第36話 孤児院魔術士、聖人(笑)となる

 「はぁ!」


 魔術を使ったらマゾを殺してしまう気がしたので、体術で制圧するべく接近する。


 「あんたさ、忘れてないよね」


 「っ!」


 魔術士の女性を盾にされた。

 バックステップで距離を離す。


 マゾの動体視力じゃ私の動きは見えない筈だ。

 だと言うのに、正確に盾にして来た。

 予想としては、私の姿が見えなくなった瞬間に反応しているのだろう。

 マゾは反応速度などの感覚的な所がとても鋭いのだ。


 「あんたに基礎体術を叩き込んだの、誰だったかね? そして基礎しか教えてない事もさ」


 「忘れてないさ。忘れられるかよ」


 そう、私に敵が近寄って来た時の対策として体術を叩き込んだのはマゾだ。

 その時の記憶は鮮明に覚えている。


 「仲間を盾にするなんて、それでも聖職者かよ」


 「仲間? こんな足でまといを仲間だと思った事は無いね。魔術をただ扱えるだけの魔術士なんてカカシと変わらない」


 「え、そ、そんな⋯⋯」


 「どうせこれが終わったらこのパーティは終わりだ。この娘だって貴族の娘だから面倒見てるだけだよ。アンタは甘いからね、盾にはなるから使い道はあるかね?」


 「うそ、だよね。マゾさん」


 「こっち見んな、虫唾が走る」


 マゾの言葉に魔術士が涙を流しながら瞳を虚ろへと変えた。

 こんな性格⋯⋯じゃない。

 マゾはこんな性格じゃない筈だ。


 パーティの解散、離れ離れになっても後悔のないように突き放そうとしているのかもしれない。

 もしかしたらこれも、私の希望的観測なのかもしれないけど。


 「厄介だな」


 この体は滅多に使わないから力の制御が出来ないので、完璧な状態とは言い難い。

 下手をしたら力に負けて壁に当たったりする可能性が高い。

 そしてマゾの反射速度は異次元であり、私が攻撃を仕掛けようとしたらすぐに魔術士を盾にする。

 純粋な体術戦に持ち込んでも、合気道などでいなされる可能性もある。


 マゾの対人戦は多分、パーティの中で一番高い。

 あまり回復魔術を使っていなかったらこそ、体術を伸ばしていたのかもしれない。


 「行くか」


 私はマゾの横を通り抜けるように走り、魔術でスピードを落として背中から襲う。


 「単調」


 「くっ!」


 それでも盾にされる。

 ギリギリに拳の軌道をずらして当たらないようにしたけど、隙だらけになってしまった。

 まだ力の流れは拳に残っており、マゾが私の手を捕まえる。


 「まずっ!」


 「そい!」


 力の向きを無理矢理曲げられて合気道の技術で床に叩き落とされる。

 私が使っていた力の強さの分だけ身体中に衝撃が流れる。


 「⋯⋯っ! か、いじょ」


 私は魔術が向けられない状態だと相手にならないと思い、全力を封印した。


 「はぁ」


 龍眼も戻して、普通のアメリア状態になる。


 「と言うかアメリア、あんたなんで生きてんの? それにその髪色は何?」


 「言う必要は無いよね。殺そうとした相手にさ」


 「そうだね。て言うかさ、アンタがナキミルの求婚を受け入れたら、あんな事にはなってなかったよ」


 「そんな理不尽な理由で私は殺されないといけなかったのか?」


 「貴族の考える事が平民に分かる訳ないでしょ」


 「それもそうか」


 今の状態だったら魔術を使ってマゾを制圧する事は可能だ。


 「嘘だ。嘘だよ。だって、皆仲間、だって」


 この貴族の娘さん? って人は気の毒だな。

 まぁでも、私には関係ないや。


 「マゾ、私の魔術を防げるかな?」


 「⋯⋯無理だね。諦める」


 両手を挙げて降参を示した。

 マゾには体術では勝てないけど、魔術を普通に使えたら問題ない。

 マゾ自体には攻撃系の魔術はなかった筈なので、ルアがまとめた人達を連れて私達は帰る事にした。


 「あ、コイツ」


 レストランで絡んで来た男だ。

 シャルの顔を思い出した。


 「へ」


 炎の魔術で髪を焼いて、ルアに雑に去勢させた。



 数日後、悪の組織を潰したのは国の騎士団と言う事になっていた。

 孤児院は国によって運営されている事になっているので、国が対処と言う部分では間違いは無いだろう。

 たーだ、報奨金とかが出ないコトには無性に腹が立った。

 これならナキミルに任せて金を受け取れば良かった。


 「まぁ、これで貴族達の牽制にはなるか」


 「お疲れ様じゃな」


 「ルアもな。特に最後の去勢のやり方は良かったぞ」


 「種族的にはあまりやりたくない手法じゃがな」


 さて、こっからは霧の森に向けて今持っているマナを全て体に慣らすか。

 ルアの手伝いさえあればすぐに終わるだろ。多分だけどね。


 「アメリア、どこに行くの?」


 「シャル⋯⋯ちょっとね。最後の挨拶を、ね」


 ◆


 俺はナキミル、今はハゲアタマ公爵に呼び出されていた。

 俺だけでは無い。

 コモノとマゾもだ。


 「すまない二人とも」


 「かまわん」


 「そうそう。互いに人生詰んだ仲だし、気軽に行こうよ」


 「マゾは神官だろ。教会に戻れば良いだろ」


 「おいおい。濡れ衣着せられて冒険者の世界に入った事を忘れたか」


 「そう、だったな」


 ドアをノックして中に入る。

 中には怒髪衝天のハゲアタマの姿が堂々と正面にあった。


 「貴様ら、良くも泥を投げてくれたな」


 アメリアが生きていた事が判明して、昔の話が洗い出された。

 黒薔薇白狐の成績や俺達の落ちぶれにより、冒険者界は俺達の敵となり、アメリアを擁護し始めた。

 アメリアはそれに乗じて、一級魔術士資格を獲得して、最近ではその話題に持ち切りだ。二十代で一級魔術士は史上初だ。

 それにより、ギルドから俺達は干されるようになってしまったのだ。


 アメリアの生存、奴隷売買組織の表化が大きくなったので俺達が捕らえる事にしたが、失敗。

 結局、アメリアの事以降、ハゲアタマの要望に全くと言って良い程応えられてはいなかった。


 「お前らのような無能は死刑にしたい程だ! 今後一切の関わりを禁じる! 消えろ無能共が!」


 これで俺の夢は途絶えてしまった。


 解散する事なく、拠点としてた宿に戻る。


 「お前達はこれからどうする?」


 「ナキミルは?」


 「俺は、国を出ようと思う。この国ではもう仕事が出来ないからな。この国とは関わりのない国で一から出直す」


 「そうか。俺はお前について行く。今更、お前以外と冒険者をする以外の道が見えないからな」


 「こっちも同じ意見かな。教会の方には戻れないし、落ち着くしさ」


 「二人とも⋯⋯すまない。俺が、俺のせいで二人に、本当にすまない」


 コモノが少し笑った。


 「良いさ。止めなかった俺も同罪だ」


 マゾが俺の隣に座る。

 そして肩を寄せる。


 「三人仲良く、殺人未遂の犯罪者として、生きようか」


 犯罪者と言っても、この国の法では裁けない。殺人未遂の物的証拠がないから。

 公爵家が本気を出したら、俺達は本当に死刑になる。

 それでも俺達三人が平然と宿を利用出来ているのは、Sランクとしての功績が認められているからだろう。


 さて、これからどうしたモノか。


 「たのもー!」


 「「「アメリア!」」」


 俺達の部屋にアメリアが入って来た。


 「あんたらさ、行く宛てある?」


 「⋯⋯ない」


 「そこでちょー聖人のアメリアちゃんが、あんたらを拾いに来たのよ」


 「は?」


 話としては、今後も孤児院を襲って来る輩が出るかもしれない。

 密かに守ってくれる存在が欲しいと思った。

 そこで選ばれたのが俺達だ。


 「お前は、俺達を信用出来るのか」


 「⋯⋯どうだろうね。謝られても許せる気はしないよ。でもさ、アレがあったら今の私が居るし、まだちょっと引きずってんだよ。それにさ、貴族にもうなれないって吹っ切れたナキミルなら正しい選択をするし、私を仲間だと思って見なくても、ナキミルは仲間だと思っているでしょ、二人は」


 コモノとマゾは頷いた。


 「だから信用してあげる。コモノは貴族などの情報調達、ナキミルは孤児院周辺の護衛、マゾはシャルの手伝いをして」


 俺達は相談した。

 三時間と言う長い時間の相談の後、俺達はアメリアに謝った。

 許される事では無い。許してはくれない。

 だから、俺達は過去に戻ったように働こうと決めた。


 「今度は私も、三人をしっかりと見るよ。もう仲間には戻れないかもしれないけどさ、君たちを許せるように、頑張るよ」


 「アメリア、本当に、すまなかった」


 「今後ともよろしく頼む」


 「ごめんね、アメリア」


 「うん。うん! しっかりコキ使うから、よろしくね」


 俺達の役目は孤児院の守り兼モンスターを狩っての金稼ぎと決まった。

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