第27話 古代の魔道具起動
「これは、我が家のトップシークレットです。王家にローズを献上するつもりもありません。僕たちはローズの幸せを一番に考えております。なので」
「秘密にするよ。誰にも言わない。それは、俺たち全員が承知してる」
兄さんの言葉を遮るように、殿下が断言した。
そういえばグロリア様も悪いようにはしないって言ってくれたっけ。
悪いようにはしないっていう言葉の具体的な内容はまったくわからないけど。
私がうんうん頷くと、兄さんはギリィと奥歯を噛みしめてから、眉間を指で揉んだ。
「じゃあもうここでは隠しても仕方ないですね。ここには記録魔道具もないですし、声も漏れないですし。ローズ、結果を全て教えて」
「兄さん優しい。鑑定結果はどれも同じ。『空間』『風』『付与』『闇』魔法発動で起動。起動した後の効果はわからない。兄さん、起動してみましょう」
どんな効果が現れるのかワクワクしながら提案すれば、アレックス殿下も兄さんもワクワクしたような顔になった。けれど、一瞬後にはアレックス殿下が待ったをかけた。
「でもその四属性の魔法が使える人を集めるのはちょっと難しくないか? 大っぴらに出来ない品だからさ」
そうですね。王宮宝物庫から引っ張り出して来た物だからたしかに大っぴらには出来ないですね。
でも大丈夫。問題ない。
「殿下、秘密を知ってる仲なのでもうぶっちゃけますが、私、全属性初級魔法の資質がありましてですね。それもこれも、兄さんが鑑定が出来る私に自分の身を守るようにと剣と魔法を詰め込み始めたのが始まりなんですが、何故か全部の属性魔法が使えちゃいまして。初級どまりであまり戦闘の役に立つことはないんですけど、こういう時にはとても便利なんです」
「ローズ、自分で便利とか言うな」
「いやいや、自分でも便利だと思うんですよ。ただ、だからと言って意に沿わぬ魔法はいまいち発動しないっていうか、魔法は気分屋でして」
「便利……気分屋……」
私のもう一つの秘密を暴露すると、アレックス殿下はしばし呆然としたのに、目を輝かせた。なぜそこで目を輝かせたのかわからない。意に沿わぬ魔法は無理って言ったばかりなのに。でも殿下の場合私を便利道具扱いはしないと思いたい。それくらいの信頼は一応築いているつもりなんだけど。
じっと見つめれば、殿下は「じゃあ」と口を開いた。
「二つとか三つの属性を掛け合わせて凄い魔法を撃つ魔導師グループが宮廷魔導師団にいるけれど、それを一人で出来るということか?」
「やったことはないです」
「だったら、今度やってみないか? 例えば風と火の魔法を掛け合わせてファイアートルネードとか、見ていて感動するくらいカッコいいんだ! あとは水と土の魔法で足元を泥にして相手の動きを阻害するやつとか。あ、こんなのもあったな。水魔法と光魔法でとても綺麗な橋を架けた人たちもいたな。触れることは出来ないと言っていたけれど。あれは胸が弾んだ」
アレックス殿下の魔法話は、たしかにやってみたらとても楽しそうなものだった。
虹を魔法で架けるとかたしかに夢広がる。そのうちこっそりやってみようと密かに考えていると、「でもじゃあ……」と殿下が視線を落とした。視線の先には、先程見つけ出したブレスレット型魔道具があった。
「気が乗らないとこれを使える様にすることが出来ないってことか」
「出来るとは思います。それほどの効果が発揮しないだけで発動自体はするので。私も気になるので起動させていいですか?」
魔道具を手に取りつつ確認をすると、先程魔法の話をした時のような顔のまま、殿下が頷いた。
闇属性も入ってるから悪いものかもしれない、なんていう発想はないみたいだ。
ブレスレットを両掌に載せると、私は次々魔法を発動していった。
けれど、一つ一つ発動しても何も起きず、相変わらずすす汚れたような姿のまま、鑑定結果もほぼ変わりなし。
だったら同時に発動なのかな、と四属性同時発動をしてみると、手の中でブレスレットがまるで焼け落ちたように真っ黒になった。
「失敗……では、ない、よな?」
兄さんが手の中の真っ黒な魔道具を凝視している。
「いえ、これでいいと思います。魔石を入れると起動します。兄さん、魔石あります?」
「あ、ああ」
ゴクリと喉を鳴らして、兄さんはポケットから魔石を取り出した。魔石ってそんな風に持ち歩く物じゃないと思うんだ。
兄さんが魔石を嵌めると、ブレスレットに模様が浮かび上がった。黒地に黒の模様なので、よく見ないと視認できない物だったけれど、それは精巧な紋様のような、古代の文字のような不思議な魅力があった。
兄さんに返してもらってもう一度鑑定をする。
『闇移動の魔道具:闇の中にある空間を移動することが出来る。魔石の魔力残有料によって移動距離が変わる。個別登録未登録――付与魔法で魔力を付与すること』
「……だそうです。個人登録したい場合は魔力を付与魔法でこの魔道具そのものに登録するようです。まずは使ってみてから個別登録するかどうか考えましょうか」
私の説明に、兄さんが無言で手を伸ばし、一瞬にしてその場から消えた。
そして数秒後に現れた。大興奮した顔で。
「これヤバい。マジヤバい」
「兄さん語彙力」
「どうヤバいんだ? そこんとこくわしく」
ワクワクする殿下は、まるで玩具を目の前にした子供のようだった。
兄さんはブレスレットを外すと、そっと殿下に渡した。
「これを手に、行きたい場所を思い浮かべてください」
「わかった」
頷いた瞬間殿下が消えた。そして、数秒後に現れた。
「これマジヤバい」
「殿下も語彙力」
ヤバいヤバ言い合っている二人に溜息を吐いて、私も手にしてみた。
行きたい場所を思い浮かべる。
行きたい場所は……どこだろう。そういえばあの泉の精霊様はどうしてるんだろう。元気に過ごしてるのかな。
そう思った瞬間、目の前の景色が一瞬真っ黒になり、空気が変わった。
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