第48話 勇者召喚のアイテム

 蔑んだ笑顔って本当にヤバいな、と改めて思う。どれだけ綺麗でも、一瞬にして可愛くなくなる。

 もしこの表情をグロリア様がしたら……その想像をしてしまい、変な声が上がりそうになるのを口を押さえることで必死で止めた。

 グロリア様の悪役ムーブ、胸がキュンキュンする。女王様! 女王様がいた……! こんな小物感満載の方じゃなく、本物の女王様だった……。可愛い。さっきの考えは間違いでした。出来る人があの表情をすれば、とても映える。きっとシーマ様もメロメロで踏んで

下さいとかその美しいお尻に敷かれたいとか言いかねない。

 私があの表情をすると緊張して泣きそうででも笑わないといけない小物にしか見えない。多分。笑いしか取れないね。


「貴女、情報は大事よ? 最近、とても風が強いと思いませんこと? あれは勇者様がたが風の精霊様を無事お助けしたからだという情報でもちきりでしてよ?」

「あ、あの、差し出がましいことを……申し訳ありません」


 青くなって小さくなる女生徒を見下ろしたマリーウェル嬢は、クラス内をぐるりと見回した。


「何か有益な情報はないかしら?」

 

 マリーウェル様が私をじっと見てくるけれど、私も情報は欲しい方だからね。そこら辺はこの国の人にお任せするよ。

 情報を集めたあとは、殿下たちをどうするのかがまた問題になると思うから、きっと皆忙しくなるよ。

 私もこの学校の書庫で色々と探そう。ドッケ……違った。色んな情報を。

 マリーウェル様は周りを見渡すと、ではこうしましょう、と手をポンと叩いた。


「精霊様のことを調べる時間を設けましょう。そうですわね……二日後、情報を持ち寄り精査しましょう。よろしいかしら、先生」

「まあいいだろう。二日後にまたホームルームを儲ける」


 各自調べてくるように、と最後だけは先生がまとめ、マリーウェル様は席に着いた。

 この行事が終わらないと大々的に動けないっていうのがキツい。

 来月は絶対にセルゲン国に行ってやるんだ。青い空、広い海、でかい海鮮……。

 ああ、勇者なんて呼ばなくていいから、無難に展示物とかで終わらせたい。むしろ殿下たちが喜ぶものなんて見つけられない方が平和なんじゃ……。

 何事もなく終わってくれないかな、学園祭。




 なんて思っていた時期もありました。

 我がクラスの生徒は、やってくれました。

 アレックス殿下が「顔出すしかないか」という情報を持ってきた生徒がいたんだよ。

 それはあのマリーウェル様……ではなくて。

 よく図書室で会う同じクラスのメガネ男子が、精霊の歴史的な本を図書室の奥にある古書の中から見つけてきたんだ。

 学園の了承を得て、来てくれるならその本は差し上げる、と言う約束まで学園長と取り交わしたらしい。有能。

 見た感じ本当にボロボロだったけれど、あれはあれだ。スピリットクリスタルの解体新書なる分厚い攻略本の中に書かれていた精霊様と悪魔たちの確執がずらずら書かれたものだった。

 内容はわかる。

 でもその本は、現代では使われていない古代の文字で書かれていた。多分兄さんなら読めるけど、私は単語がわかる程度。でも挿絵がちゃんと入っていて、その挿絵はバッチリ見たことがあるので、内容はわかる。

 そして、そのメガネ男子は、ちゃんと古代の文字が読めた。有能。


「内容は、昔は悪魔と精霊は同じ世界で隣り合って暮らしていたことが書かれています。授業では習わない歴史のようなので、もしかしたら勇者様たちも納得いただけるかと」


 その説明を聞いたマリーウェル様は、ちょっといらだったようにそんなボロを……と呟いている。

 もしかしたら自分が一番すごい情報を持ち寄れなかったから?

 ちなみにマリーウェル様はとても誇らしげに風の精霊様のいるダンジョンの見取り図を提出してきた。もう入っちゃったから正直いらない情報だ。ってかマリーウェル様が風の精霊様が解放されたことを言っていたのに。家宝だとか何だとか教えてくれたけど、私の情報の簡易版だった。

 それが殿下たちのもとに届けられたんだけれど。


「俺この文字読めないんだけど。読める人~」


 殿下の問いに、誰一人手を上げなかった。

 私ももちろん上げなかった。内容はわかるけれども。

 すると、皆の視線が私に集中した。


「ローズ嬢も読めないの?」

「読めません。多分兄さんならかろうじて読めるとは思うんですが」

「ノア優秀過ぎん? 領地継がないで王宮にずっといて欲しい」

「兄さんに伝えておきますね。きっと泣いて土下座して喜びます」

「それ本当に喜んでんの?」


 尊い方と友人になっただけでもう名誉ですからね! と拳を握ると、殿下が苦笑した。


「面白そうだからぜひこれがいいって言ったの失敗だったかな。俺は絶対にローズ嬢が読めると思ってたから」

「文字は読めませんけど内容はたぶんわかりますよ」


 まあもしあのエピソードが乙女ゲーム仕様になっていたらお手上げだけど。

 私はボロボロの本を壊さないようにそっと開くと、あの人も殺せそうな分厚い攻略本のページを頭の中でめくった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る