第17話 ヒロインちゃんの印象
式は滞りなく終わった。
ヒロインちゃんは仲良しな子達と共に楽しそうに講堂を出ていった。
私たちはまだ後片付けがあるので、講堂に残っている。
「ライ君ってアリア様と仲が良かったんですね」
「ん?」
舞台上を片付けている時、つい近くを片付けていたライ君に訊いてしまった。
生徒会役員の皆様方に近付いている形跡はなかった気がするけれど、もしかしたらライ君が平民仲間だからとライ君狙いなのかなとあたりをつける。
通常だったらそれもアリだと思うけど、乙女ゲームとRPGが無駄に絡むのはちょっと怖いので避けたいというのが私の本音だ。
「いや、特にそんなでもないけど」
「そうなのですか。カッコいいとか言われてましたが」
「あいつ、見てる限りは誰にでもあのノリだから、俺が特別じゃないんじゃねえかな。レグノスも手が男らしくて素敵って言われてたし」
「思わぬ新事実……」
ヒロインちゃん、攻略対象者だけじゃなくてRPG主人公君も口説いていた模様。
あの顔ならね。非公式の父親を見返すために男掴まえようとしてるっぽいしね。
「まあ、顔はすごく可愛いから……」
「ローズ嬢はあの顔を可愛いって思うんだ?」
私の独り言に、ライ君が質問をぶつけてくる。
何その答えにくい質問。
少しためらって口を開こうとしたところで、私の後ろに人の気配がしたので振り返ると、そこには生徒会のメンバーが勢ぞろいしていた。とてもワクワクした顔のアレックス殿下を筆頭に、ザッシュ様シーマ様グロリア様が立っている。興味ないふりをしつつ、しっかり耳をこっちに傾けていたのが、鑑定で見るまでもなくわかる。
「恋バナかしら? ライ君のお好みの女性の話? それとも、ローズ嬢のお好みの話?」
グロリア様はいつも通りの微笑みを浮かべながらも、目がキラキラしている。こうしてみると、落ち着いた雰囲気なのに年相応に見える。ドジっ子だけどね。落ち着いた雰囲気でドジをかますのが私的にぐっとくる。
「いいえ、先程表彰された治癒魔法優秀者のアリア様のお顔のことです」
隠すことなく伝えると、ライ君がおいおいいいのかよと視線で訴えてくる。
この際ヒロインちゃんのイメージを皆から聞いておきたい。
さっき舞台上でヒロインちゃんが受け取っている時にどうして殿下たちを鑑定してなかったのかとちょっとだけ後悔したので。見ていればだいぶ関係が把握できたのに、と。
「ああ、あの俺のために聖女を目指すって言ってた子か。確かに顔は可愛いよな」
「僕的にはそう思えないな。もう少し華やかで気品のある方が好みだ」
「特に何とも思わないが」
三者三様の答えが返ってきて、なるほど好感度全く上がってないですね、と納得する。特にザッシュ様。まったく関心がない。そしてシーマ様。その好みはグロリア様ですねわかります。本人は全く気付いていませんが。
「アレックス殿下はああいう子が好みですか?」
「好みっていうか……あの子さ、ローズ嬢の次に生徒会補佐候補に名前が挙がってた子なんだよな」
「そう……なのですね」
なるほど、シナリオをギリギリ回避していた感じだったのか。この場合そのヒロインちゃんの立ち位置に私がいるから、回避と言っていいのかは疑問だけれど。
「あの子は自分を可愛いと思ってくれる人に敏感な感じだよな」
さらっと、アレックス殿下はあまりにもさらっと核心を突く言葉を発してくれた。何気ない一言という雰囲気で。
「さ、さっさと終わらせて戻ろう」
アレックス殿下自身も何気ない一言であるかのように、そう言って持ち場に帰っていった。
なんていうか、アレックス殿下を乙女ゲームの攻略対象者にするのは性格的に無理があるのでは、と考えさせられる一言だった。絶対に女に騙されないタイプに見えるよ。
一通り後片付けも終えてライ君と共に教室に帰ると、ホームルームが行われていた。
そっと教室後部のドアを開けて入っていく。ライ君は後ろの方の席だからいいけれど、私はほぼ真ん中のヒロインちゃんの隣の席なので、ちょっと目立つ。
席に座ると、隣から小さな囁き声で「お疲れさまでした」とヒロインちゃんが声を掛けて来た。
同じように小さな声で「お気遣いありがとうございます」と返すと、ヒロインちゃん特有の笑みを私にむけた。
私は男性じゃないからその気遣いはいらないのにな、と思いつつ正面を向く。でもよく考えてみると、女生徒にもヒロインちゃんはあの笑顔を向けるよね。だからこそ、ヒロインちゃんと仲のいい子たちがこのクラスには多い。
んん、と少しだけ首を傾げる。
父親を見返すために爵位の高い男子生徒を掴まえるっていう認識でいたけれど、普通にイイ子なのかな。でも、殿下が言っていたヒロインちゃんの印象が一番的を射ている気がしてならないんだよね。
でも、まあ、私に害がなければ放置でいいか。
そんな結論に辿り着いて、今度こそ教師の声に耳を傾けた。
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