第3話 平民枠のステータスおかしいでしょ
ちょっとだけ状況をまとめよう。
私が転生した『星火の乙女』とは。
学園生徒会を中心にした、トラブル解決恋愛乙女ゲームだ。メイン攻略対象者が三年生なので、ゲームシナリオは一年間だけ生徒会補佐をすることになる。
攻略対象者は生徒会役員のメンバー。三年メンバーに第三王子、宰相子息、二年に騎士団長子息と公爵令嬢、そして一年生にヒロインちゃんと平民特待生。特別枠に生徒会顧問の先生。今はここにいないけれど。
生徒会長のアレックス殿下は、とても気さくでフットワークが軽く、とても頼りになる人だ。
副会長のザッシュ様は動き回るアレックス殿下の護衛も兼ねていて、大抵は二人一セットで動いている。
書記のシーマ様は逆に生徒会室にでんと構えていて、書類まとめを中心に活動している。
皆の後ろに立っているグロリア様は、生徒会で動くお金の管理を一手に引き受けている。けれど、ゲームではちょこちょこ恋愛の邪魔をする役として出て来ていた。折角二人でまとめた資料をばらまいたり、皆から集め終わった書類の上に紅茶を零したり。いつもキリッとした顔をして「あら、ごめんなさい」と謝って去っていくキャラだ。けれど、その後の後始末で一緒に片付けた相手との好感度アップにブーストがかかるので、そこまでプレイヤーたちに嫌われてはいない。何なら「グロリア様出て来た! ラッキー」とまで言われる悪役キャラ。
そして私の横に立つ平民特待生のライ君。この人は同じ平民として一番仲良くなりやすい初心者用キャラだ。他の人たちが皆忙しい時は必ず一緒に行動をしていた。
そこに平民のヒロインちゃんが入って、『星火の乙女』が始まる。
そのヒロインちゃんの立ち位置に私がいる。
冷や汗ものだ。
私に生徒会が務まると思ってるのが。こちとら弱小伯爵家の娘。こんな上級貴族たちに囲まれて、萎縮せずにいられるか。
でも私がそんな泣き言を言ってはいられない。なぜなら、横には更に身分の低い平民キャラ、ライ君がいるのだから。
そう思ってチラリとライ君を見て、私は心臓が止まりそうになった。
『ライ(ライデンガー・ブロイガン)
職業:(魔王)商人の息子
レベル:13
スタミナ:78%
体力:175
魔力:1322
知力:79
防御:46
俊敏:57
器用:86
運:17
スキル:闇魔法 統率
勇者の卵を今のうちに潰そうと人間の学園に姿を偽って潜入している
♡♡♡♡♡ 』
私の鑑定もとうとうおかしくなったか。
平民枠ライ君の名前がバグっている。
こんなこと乙女ゲームではなかった。
待って。
魔王って何。
しかもライデンガー・ブロイガンって、あのコンシューマーゲームのラスボスである常闇の魔王の名前だよ。勇者を潰そうと潜入って……。ツッコミどころ満載過ぎる。
そしてレベル低っ。でもレベルの割にはステータス高っ。
でもこのステータスの並び、乙女ゲームのそれじゃなくて、あの時のRPGの並びじゃん。最後のハートはまんま乙女ゲームだけど。
もともと『星火の乙女』のステータスは、レベルと行動力という名のスタミナしか出ていなかった。そしてスタミナがなくなる前に抱えたトラブルを解決していかないといけないやつだ。効率が悪いやり方だと本当に終わらなかった。何周目かでようやくコツを掴んで、そこから何とか効率よくトラブル解決していったのだ。
好感度が知りたかったらサポキャラ、つまり私に訊かないといけなかった。好感度を聞いたときに該当キャラのデフォルメ顔とハートが出てきてどれだけ好きになったかを色の変化で教えてくれるんだよね。
なるほどこうやってサポキャラは情報をゲットしていたのか。詳しく見えすぎている感がなくもないけれど。
ここまで色々見えても顔に出さない訓練を死ぬ気でしてきてよかった。多分私今真顔。
もちろんこの目の前で立っている殿下たちのステータスもしっかりと見えている。こっちは普通に第三王子、宰相の息子、騎士団長の息子、と示されていて酷くホッとした。最後のハートはいらないけれど。
それよりも気になるのがグロリア様のステータス欄の最後に書かれている言葉。
『極度のドジっ子。仕事は出来るがその後にうっかりが多く、彼女をパートナーに選ぶと効率は70パーセントになる』
ああ、あの嫌がらせのような行動は、単なるうっかりだったんですね……。グロリア様のうっかりで爆上がる好感度……。
グロリア様、成績は超優秀なのに。きりりとしたお顔でうっかり。これはあれですね。ギャップ萌えというものですね!! この可愛いグロリア様に気付いた人は多分サポキャラローズクオーツ以外いないだろうけれど。ダメじゃん。そしてライ君(魔王)が器用さ脅威の86に対して、グロリア様の器用さがまさかの11。可愛い。もしかして料理とかしてもらったら消し炭が出来上がるのではないだろうか。
以上、状況整理おわり。
全然解決してません。
魔王がどうしてここにいるのかとか、どうして本来のシナリオから逸脱しているのか。
私ががり勉しすぎたからなんてことはないよね。この世界ってほんと娯楽が少ないから勉強とか読書以外で時間つぶしが出来ないんだよ。
ドレスとかお化粧とか正直全く興味ないので、たまには流行を勉強しなさいと言う母の言葉は右から左だったし。眼鏡をしないといけなくなった時のあの母の絶望顔はちょっとだけ申し訳ないと思ったけれども。
「では、今日からよろしく頼む、ローズクオーツ嬢、ライ君」
ありがたい生徒会長の話はほぼ頭に入っていなかった。それよりもステータスの(魔王)に動揺していたから。
返事だけはにこやかに返して、私はグロリア様の元に向かった。
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