第51話『マリーウェルの部屋』って題名つけていいですか

「今日は最近話題の隣国の勇者様お二人にお越しいただきました」


 マリーウェル様が声を発する度、わー! きゃー! と黄色い声が上がる。

 二人の家柄を発表された時には、一段と大きな黄色い声が上がった。半数ぐらい目の色が変わっている気がするのは気のせいかな。

 マリーウェル様に席を勧められて、二人はそっと台上の立派なソファに腰を下ろした。

 舞台袖からみていた私にとって、そこはまさに『マリーウェルの部屋』と名付けたい場所だった。

 ここでミュージックを流したらまんまそれだ。

 二人は貼り付けた笑顔で皆に手を上げた。途端に飛び交う黄色い声。中には野太い声も入っているけれど、男性にも人気なのが本当の人気だからね。

 マリーウェル様は二人に色々なことを質問していった。

 今までの武勇伝、そして家で困ったこと、隣国の王子たちの関係、仲のよい女性はいるのか等々、あまり答えられないことが多くて、ハラハラしながら舞台を見ていた。


「勇者という称号はどのようにして手に入れたのでしょうか。他の方も勇者の称号を手に入れることはできますか? 例えば、わたくしとか」

 

 アレックス殿下はにこやかなまま、ほんの少しだけ口を閉じてから、考える素振りを見せつつザッシュ様に目を向けた。

 ちなみに今までの質問は全てアレックス殿下が答えていて、ザッシュ様はまったくと言っていいほど口を開かなかった。

 ザッシュ様はアレックス殿下と目を合わせ頷いて、初めて口を開いた。


「俺が勇者の称号を貰い受けたとき、あの時の戦いは、この命がなくなるかもしれないと初めて思った瞬間だった」

 

 ふと視線を落としたザッシュ様の顔は、とても憂いに満ちていて、辛かったことを思い出しているかのように見えた。


「……淀んだ空気、吐き気を催すほどの臭気、そして、手で触れただけでも皮膚が爛れてしまいそうな泉。そんなところで、俺たちは精霊様を命を賭してお助けした」

「私とザッシュの攻撃は通らず、なすすべもなくただ悪魔の攻撃を受けるだけだったとき、グロリア嬢とシーマの愛の連携魔法が炸裂し、辛くも悪魔を屠り、なんとか精霊様を助けた」

 

 二人の言葉に、講堂中がしん……となる。

 間違えてはいない。間違えてはいないんだけど。

 何だろう、愛の連携魔法って。辛くも悪魔を屠りって。

 皆が引き込まれている二人の話に、私は思わず遠くを見ていた。


「精霊様は悪魔からようやく自由になり、そして私たちに勇者という称号と力を与えて下さった。そこから、私たちの使命は世界中の精霊様達を助けることになったんだ」

 

 しんみりと語るアレックス殿下の言葉に、皆がシン……となって聞き入っていた。

 それはマリーウェル様も一緒で。しっかりとアレックス殿下に呑まれていた。流石格が違う。


「……そっ、それでは、このカロッツ王国でも精霊様は存在しており、大変な状態であるという事でしょうか……」

「いや、この国はもう大丈夫だよ。最近風が強くなっただろう? どうしてだと思う?」

「あ……もしかして、私の提出した物を活用して下さったのですね……!」


 チラリと意味深に殿下に視線を向けられて、マリーウェル様が感激の表情を浮かべる。


「私が風の祠の資料をご用意いたしましたのよ、お役に立てたようで嬉しいですわ」

「ああ、うん……」


 もらった時にはすでに攻略してたよ、とも言えず、殿下は言葉を濁した。

 そして、チラリと舞台袖、つまり私がいる方に視線を流した。

 すると、マリーウェル様もこっちを見て、とても勝ち誇ったような顔になった。滑稽すぎる……。

 ちょっと考えれば風が強くなったの、マリーウェル様が資料を用意したときよりも前なんだよね……そこを突っ込まれたらどうする気なのかな。

 そっと講堂内に視線を巡らせると、皆がマリーウェル様を尊敬の眼差しで見ていた。

 嫌われてはいないんだね、悪役令嬢。ヒロインは王子ルートにはいってないから悪役にならないって感じなのかな。どう考えてもヒロインはリュビさんしか見えていなかったし。一途なのはまあいいね。逆ハーとか目指されるよりは全然。でも狙い目は難しいんじゃなかろうか。だってリュビさん、恋愛にめちゃくちゃ疎そうだし好意にまったく気付いてないもの。そんなリュビさんお熱のヒロインも、一番前の席でマリーウェル様にキラキラの目を向けていた。

 ああうん、マリーウェル様が悪意を向けるのって私にだもんね。いいけど。これが終わったら学園休んで隣国行くから!

 あの青い空、広い海、そして魚介類……!

 涎が垂れそうになって慌てて我に返ると、私はもう一度舞台に視線を戻した。


「勇者をこの目で見れるとは、ランドクロス公爵令嬢は本当に偉業を成し遂げたね」

 

 戻した途端後ろから声を掛けられて、私の肩が跳ねた。

 気配もなかった気がする。

 そっと振り返ると、アレックス殿下よりもキラキラしい王子様然とした男子生徒がそこに立っていた。

 

『ソワール・カロッツ

 職業:カロッツ国第二王子

 レベル:6

 スタミナ:69%

 体力:98

 魔力:59

 知力:89

 防御:44

 俊敏:62

 器用:54

 運:21

 スキル:光魔法 隠蔽 情報収集

 腹黒であり第一王子を追い落とそうとしている 悪役令嬢と手を組んで王位簒奪を目論んでいる

 勇者になりたかった 王位を取ったら国に勇者を取り込もうと思っている

 ♥♥♥♥♡』


 咄嗟に鑑定で見てしまって、私はものすごく後悔した。 

 ステータス高い。腹黒って出てる。パッと見ただけでヤバい人物だっていうのがわかる。

 この人、めちゃくちゃ王位狙ってる。でも王位をとったときにやりたいことは勇者を取り込むって……。

 そしてあの好感度の高さは、ベタ惚れに近い状態になってる。相手はマリーウェル様……?

 少しだけ引きながら第二王子の視線を追うと、その先にいるのはマリーウェル様じゃなくて、アレックス殿下だった。

 マリーウェル様に視線が移ると、途端にハートがション……と色をなくす。そしてまた殿下に戻るとスッとゲージが増える。

 なんだこれ。面白すぎる。

 私は舞台そっちのけで第二王子を観察していた。正しくは第二王子のハートゲージを。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る