第40話 ダンジョン内部は

 蛇のお宝は、すごかった。もしかして蛇も光り物好きなの? って思うくらい、宝石の原石がゴロゴロと埋まっていた。見た目的には単なる石とか岩の塊に見えるんだけどね。鑑定をすると出るわ出るわ宝石の原石。

 一通り殿下のカバンに詰め込んで、後でどう分配するかを相談することにした。お宝のことは依頼にはまったく言及されていなかったからね。

 かなりすぐに依頼を達成してしまった私たちは、そのまま炭鉱ダンジョンに入ることにした。

 御者の二人はこの廃村でお留守番。広いところに簡易結界を設置して、テントを設置して、ゆっくりお留守番してるそうだ。馬も飼葉を食べてご満悦層である。



 さてさて、ダンジョンである。

 普通の炭鉱とダンジョンの違いは、一歩足を踏み入れれば一目瞭然。突然空気が変わるのが肌でわかる。ここはおかしいって。

 途中剥き出しの鉄鉱石なんかが落ちているのをちょいちょい拾いながら先に進む。

 魔物は蜘蛛やコウモリが多いけれど、たまに硬そうなでかいトカゲが出てくる。それもザッシュ様が剣を一振りすれば真っ二つになるんだけれど。これ、レベルキャップが間違っている気がする。レベル上げまくった人が初心者用ダンジョンに入っちゃったみたいな。

 毎回思うけど殿下たちの強さって桁違いだよね。私が一緒にいていいのかどうか。溜息が出ちゃうよ。

 そんな強い殿下たちと共に進むこと小一時間。少し開けた場所に着いたので、小休憩をすることにした。

 炭坑夫たちの休憩所のような場所だった。石で椅子とテーブルが作られている。多少いびつだけれど、それは十分にまだ使える状態だった。

 壁に鑑定を掛けると、ここから○○鉱石が採れると出てくるので、取り尽くして廃坑になったわけじゃないんだろう。むしろダンジョンになってしまったので諦めて廃坑にするしかなかったのかも。詳しくはどっちかわからないけれど。


「これツルハシ持ってたらガンガン鉱石掘れるってことかな」


 ここにアメジスト原石があるという矢印を見ながら呟くと、ぬっとツルハシが差し出された。

 振り返れば、そこにはツルハシを手に持ったザッシュ様が立っていた。


「掘る場所はどこだ?」

「なんでツルハシ持ってるんですか」

「こういう道具は一通り持ってる。もしかしてここに何かあるのか?」

「そこらへんにアメジスト鉱石があるそうですけど、深さはどれくらいかわからず……」


 言い終える前に、ツルハシが壁にガツンと打ち付けられる。

 よほど強い力でツルハシを振るったのか、一撃で壁はぼろりと崩れた。

 崩れた後ろに、かすかに光るようなものが混じっている岩があった。一瞬の出来事だった。


「ありましたね」

「あったな。欲しいか?」


 うんうん頷くと、ザッシュ様は数度ツルハシを打ち付け、数個の紫っぽい石が埋め込まれた岩を足下に落とした。原石だと宝石って言うより色の付いた石みたいな感じなのがすごい。

 一つ拾って、ライトの魔法でキラキラ光る原石を照らす。


「こうして見ると、普通にカットされた宝石よりも力強く見えて、なかなかかっこいいですね」

「確かにな」


 二人で拾ったものをしゃがみ込みながら覗き込んでいると、「おい」という殿下の声が頭上から響いた。


「今日は採掘予定で泊まりか?」


 よいしょ、と前屈で鉱石を一つ拾った殿下は、ほら、と無造作にグロリア様に渡した。


「まあ、本当に素敵ですわね。このような形のものはなかなかお目にかかれませんものね。よもや自ら掘るなど。とても素晴らしい経験になりそうですわ」

「ちょ、殿下! グロリア嬢は僕の……っ」

「はいはい、わかってるよ」


 いきり立つシーマ様の顔をわしづかみした殿下は、どうするんだよと私たちを見下ろした。


「あ、いいえ、鉱石掘りではないです。ちょっとこのダンジョンでレベル上げをしたくてですね」

 

 私の言葉を聞いた皆は、苦笑しながらつるはしをしまい、採掘をそこそこで切り上げて、奥へ奥へと進んでいった。

 出てくる魔物は正直レベル上げにもならない。

 何なら私の魔法でも倒せるレベル。

 殿下の視線も「レベル上げにもならない」と私に語ってくる。

 本当は違うんだよ。

 この奥に精霊がいるんだよ。

 ここではそれ以外することがないんだよ。

 たしかここの精霊は風の精霊で、この国の風が強いのはこの精霊がいるからだったはず。

 精霊が悪魔にとらわれているから、それを助ければ風が解放されるんだったっけ。

 正直風の精霊が復活したからどうなるのかはわからないけれど、精霊が困っていたら助ける系勇者になってしまったので、ここまで来てスルーする手はないと思う。

 ぬるいレベル帯の洞窟を歩いていると、殿下から私にビシバシ視線が飛んできているのが分かった。

 

「……そろそろ、本当のことを教えてくれてもいいんじゃないか? ローズ嬢」


 あーやっぱりレベル上げっていうのは言い訳としてきつかったかあ。

 殿下の言葉で注目を浴びた私は、溜息を飲み込むと、諦めて足を止めた。

 自然、皆の足も止まる。


「では……本当のことを言いますね。このダンジョン、最奥に精霊様がいるんです」

「やっぱりか。人を連れずにここに入った時点で、そうじゃないかとは思っていたんだ」


 シーマ様が肩を竦めながらそんなことを言う。えっと、もしかして私の行動はあからさまだったんだろうか。

 でも、私自身は個々のダンジョンにそんな重きを置いていなくてですね。

 そんな言い訳は雰囲気的に言えそうもなかった。だって皆、すっかり気合を入れているんだもの。グロリア様まで。ぐっと手を握り締めて「すぐにお助けしますわ」なんて気合入れているところに水を差すなんてできない。

可愛いし。


「じゃあその精霊様を助けるのが最重要事項だな」

「腕が鳴る」

「今回はどんな悪魔がいるのでしょうか……」

「どんな悪魔でも僕がグロリア場を守ります」

 

 ちょっとラブコメが入ったけれど、皆の気合は最高潮となった。

 でも待って。精霊のいる場所、最奥。

 すでに昼を過ぎ、もう数時間で夜となる時間なのだ。

 当座の私の目標は、ダンジョン内の休めるところ。今日は精霊のところに行かずにセーフティゾーン的なところに行きたいと思っているのだ。

 確かダンジョン中間から最奥に行く途中のどこかにセーフティーゾーンがあったはず。そこにはセーブポイントがあったけれど、さすがにこの世界でセーブポイントは見たことがないから、本当にあるかはわからないけれど。

 走りださんばかりの殿下たちに交じるように、私も気合を入れると、足を進めた。

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