第25話 王宮第三宝物庫



「……私がこんなところに足を踏み入れていいのでしょうか……」


 アレックス殿下に呼ばれた私は、殿下と二人で只今第三宝物庫というところに来ている。

 ここは、一応貰いはするけれど使いようがないし売り出すわけにもいかなくてどうしようもない物を詰め込んでおく倉庫らしい。

 キンキンキラキラな剣が無造作に木箱に詰められていたり、立派な装飾の箱が無造作に重ねられていたりして、見ているだけで恐ろしい。


「いいのいいの。そもそも不用品入れだから。あんまりいいのも期待してないしな。でももしかしたらそのローズ嬢の目で見たら滅茶苦茶有用なのも紛れ込んでるかもしれないだろ。好きにしていいらしいから、一緒に見て貰おうと思って。俺が選んでも絶対に外れしか引かなそうだし」


 爽やかに笑うアレックス殿下は、宝物庫の扉をしっかりと閉めると、さあさあと私の背中を押した。

 いやいや、アレックス殿下の運の高さは今日も健在なので、きっと掘り出し物を見つけ出せると思います。はぁ。

 不用品のお宝に囲まれ、二人っきりで密室。はい、傍から聞くと怪しげなシチュエーションですが、私の感情はお宝にしか動いていません。乙女ゲームの攻略対象者と恋愛とか、死亡フラグしか見えないよ。

 周りのお宝は、不用品でありながら、装飾を外して売れば豪邸の一つくらい建ちそうな値段はする。献上品だから下手に売ってその貴族からの不興を買うのは良くないからこその不用品だけど。よくまあこれだけ溜まったな、と思う程に宝物庫は広く、物は溢れていた。これ、国が飢饉に見舞われたり未曽有の大災害があったとき以外外に出せないやつだね。


「しかもここ、途中で献上品から火が出て一度まっさらになってから目録すら不確かだからさ。好きに見ちゃって。どこの部品が使えるかは一応兄貴に叩き込まれたから」


 使っていいのは部品なのか。本体そのものはやっぱりダメか。

 一応どれも王家の宝物。木っ端貴族の私が詳しくなるのはよろしくないと思うんだけどね。なんて遠慮していられたのも最初だけ。

 どれだけ鑑定しても進まない終わらない。しかも本当に不要な物ばかり。魔力を込めると踊り出す花とか絶対溶けない雪の結晶のオブジェとか。その家の財力と技術を駆使して献上してきたらしいけれど、どう使っていいかわからなくてここに放り込まれたらしい。確かにわからない。花は踊らなくていいと思う。雪の結晶もたとえ溶けなくても、だから何、の世界だ。その技術は秘匿されているらしく、本当にただただ自慢のために献上した物らしいから笑えない。


「これは好きな物をもってけと言われても……」

「いらないよな」


 不用品お宝に囲まれて数時間、私と殿下は既にへばっていた。

 どうして装飾過多の箱ってこんなに重いんだろう。中に入っているのは本当にくだらないものばかりなのに。


「ここにある箱についている装飾品を売ると、どれくらいになるんでしょうね……ハッキリ言って箱の方が価値高いです」

「まあ、わかる。この国が財政難で傾いたら献上してくれた人たちに断って国外に流すだろうな」

「でも箱貰ってもほんといらないですしね。箱多すぎ。使えない剣とか武器多すぎ」

「俺もここの実態を初めて知った。兄貴が顔を顰めるわけだよ」

「これは好きなの持ってっていいって言うはずですね……」


 真ん中くらいの棚の前で、疲れ切った肩をグルグル回す。

 数時間かけても、まだ確認できたのは二割ほど。もうここで何かを選ぶのを諦めた方が早いんじゃなかろうか。

 兄さんに貰ったマジックバッグからおやつを取り出しながら、そこそこ離れた場所にいた殿下に「休憩しませんか」と声を掛けた。

 はしたなくも床にハンカチを開き、水筒を取り出す。袋に入った焼き菓子を数個取り出して床に直座りすると、殿下が笑いながら私の目の前に腰を下ろした。


「こんなの持ってなかったよな。用意イイな」

「兄さんに色々持たされましたので。そのうち殿下たちにも届くと思います。マジックバッグ」

「……はい? 何が届くって?」


 水筒に手を伸ばした格好で殿下が動きを止める。

 世に出回ってないからね。っていうか今の所試作品以外は私が持っているのしかないようで。今兄さんは必死で殿下たちに渡すものをつくっているみたい。


「空間拡張のマジックバッグです。ひとつでとりあえず寝室一つ分くらいの空間であまり入らないんだとは言ってましたが、それくらいの荷物を担ぐと思うとありがたいですよね」

「あれえ、そんなアイテム俺聞いたことないけど?」

「兄さんの新作らしいです。今色々調整しているそうで、使い心地を手紙で教えてくれと頼まれました」

「……ちょっと俺、個人的にローズ嬢のお兄さんと友達になっていい?」

「涙流して平伏して喜びますよ」


 目を輝かせるアレックス殿下は、マジマジと私の持っているマジックバッグを見つめている。魔力登録しているから私以外は物の出し入れは出来ないのが残念です。もう少し待ってね。

 他にはなにがあるのかという質問に答えながら、お菓子をもさもさと食べて、なんとなく疲れがとれたところで、作業を再開した。

 一つ一つ見ていたら全然進まないから、ざっと見ていく。

 やっぱり装飾を取り外して売ればお金になるような物ばかりで、めぼしいものはない……ときょろきょろしていたら、梯子を登って上を見ていた殿下が私を呼んだ。

 急いで近付くと、アレックス殿下が何かを片手に持って器用に梯子を下りてくるところだった。


「上にこんなのがあった。ちょっと気になったんだけどなんだかわかるか?」


 殿下がはい、と渡して来たものは、古ぼけたブレスレットだった。

 宝石を嵌めるくぼみは空で、大分幅が広くて、今ではありえない野暮ったいデザインだった。

 

「宝石が入ってると思われる場所は空ですね」

「これ、目録と照らし合わせるとダンジョンから出てきたやつらしいんだよ。単なるアクセサリーじゃない気がするから、どんな効果が付いてるのか鑑定してみてもらえるか?」

「はい」


 手にしたブレスレットは煤けていて、何かの金属の筈なのにまったく光沢がなかった。


『古代魔道具:古代の遺跡から発掘された魔道具。不完全で使えない。魔力を補充して『空間魔法』『風魔法』『付与魔法』『闇魔法』を発動することにより起動する。個別登録解除済み。識別する場合、付与魔法で付加すること』


 鑑定結果に目を剥く。

 これ、単なるアクセサリーじゃない。魔道具だ。どんな効果になるのかは、鑑定で出た魔法を付与することによって起動して初めてわかるようだ。


「ちょっと詳細はわからないので、専門家に訊いてみようと思います。持ち帰っても大丈夫ですか?」

「いやいや、今はまだ君のお兄さんは王宮の敷地内にいるんだろ? 今から行こう」

「友人計画ですね」

「そう!」


 一気にテンションを上げたアレックス殿下は、散らかしまくった宝物庫の片付けは明日! と断言して、私を急かした。

 魔法で鍵を閉めると、速足で兄さんのいる魔道具技術省へまっしぐらに向かった。


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