第6話 生徒会と一緒
振り返ると、そこにはグロリア様がいた。
「ローズクオーツ様、お願いがありますの」
「お願い、ですか?」
「ええ」
グロリア様は頷くと、後ろへちらりと目配せした。
そこにはライ君を抜かした生徒会メンバーが勢ぞろいしている。先程までそこで説明をしていたから当たり前と言えば当たり前なんだけれど。
「私達は一年生だけではなく、上級生もフォローしないといけないのです。ちょっと手が足りなくて、もしローズクオーツ様がよければ手伝って貰えないでしょうか」
お願い、と胸の前で両手を合わせられて、頷かない人はいない。
「私でよければ力になります」
「良かった。じゃあ、ローズクオーツ様は私達と一緒に行動しましょう?」
こっちよ、と手を繋がれて、自然と顔がほころぶ。
グロリア様はあんなことを言っていたけれど、多分私が独りだったことに気付いて気遣ってくれたんだ。生徒会のメンバーの方々が。
皆笑顔で私を歓迎してくれる。
そのゴージャスな輪に入りながら、嬉しくて顔のゆるみがなかなか戻らなかった。
周りの子たちがチラチラ羨ましそうにこっちを見ていたけれど、まったく気にならなかった。
ザッシュ様を先頭に森の中を歩く。
さすが騎士団長の息子というか、剣を振る姿はとても様になっていて、小さな魔物が出てきても一刀両断してしまう。
「さすがザッシュ様、安心感が違う……」
「そうですわよね。ザッシュ様は強いんですのよ。この間、冒険者ギルドのランクがBランクになったとおっしゃっていましたわ」
「冒険者ギルド……」
またしても「星火の乙女」では聞き慣れない、けれどRPGではおなじみのワードが出て来た。
あれえ、冒険者ギルドなんてなかったよね。学園もの乙女ゲームでギルドランクとかおかしい。
半眼で先頭を歩くザッシュ様を見ていると、斜め前から「僭越ながら、僕も一緒にランクアップしたよ」とシーマ様までそんなことを言い出した。ということは、と後ろを向くと、殿(しんがり)を務めていたアレックス殿下もサムズアップした。
「俺もBランクになったよ。ザッシュとシーマと三人でロックリザードを討伐してきたんだ」
「ロックリザード……」
それってRPGの中盤で岩場によく出てくるめっちゃ固いトカゲですね。レベルが低いと攻撃が全く通じないし、そもそも魔法が効きにくいやつ。
普通はハンマーとか斧でガンガンぶっ潰すんだけれど。
「三人とも剣ですか?」
「俺とザッシュは剣、シーマは魔法が得意」
「どれもダメージ通らないやつ……! どうやって倒したんですか……! 筋肉ゴリラ?」
天を仰いで思わず呟くと、それを聞いていた全員が噴いた。
グロリア様は肩をプルプルさせて笑いをこらえている。筋肉ゴリラと何度か呟いていたので、ツボに入ったらしい。
「ザッシュが大剣を持ってったからガンガンやったんだけど、ローズクオーツ嬢何やら魔物の生態に詳しいね」
「あ、いえ、それほどでも……本を読むのは趣味なので……」
RPG知識はだいぶ頭に叩き込んでますよ、とは言えない。
魔物はだいたい網羅していて、弱点なんかもわりとわかるけれど、このヤバめメンバーにどれほど情報を出していいものか悩む。
信頼はね、できるんだよ。本当にいい人達なんだけど、ライ君がどんな立ち位置の魔王なのか全くわからないから生徒会室ではあまりこんな話は出来ないんだ。
「本かー。俺、本を読むと眠くなるんだよな。ローズクオーツ嬢は勤勉だな。まあ、学年でトップならそうなのかな」
「アレックス殿下も成績はとてもいいと聞きましたが」
「俺は前の日に徹夜で頭に叩き込むから。結構必死。だよな、ザッシュ」
「そうですね。付き合うこっちの身にもなって欲しいところです。寝不足で何度試験中に寝そうになったことか……」
アレックス殿下の軽口に、ザッシュ様も真顔で乗ってくる。
「いや逆に前の日だけでトップクラスの成績が取れる方がすごいじゃないですか! 私はコツコツやらないとすぐに成績が下がってしまうんで……そのせいで目が悪くなり絶望した顔の母は今も鮮明に思い出せます」
「ぶっは!」
おおよそ王族ではありえない噴き出し方をしたアレックス殿下は、ひとしきり腹を抱えて笑った後、涙目の状態で顔を上げた。
そんなに笑う程楽しい話をしたっけ。と首を傾げつつも足を進める。
途中途中グロリア様は木の根っこに足を取られ、何故か結ばれた草に足を取られ、ぶら下がっていた蔦に絡まり、その都度近くにいたシーマ様に助けてもらっていた。
「きゃっ」と上がる悲鳴はとても可愛い。思わず手を差し伸べたくなる悲鳴だった。
私が足をとられて悲鳴を上げた時はつい「うおっ」という女性にあるまじき声を出してしまって皆の笑いを取っていたのに。
今日は皆笑い上戸すぎない? 和やかでとても楽しいけれど。
どうなるかと思われた新入生歓迎会の道のりはとても順調に進んだ。
お昼は持参して来たので、途中の開けた場所で皆で休憩がてら昼を取る。ランチを持ってこなかった一年生用にと上級生たちが休憩所ごとに炊き出しをしているらしく、アレックス殿下に勧められるまま一杯だけ貰い、美味しいスープを味わった。
休憩所はかなり人でごった返していたけれど、殿下たちのオーラがキラキラ過ぎるのか、話しかける生徒はいなかった。視線は刺さりまくったけどね。
ご飯を食べ終わって疲れもとれた私たちは、荷物をしまってまた進むことにした。
生徒会は見回りがてら進むので真っすぐ進むわけではなく道から外れたりもする。
ヘルプの合図が上がればそっちに足を向け、その場所に辿り着いたら手を貸し、もしくは辿り着く前に解決の合図が出たらまたそこから先に進む、ということを繰り返しているうちに、周りに生徒たちの気配がなくなった。
シーマ様が持ち物の地図を開いて、今いる場所をチェックしようとあたりを見回す。その地図はどこに誰が待機してどこにトラップをセットしたかが事細かに書かれており、手助けした場所、解決した場所もしっかりとメモされていた。さすが書記。
「でもこれ、私が見ちゃっていいんですか?」
シーマ様の地図から視線をずらしながら訊くと、シーマ様は「いいよ」と苦笑した。
「僕たちと一緒に行動している時点でローズクオーツ嬢は生徒会として動いていることになるから、大丈夫。それよりも楽しめているのかが心配だよ。ごめんな、手伝いさせちゃって」
「それは大丈夫です。皆様のお話がとても楽しくて、こんなに楽しんじゃっていいのかなって思ってますから」
「うんその言葉は君に返すね。真面目そうだと思ってたけれど、実は全然違うよね」
「この上なく真面目ですよ」
本を読んでいたら友達を作れなかったくらいにね。と遠い目をすると、グロリア様がそっと私の両手を握ってくれた。
「私達、お友達ですわ。私も今日がこれほど楽しいものになるとは思いませんでした。それもこれもローズクオーツ様のお陰です」
「お友達……」
グロリア様の慈愛の言葉に、胸に熱いモノがこみ上げる。
握ってくれた手はとても綺麗で、私と同じ生き物とは思えない。けれど、そんな素敵なグロリア様がお友達。
「最高に嬉しくてハッピーです」
本気の答えを返したら、またしてもアレックス殿下が噴き出した。
「真顔でそんなことを言わないでくれ。毎回ツボすぎて腹筋痛い……」
「私そんな面白いこと言ってないですよね⁉」
「いや、俺もだいぶ面白いと思う」
今度はザッシュ様が真顔でそんなことを言った。キングオブ無表情はザッシュ様なのに。その呟きは、更にアレックス殿下の腹筋に直撃したようだった。
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