箱を開けるのをじっと待った。

 出てきたのは、初級ポーションだった。


「初級ポーション……」


 アレックス殿下ががっくりと肩を落としている。そうだよね、ショボいよね。でも「星火の乙女」には初級でも上級でもポーションなんてアイテムなかったからね。ごちゃまぜすぎてわけわからないよ。

 それでも、初めて見る現物のポーションは、私にとってはそれなりに感動する物だった。

 瓶が綺麗。緑色の液体も、思ったよりも澄んでいて綺麗。味はどうなんだろう。


「アレックス殿下、それ、ちょっと見せて貰ってもいいですか?」

 

 出来れば本物を見たい。

 RPGの世界であれば、外ですぐに手に入るんだろうということは想像つくけれど、でも実際手に取って見てみたい。しかも宝箱から出て来たやつだよ。

 殿下は「どうぞ」と躊躇いなく私に瓶を渡してくれた。


「これ、皆様飲んだことありますか?」

 

 ポーションをマジマジ観察しながら皆に訊くと、冒険者Bランクの三人は「もちろん」と頷いていた。


「味ってどんな味なんですか? どれくらい回復するんでしょう。怪我とか、本当に治るんですか?」

 

 矢継ぎ早に目の前にいたアレックス殿下に訊くと、殿下は私の剣幕に引き気味に答えてくれた。


「そうだな……味は、草っぽい味がするかな。小さな傷くらいならそれを掛ければ綺麗に治るけど、深い傷にはほぼ効かないな。腹に穴が開いて臓腑が見えるくらいの傷は上級でようやく治せるからな」

「臓腑の話は聞きたくありませんでした……」


 殿下の腹から内臓がはみ出した想像をしてしまって血の気が引く。

 

「あ、ごめん、はみ出したのは俺じゃなくてザッシュの方な」


 それはフォローとは言いません。

 青くなりながら、手の中にある初級ポーションをサッとグロリア様に差し出した。

 グロリア様はいつでも生傷が絶えないから。きっとおうちでポーションを使っているから次の日には傷が消えるんですね。さすが公爵家。

 初級ポーションはひよっこでも手に入れるのはそこまで大変じゃないけれど、上級ポーションになるとかなりお高いから。終盤のバンバンお金を稼げるようになった状態で使うものだしね。


「これ、グロリア様に差し上げてもいいでしょうか」

「まあ、私に?」


 グロリア様は首をかしげていたけれど、他の人たちは納得したように満場一致で頷いてくれた。

 折角宝箱から出て来た初級ポーション、有意義に使えることにホッとした。

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