第13話 RPGの話をしよう
私が生前やっていたコンシューマーゲームのRPG。ゲーム名は『スピリットクリスタル~黎明の歯車~』。シリーズものだけれど、一つ一つのタイトルがまったく別の話なので、どれからでも手を付けることができるというものだ。壮大な風景と荘厳な音楽、そして多彩で魅力的なサポートキャラを好きに選ぶことができる、王道RPGだった。
プレイヤーが動かす主人公キャラは、ライ君が大変に仲良くなったあの『レグノス』君だ。
物心ついた時から親の顔を知らず、街の孤児院で育った主人公は、同じ孤児院でずっと一緒に育った親友の『トレイン』君と共に行動する。
冒険者ギルドに登録できるのは15歳から。そして、孤児院を出ないといけないのも、15歳から。
なので、ストーリーは15歳に孤児院を出たところから始まる。
二人は一緒に孤児院を出て、冒険者ギルドに登録。周りの森でレベルを上げつつ、ドロップアイテムを冒険者ギルドに買い取って貰ったり依頼を受けて日々暮らしていく。
序盤の森の中、たまたま隠されたダンジョンに迷い込み、たまたま泉の精霊を救い、そこから二人の運命の歯車が回り始める、そんな感じだった。
沢山の街を歩き、冒険者ギルドのランクを上げたり職業レベルを上げたりステータスを伸ばしたりして、最後ラスボスである魔王を倒してエンディングとなるこのRPG、どう稼ぐかはかなり自由で、調薬してアイテムを売って稼いだり勉強をして魔力を上げたり、どのステータスをどう伸ばすのかは本当に自由だった。
私はもちろん、デフォの片手剣で雑魚敵を蹴散らす剣士勇者路線を進んだ。
幼馴染のトレイン君は必ず魔法を伸ばすので、サポートとか本当に完璧にこなしてくれていた。この子だけは最初から最後まで一緒に行動してくれるキャラだったけれど、道中仲間になる人たちは色々と状況によって変えたりしていく。もちろんその人達も育成しないと後々使えないので片っ端から育成していくのがまた楽しかった。私100%にしたい人なので。
育成記録までつけていたのはいい思い出だ。最初に手を付けたのは学生時代だったので、時間だけはたんまりあったからね。
就職してゲームをする暇がなくなって、色々なことに心をすり減らされて、鬱一歩手前だった私が、たまたま見つけたこのスピリットクリスタルを、何も考えずに本体に差し込んでテレビをつけ、ぼんやりとした頭で何気なくオープニング画面を見ていたら、懐かしい音楽が大音量で流れて来て、当時の情熱を思い出したのだ。あれがなかったらきっと悲惨なことになっていたと思う。
まあそれはもう終わったことなので置いておいて。
そのスピリットクリスタルのストーリーは、各地で精霊が魔王の配下の魔族に捉えられているから、それを救い出し、加護を集めつつレベルを上げ、最終的に魔王を倒すというもの。捻りはない。本当に捻りはなかった、はず。
ノートに書きつけながら、私は溜息を吐いた。
ゲームの話だけ追うととても胸熱で素敵な話だったのにな……
何で最初の精霊イベントが、告白されてフラれて拉致監禁……そんな裏設定いらなかった。普通に綺麗に決めて欲しかった。
手を止めて、気分的に痛む頭を落ち着ける。
そもそも何でその主人公たちがうちの学園にいるんだ。同年代開始だったので歳的には確かに問題ないんだけれども。
学園に通うとか、あったっけ。
ふむむ、と少し考えて、ああ、と思い出す。
「ギルドで古書店に行く率が高いと、店主さんとの親交が深まって学園に推薦してもらえるんだった……」
賢者系勇者になりたい人は学園必須だったっけ。もしやレグノス君は賢者になりたい子なのか。道は険しいよ、ステータス的に。
とりあえず、次のイベントは別の街だから関係ないだろう、とペンを置き、ノートを閉じる。
書き出すのが一番心情的に疲れる作業だった気がする。
私は眉間をもみながら、椅子から立ち上がってランプを消すと、ベッドに向かった。
一晩経って、昨日のことはきっと全部夢だったんだという清々しい気分で起きた私は、早朝にも拘わらず父さんから呼び出しを受けた。
執務室には、まるで徹夜したような顔の父さんがいた。
朝のご挨拶をすると、父さんは顔を萎びた野菜のようにしおしおにしながら挨拶を返してくれた。
「昨日のことを、ノアから聞いたよ。勇者って本当かい?」
「夢だったらいいですね」
「いいですね、じゃなくて、もう一度、自分を見てごらん」
父さんに促されて、またしても自分のステータスを見る。
やっぱりしっかり『叡智の勇者』と載っている。
夢じゃなかった。思わず舌打ちしそうになって寸でのところで止める。
「『叡智の勇者』となってます。言い訳しますと、私はほとんど戦力外だったので、勇者になったのはとんだとばっちりなんです。メインはアレックス殿下なんですから。彼は『運命の勇者』なんていう壮大な称号を貰ってましたから」
「そもそも勇者にそんな種類があることすら知られていないんだがね。私も知らなかったよ。そもそも勇者なんて伝説の話だと思っていたからね」
「伝説ではあったんですか。それすら知らなかったです。うちの蔵書にはひとつもないですよね」
「ない」
父さんは私がここの家にある蔵書を全部読みつくしたのを知っていて、苦い顔だ。領地経営ものが多かったから、きっとジャンル違いなんだろう。物語はほぼ一つもなかったと言っても過言ではない。本はお高いからなかなか買えないしね。
「そういえばシーマ様から、巻き込まれるよと警告を受けました。何に巻き込まれるかという詳しい話は聞けずじまいだったんですが」
「……そうか……では、鑑定のことはバレたと思っていいんだね」
「そうですね。皆に詳細を話して対処しないと私たちは今頃ヘドロの泉に浮かんでいたと思います」
「…………よくやった」
きっと褒め言葉の前の間は、絶対に褒めたくないという心の現れなんだろうと思う。わかる。
父さんは更にしおしおになりながら、王宮に行くのか……と胃をさすっていた。ごめんね。後でよく効く胃薬探してくるね。
「今日は学園なのだろう?」
「そうですね。昨日の後処理を生徒会の方でやらないといけないと思います」
「頑張ってきなさい」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げて、食堂に向かった。
食堂では兄さんが朝ご飯を食べていて、やっぱり疲れ切った顔で朝の挨拶をしてくれた。
兄さんは王宮の本当に隅っこに位置する敷地にある『魔術魔道具技術省』というところに勤めていて、王宮の中で使う魔道具の修理をしている。今はまだ父さんが健在なので、趣味の延長で魔道具を弄っているのだ。私にはさっぱりわからない技術だけれど。
「学園の生徒たちにはちゃんと勇者だってことを内緒にしとくんだぞ」
「あたりまえです」
兄さんの忠告にブンブン顔を上下に振る。
そうでなくても生徒会というだけでハブかれ気味なのに、更に殿下たちとおそろいの勇者なんて知られたらもう学園でお友達は出来ないこと確定。
「そうなると、グロリア様が私の唯一の友達。唯一ってことはもう親友でもありってことでは……」
グロリア様と親友になれるのなら、同級生の友達いらないな、と達観した気分で朝ご飯を食べていると、兄さんから盛大な溜め息が聞こえて来た。
「友達は作ろう。学園で作る友達は宝物だから」
「兄さんは友人一杯ですもんね」
「まあね。上からも下からもこの見た目のお陰で無害だと思われてるからね」
ローズも同じ見た目の筈なのにおかしいな、なんて失礼なことを言う兄さんの大好きなミニトマトを、腹いせに一つ奪い取る。
まさにね! 兄さんそっくりの私の姿は本当に無害この上ないのにね! どうしてそれが今年の同級生たちには通じないのかが不思議でならない。
汚い悲鳴を上げる兄さんを放っておいて朝食を食べ終えると、私は学園に行く用意をするために部屋に戻った。
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