第20話 お出掛けお出掛け……?


「そういえば殿下に手紙が届いてたぞ」

「手紙?」


 シーマ様に指摘されて、アレックス殿下は自分の机の上にある手紙にようやく気付いたようだった。

 

「兄貴からだ」


 ほんの少しだけ眉が顰められる。

 殿下に注目する私たちを一瞥すると、殿下はその場で躊躇いなく手紙を開けた。

 

「おおー。兄貴に王宮召喚されたわ」

「いつだ」

「明日の放課後だな。勉強はちゃんとしろって書かれてる。生徒会は……明日は休み! ライ、明日の放課後は好きなことしていいぞ」

「っす」

「シーマとザッシュは一緒に兄貴の所に行くぞ。グロリア嬢とローズ嬢は、たまには二人で親睦を深めるのもいいかもしれないな」


 めんどくさいなーと伸びをしながら手紙を懐にしまうアレックス殿下に、ふと違和感を感じて鑑定を使ってみる。


『アレックス

 職業:学生 マリウス王国第三王子 運命の勇者

 レベル:42

 スタミナ:48%

 体力:670

 魔力:305

 知力:87

 防御:156

 俊敏:202

 器用:55

 運:98

 スキル:剣技4 盾2 身体強化 炎魔法 水魔法

 勇者の称号を得たことで王位継承問題に巻き込まれようとしている 王位につきたいとはまったく思っていない 

 ♡♡♡♡♡ 』


 呼び出し内容がわかってしまった。

 推測すると、上の二人の王子と王位争奪することになってしまった感じかも。

 ご愁傷様です。アレックス殿下は国王というのは似合わない気がするけれど、やろうと思えばちゃんと王様を出来るとも思う。剣技も魔法も伸ばしているみたいだからそれに付随するほとんどすべてのステータスが伸びてるし、何よりレベルが高い。冒険者ランクがBっていうのもうなずける強さ。ちょっとスタミナが減ってるのが気になるけれど、きっとヒロインちゃんの相手をしていてググっとメンタルやられたんだと思う。

 明日生徒会休みだったら何をしよう、と考え始めたところで、グロリア様が両手をポンと合わせた。


「じゃあローズ様、明日は放課後、私とショッピング致しません? 素敵なお洋服を見たり、素晴らしい家具を見たりなんて素敵だと思いません?」

「わあ、いいですね」


 誘われてついのってしまう。だってグロリア様とショッピング! 絶対楽しい一択! 私の所持金ではグロリア様の家格にあう家具は絶対に買えないのでウィンドウショッピングになるのはわかってるけど、見るだけでも違うよね。鑑定で素晴らしい家具を見まくればきっとレベルも上がるだろうし! 最近打ち止めに近かったから嬉しい。だってうちのショボい家具を鑑定してもそろそろ経験値も入らなくなってるんだもん。


「楽しみです」


 グロリア様と手に手を取ってキャッキャしてから、私たちは仕事を再開した。次の日のものも前倒ししたので少しだけ遅くなったけど仕方ない。




 そして次の日。

 教室ではヒロインちゃんが意味ありげな視線をチラチラと私に向けていた。きっとヒロインちゃんの脳内では試験の後は生徒会に入れるって確定事項なんだろうな。ちょっとだけ優越感が滲んでいる気がする。

 乙女ゲームのヒロインちゃんってこんな性格だったっけ……?

 と考えて、そもそもその行動を決めるのがゲームユーザーだからこういう性格のヒロインちゃんもいるのかもしれないと思い直す。

 でもそうだよね。必要書類足りない時は一年生で平民なのにガンガン上級生の所に回収に行ってたから、引っ込み思案じゃそもそもあのゲーム自体が成り立たないよね。

 そこまでヤル気に満ちているなら譲って上げなくもないんだけど、と視界の端に入るピンク色の髪を意識する。

 そのヤル気が不純すぎるのが引っかかるんだよね。相手を落としていく乙女ゲームだから、それが王道と言えば王道なんだけど。今のヒロインちゃんって結構きつそうな性格をしているから、グロリア様とゲームの時のように対立しそうで、それが嫌なんだ。グロリア様は可愛がって愛でるべし。

 努めてヒロインちゃんを気にしないようにして、放課後まで時間を潰した。

 そして待ちに待った放課後。

 今日はレグノス君たちと冒険者ギルドに行って一緒に依頼を受けるというライ君たちと挨拶をすると、ルンルン気分でグロリア様との待ち合わせの場所に向かった。

 馬車を待つときによく使われるガーデンテラスに向かうと、グロリア様は既に待っていて、私を見るなり小さく手を振ってくれた。


「お待たせしました」

「そんな急がなくてもいいのですよ。転んだら大変なので」

「……足を見せて貰ってもいいですか? 痛いのは右ですか左ですか」 


 真顔で訊けば、グロリア様は「今日はまだ転んでいないわ」と苦笑した。


「それにこんなところでローズ様に跪かせるわけにもいかないでしょう」

「いつでもどこでもグロリア様が痛い場合は即、治しますよ。遠慮なさらず言ってくださいね」

「まぁ」


 本気の答えを返せば、グロリア様は照れたように顔をほころばせた。

 そうこうしているうちに、グロリア様の家の馬車が到着したと知らせが入った。

 一緒に歩いて行けば、うちの馬車とは比べ物にならない程に立派できれいな馬車が目の前にででんとあった。

 うちので行きますか、なんて声を掛けなくてよかった。

 そんな事よりもこんな立派な馬車に私なんかが乗っていいんだろうか。

 ミスマッチもいいところだ。だって想像してみて。あのガリ眼鏡の兄さんがもしこの馬車に乗ったら「これで本当に大丈夫ですか。違う馬車とお間違えになられていませんか」って絶対声を掛けたくなる。そしてそんな兄さんとそっくりな私が乗ったら絶対に場違い感が半端ない。


「現地集合ってことでどうでしょうか」


 思わずグロリア様にそう声を掛けてしまうと、グロリア様がそっと私の手をとって、にこやかに「一緒に行きましょう」と有無を言わさぬ笑顔で私に乗車を促した。

 まるでお姫様が乗るような馬車は、乗り心地も抜群だった。

 魔道具を使っているらしく、馬車の振動を抑えて、しかも会話は外に漏れない仕様になっているらしい。


「今日は一緒に来てくださってありがとうございます」

「こちらこそ誘ってくださってありがとうございます! ところで最初はどこへ向かうのですか?」


 お高いものを売っている店はほぼ知らないので、行くところは全てグロリア様にお任せだけれど。

 ワクワクと答えを待っていた私の耳に飛び込んできた行先に、私は動きを止めた。


「今日は、王宮に向かいましょう」

「は……?」

「あの三人は既に向かっておりますの。私は一応父の立場上王宮に入ることは難しくありませんので、私がローズ様をお連れするよう仰せつかっているのですわ」


 あくまでにこやかに、グロリア様が言う。

 オウキュウって、あの王宮?

 アレックス殿下が住んでいる王宮?


「どうして私が……?」

「勇者呼び出しですわ」

「ああーー……」


 疑問を口にすれば、即座にグロリア様が答えてくれた。


「本当は生徒会室でお伝えしても良かったのですが、あそこではライ君がいたでしょう。流石に部外者にお伝えするのは厳禁なので、この様に二手に分かれて王宮に向かうことになりましたの」

「なるほど……?」


 でもグロリア様、ライ君は既に私達が勇者だってことは知ってます。ってことを皆は知らないけれど。

 呼び出しか。グロリア様は鑑定のことは絶対に悪いようにはしないと言ってくれたけれど、どこまで殿下が報告しているかが問題だよね。

 それに、勇者って言ったって魔王が現れたとかそういう報は国に流れていない、至って平和な状態なのに、勇者が何をするのかっていうね。魔王は何やら勇者たちと仲良く生徒会お仕事しているし。

 訳が分からないまま、私は超豪華な馬車で一路王宮に向かったのだった。



 

 

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