乙女ゲームのサポートキャラなのになぜか攻略対象者とRPGシナリオ攻略しています⁉
朝陽天満
第一章
第1話 プロローグ ゲーム開始の季節になりましたね
春爛漫。
なぜか桜の花が咲き乱れた遊歩道には、同じ制服の生徒が溢れかえっている。
どうして桜が咲いているのか。
この国の名前はマリウス王国。そしてこの学園は「王立セントラ上級学園」。
日本ではない。
日本ではないのに桜が咲いていることに違和感を持っているのは、きっと私一人。
皆何事もなく桜並木の間を歩いている。
私も、皆に埋もれながら、学園への道を進んでいく。
今日からセントラ学園に通うのだ。
王立セントラ学園。ここは、平民から貴族まで広く門戸を開く、剣や魔法を極めたい若者が集う王家が設立した学園。
乙女ゲーム『ヒロイックスクールファンタジー星火の乙女』の舞台となる学園である。
今日からこの王立セントラ上級学園、略してセントラ学園に通う私は、前の方でチラチラ見えている桜色の髪を遠目で追っていた。けれど、決して近付きたいとは思わなかった。
あの長い桜色の髪の持ち主は、先程説明した『星火の乙女』ヒロインちゃんだ。絶対に。
どうしてこんなことを知っているのかというと、私が前世の記憶持ちだからだ。
私はマーランド伯爵家長女、ローズクオーツマーランド。
とてもゴージャスな名前に反して、見た目は地味。
小さいころから読書好きでついつい本を読み耽り、視力が落ちて、バッチリ眼鏡っ娘。髪と瞳はハニーブラウン、と言えば聞こえはいいけれど、明るめのくすんだ茶色だ。
こんな桜の花びら舞う素敵な背景に埋もれてしまう程の地味さ加減。溜息が出る。
前世は日本という、こことは違う世界の一つの国で研究員をしていた。研究はとてもやりがいがあったけれど、恋愛や家庭を顧みる時間はない。寂しいお一人様だった。
休日は働き詰めで疲れ切った身体を休ませるためだけにあるんだと本気で思っていたほどだ。
学生時代はゲーマーとしてブイブイ言わせていたのに、大学を卒業して仕事をし始めたらゲームをする時間すらほぼ取れなくなってしまった。仕事の休憩時間にアプリを起動して少しずつアプリゲームはするけれど、コンシューマーゲームの壮大さはアプリでは味わえない。あの壮大さがとても好きだった。
使いどころのないお金を使って最新のゲーム機器を手に入れ、溜まった有給を使って大好きだったあの壮大なRPGの世界を堪能していたのは憶えている。久し振りにゲームに燃えた。
その傍らでちまちまやっていたアプリの乙女ゲームを周回させていた。放置できて、短い休み時間にコマンドを入れれば話は進められるお手軽ゲームだ。
大画面に荘厳な景色を展開しているRPGは、学生時代私がとても嵌ってほぼ全キャラレベルカンストさせ、薬師錬金レシピを百パーセントまで上げたやり込みゲームだった。
どうしてこんな説明をしているかというと、私の死因がそのゲームをしている時に住んでいたマンションがガス爆発を起こして瓦礫に潰されたからか何なのか、この世界があのアプリの乙女ゲームの世界だったからだ。
けれど、あの時起動していたゲームは乙女ゲームともう一つあったんだから、どうせならRPGゲームの方に転生したかった。あっちは冒険者ギルドもあるし、魔物をガンガン討伐するし、ギルドランクを上げてレベルを上げると様々な職に就けるし、やれることは無限大。こっちは単なる学園物乙女ゲーム。魔物を倒すでもなく、学園内の問題を解決して、一緒に頑張った攻略対象者と恋愛をするだけのゲームだ。もちろんお相手はとても地位が高くて、恋愛成功すれば安泰間違いなしなんだけど。
実際に同じ名前の学園があって、ヒロインちゃんらしき人を見掛けちゃったら、もう疑いようはないよね。
門から校舎までゆっくりと歩きながら、私は盛大に溜息を吐いた。
「どうしてサポートキャラになっちゃったんだろう……」
あまりの地味さに溜息を禁じえない。
周りを歩く生徒たちは皆、可愛らしく髪を飾り、もしくはきりりと背筋を伸ばし、とても輝いて見える。
反する私はまるで疲れ切ったおばさん。中身が疲れ切っているからかなんなのか、輝きを全く発していないのは自分でもわかる。
そう。私は乙女ゲームのサポートキャラ。
ヒロインちゃんと同じクラスになって仲良くなる、サポートキャラ。一部では、いや、大概の攻略サイトで「ヒロインちゃんの引き立て役」と言われていたサポートキャラ。
あの眼鏡が主役の顔でにこやかに「○○様は今の時間あの授業を受けているよ」なんてセリフは、ストーカーなんじゃないかとまで言われたほどだ。
役に立つのよ。お目当てのお相手を探したり、相手の好きな物をリサーチするには。でもなんでそんなに詳しいのか。地味な見た目であまりにも詳しい情報に、こいつガチもんのストーカーじゃね? とプレイヤーに言わしめたキャラが今の私だ。
実際私もちょっとだけそう思ったけどね。
本人になってみてわかった。別にこの子、いや私はストーカーじゃなかった。
私、だいぶ詳細な鑑定眼を持っているのだ。でもそれは家族以外には知られていない。知られたら国にとられて帰ってこないと家族が頑なに信じていたから。
戦えるわけじゃないし、魔法が得意なわけでもないし、ちょっと物が詳しく見れるだけで大げさな、と思ったら、鑑定を使える人は大抵大商人か国に抱え込まれるくらいに希少らしい。その話を訊いて、私はゴクリと唾を呑み込んだ。これは誰にも言っちゃあかんやつや。
幸いにも、よくラノベである、何歳になったらスキルを調べる、とかいう国の催し物はない世界だし、本人たちさえ黙っていればそこまで知られることはない。
でも、そんなやべえ能力を学園の恋愛もので惜しみなく使っていいのか。
父母の話を聞いて私が思った事は、もしかしてあの地味っ子サポちゃんはこれを機に国に召し上げられようとしていたのだろうかということ。だって第三王子とか学園にいるし、上位貴族沢山いるし。どこかでぽろっと能力を認められたら、国の専属として給金がっぽがっぽ。うちはあまり裕福じゃないからそれを狙ってたのかな、なんて思わなくもない。
けれど、今は中身は私なのだ。国に使い潰されるなんてごめんだ。あわよくば、外の世界を見たいのだ。政略結婚だの国のお抱え鑑定士なんてしたくないんだ。
なので、全力でヒロインちゃんと攻略対象者たちを迂回しようと決意した私なのだった。
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