第11話 孤児院魔術士、人工魔人を完成させる

 「人間界にもあるだろ、序列と言うのが。魔界ではそれが酷いんだ。妾の一族は悪魔族の中でも序列はとにかく下。さらに妾自身、落ちこぼれの身。上位悪魔でありながら実力は中位近く。分かるか。日頃から向けられる白い目が。それが堪らなく辛い。淫魔族だからとか、そんな理由で妾は不自由だった」


 理不尽な理由で虐げられる気持ちは分かる。

 私達も孤児院出身だ。物心付いた時からそうだった。

 孤児院出身だから汚いとか、バカだとか、そんなクソみたいな理由で下に見られて来た。

 何をするにも孤児院と言う名前を出してバカにされた。付き纏って来る。

 だから、コイツの味わって来た苦しみは分かる。


 「もう、戻りたくないんだ。奴隷のように扱われるのはもうごめんだ! だから頼む! 見逃してくれ!」


 「⋯⋯お前の気持ちは分からないでもない。だけどな、お前は悪魔だ」


 「⋯⋯それは、それはそうだが」


 「生まれはどうしようもない。その事を受け入れてどう成るかが重要だ」


 悪魔はそれ以上何も言わなかった。

 私はマナを集中させる。


 「待ってアメリア」


 「何?」


 シャルが止めて来たので魔術を止める。


 「ちゃんと言う事聞く?」


 シャルが悪魔に質問する。

 悪魔は高速で縋り付くように顔を縦に動かした。


 「シャル、それは良い子過ぎないか?」


 「だってさ、生まれで虐げられる痛みを知ってるからさ。それに嘘じゃ無さそうだし。なんか同情しちゃった。だから約束を守れるなら、別に魔界に戻す必要はないんじゃないかな?」


 「エルフ⋯⋯」


 「はぁ。シャルが良いなら私は何かを言うつもりは無いよ」


 でもまだ危険だから悪魔から手を離さない。

 魔界での生活とか仕組みとかは分からないし知らないけど、この悪魔は私達と同じ『下の存在』だと言うのは分かった。

 別にタルタルソース教団のメンバーを殺したからと言って、私達に何かを思う事はないからね。

 同じ人が死のうと結局は他人だ。他人が死んでも何かを思う事はない。


 「でも、どうする? このままだと普通に消えるぞ?」


 悪魔がこの世に留まるには受肉する必要がある。

 仮初の肉体が存在しないとマナが無くなり魔界に送還される。

 この世で体を保つにはマナを消費しないといけない。

 だから仮初の体を与えておかないとダメなのだ。一時的な契約なら問題ないけど。


 「⋯⋯もしかして供物に受肉の肉体を与えようとしていたのかも」


 「だったらどこかに体があるかも。探そうか」


 「シャル最終確認だ。こいつは悪魔だ。その事理解した上で同情して魔界に戻す事はせずに、この世に留まる事を認めるんだな?」


 「うん、そうだよ」


 「そっか」


 ま、だったらコイツを利用するまでだな。

 上位なら五百年以上は生きているだろうし、様々な知識を持っているかもしれない。

 私達はコイツの肉体を探す事にした。


 「龍眼を使えば隠し部屋くらい見つかるか?」


 「妾が手伝おう。⋯⋯あそこに隠蔽魔術の気配がするぞ」


 私がまだファフニールから貰った目を使い慣れてないせいで高精度の魔術は見破れない。

 龍眼はファフニールの目と共有されているので、成る可く使ってやりたいけど無理なモノは無理だ。

 壁を適当に破壊して中を進む。


 「うげぇ。なんじゃこの気持ち悪い空間は」


 悪魔でも気持ち悪いって感情はあるのか。⋯⋯興味深いな。


 「なんか一瞬実験材料の気分を味わった気がするのじゃが」


 「気のせいじゃない?」


 緑色の液体の中に酸素マスクが繋がった人間が入っていた。

 それらが数十個と存在する。確かに気持ち悪い。

 しかもこの人間達はギリギリで生きている様子だ。

 心臓部分に魔石が露出している。


 「やってる事は人工魔人だね」


 「だね〜シャル、気持ち悪いなら見なくても大丈夫だよ?」


 「ううん。大丈夫」


 タルタルソース教団、なかなかにゲスだな。

 子供達を実験素材に使いやがって。

 しかもこれらの人間は簡単には目覚めないだろう。本当にギリギリ命があるのだ。

 魔人、それは人間よりもマナとの親和性が高くて心臓が魔石に成っている魔族。


 「半魔人とは、お主のような存在を作ろうとしていたのか? えーと、妾が食った輩は」


 「タルタルソース教団って奴らだな。どゆこと?」


 「タルタルソース⋯⋯本人に自覚がないのは仕方がない。主は半魔人、人間と魔人のハーフだぞ」


 ⋯⋯は?

 シャルもその事実には驚く。

 私が、魔人と人間のハーフ? 確かに両親の存在は知らないけど。

 でも、私は人間だ。魔人のような角とかもないし。


 「ハーフの特徴は外見には現れないぞ。人間として生きていたのならマナの性質も人間に寄ったのだろうな。分かりやすい特徴は心臓だな。魔石と心臓が合わさった⋯⋯言わば魔石心臓が半魔人の心臓だな。ま、本来なら黒髪とか黒目って言う他の特徴もあるんじゃだが、主には無いからな」


 なんだよそれ。

 ま、衝撃的な事実だけど正直それを知ったからと言ってもどうする事もない。

 と言うかそれを知ったからと言って「だから何?」ってなるだけだ。

 それはシャルも同じだ。


 「にしてもマナの性質が違う存在同士に子供が生まれるのか? 正直その話も信じる事は出来ないぞ。今まで人間で暮らしていたのも事実だが、半魔人と言う存在を見た事がない」


 「そうじゃな。妾も何となくそんな気がするだけじゃ。もしかしたらお主に力を与えた存在の影響があるかもしれない」


 マナは種族ごとに少しだけその性質が違う。

 人間とエルフも違う。だから異種族同士では子供が出来ない。

 そもそも魔人は魔族の一種なので人間と愛を育む事はないと思うのだが⋯⋯難しいな。

 そのような事もあって異種族婚は法律で認められていない。

 そもそも人間は亜人を卑下し、魔族を敵視する風潮がある。


 「だからシャルが結婚する事ないし安心なんだけどなぁ」


 その呟きは誰にも聞かれなかった。

 私達の国は人間国家で人間が多い。

 きっと出会いもない⋯⋯筈だ。うん。


 「この子かな」


 探していたらとある死体を見つけた。

 命がないからマナの気配が全く感じない。


 「うむ。確かに妾用に用意された形跡があるな。魔石が五つ埋め込められているぞ」


 「クソ野郎だな」


 まだ十一と言った程の年齢だろうな。そのくらいの女の子が殺されている。

 しかも身体中に切り傷や縫い目が沢山ある。

 まだ未来が明るいと言うのに。


 「使うが文句はないよな?」


 「ああ。本当なら安らかに眠って貰いたいけどな。ありがたく感謝して使え」


 「本当はもっと綺麗な体が良いんじゃだが、仕方あるまい」


 なんだコイツ。


 悪魔は女の子の体の中に入る。

 マナが増幅して体が大人のように大きくなっていく。

 それはどことなく悪魔に近い見た目と成っている。


 「うむ。確かに妾用に作られているな。よく馴染む」


 「よし契約だ」


 「あいあいさー⋯⋯え」


 悪魔の契約は魂の契約だ。

 それを悪魔が反故にする事はないだろう。これをしないと安心できない。


 「契約内容は、お前にはある程度の自由を与える。変わりにシャルや孤児院の子供達を守る事、人間を襲う事は禁止する。場合によるけどね」


 「⋯⋯まぁよかろう。生かされている身だしの」


 契約は成立した。


 「悪魔、名前ある?」


 「ない」


 なら適当な名前を与えておくか。


 「よしルア。それがお前の名前。子供のような見た目になれ」


 「はぁ! このような美貌をわざわざ捨てろと言うのか!」


 私はマナを解放する。

 脅しだろうがなんだろうが、従順じゃないなら何でも使う。

 契約したとは言え真にコイツを信じる事は出来ない。

 それにそうしていた方が、気になる事をもっと聞ける。

 特に半魔人と言う本来ありえないハーフ種族については聞きたいところではある。黒髪とか黒目の特徴は前の私に合っているし、ルルーシュも同じだ。


 「うぅ。主は怖いぞ! 分かったぞ」


 ルアは子供の姿になった。

 私が手を離すと一瞬で動いてシャルの後ろに回った。

 そしてしがみついて私を睨む。シャルが優しく撫でる。


 「なら今日から家族だね。アメリア、あんまりいじめちゃダメよ」


 「そ、そうじゃ!」


 「⋯⋯」


 「なんか余計に怖くなった!」


 シャルに近づき過ぎだろこの悪魔。

 と、この場所には研究資料とかもあるようだ。

 人工魔人にされそうに成っている子供達も解放してやらないといけないな。


 「シャル。ルアを連れて先に帰って貰えるか? 本当は一緒に行きたいけど、この子達を解放したい」


 「うん分かったよ。ルア、行こうか」


 「う、うん! あの化け物と離れられなら付いて行くぞエルフ!」


 「シャルだよ。よろしくね」


 「ああ!」


 なんでシャルにあんなすぐに懐くんだよ。

 二人を見送ってから私は資料に目を落とす。


 「タルタロス教研究資料⋯⋯タルタルソースじゃなくてタルタロス」


 私、ルアに対してあんなに堂々と間違った情報を教えていたのか。

 ⋯⋯忘れよう。


 「えーなになに。邪神と半魔人とは深い繋がりがあると分かったので、それを探す事にした。だが中々に数が居ないので作り出す事にした、か」


 ふむふむ。なるほどなるほど。


 それから一時間後、私と近いマナを持った存在がこの空間に入って来る。


 「アメリア様」


 「昨日ぶりだなルルーシュ。様は要らないよ」


 少しだけ良い生活をしているのか、服装とかをちゃんとしていた。

 ルルーシュが今何をしているかは分かってないが、先程のマナ脅しついでに呼んでみた。

 私がマナを与えたので、その繋がりである程度の距離なら信号的なモノを出せる。


 「実はこの子達の面倒をみて欲しくてな」


 「それは構いませんが、この状態では」


 良い目をしてるな。一瞬で状況を把握するとは。

 私はガラスケースに手を与える。

 そして体の中にあるマナを液体の中に流し込み、心臓に埋め込まれている魔石に流し込む。

 魔石から全身にマナを流すように操作して体を活性化させる。

 それに合わせて魔石が体の中に入って行き、肉体が再生して行く。


 「人工魔人の完成系、と言ったところですか」


 資料を見ながらルルーシュがそう言って来る。


 「そうだな。まだ結界は継続されてるから、ここを拠点に使うと良いよ」


 「感謝致します!」


 ルルーシュの世話をすると決めたのは私だし、彼女の覚悟は受け取っている。

 なので成る可くの協力はするつもりだ。

 この子達はシャルも知っているし、言い訳を考えておかないとな。


 人工魔人として完済させるしかこの子達を生かす方法は無かった。

 だって心臓を抜き取られていたからね仕方がない。

 まだ皆眠っているけど、いずれ起きるだろう。


 「ふむ。私のマナをこんなに人に渡しても大丈夫なのだろうか? ま、回復するから問題ないか」


 「今日から加速してタルタロス教団に付いて調べてみます」


 「そうか。頑張れ」


 「はい!」


 人工魔人を孤児院に連れて行かないのは理由がある。

 暴走の危険性があるからだ。

 もしも暴走して子供達を襲ったら、私は自分を許せなくなる。

 ルルーシュなら対処出来るだろうけど、子供達は無理だ。


 「それと、ハーフ種族についても調べておいて欲しいかな」


 やっぱり気になるよね、自分の存在は。


 「かしこまりました」


 もしも魔人としての特徴があるのなら、モンスターのマナを体内に吸収出来たのも納得が出来る。

 あれこれ言って私は孤児院に帰った。

 そこではルアが子供達に質問攻めにあっていた。

 ま、健康そうな子供が拾われたとあっちゃ気になるだろうな。


 「アメリア。どうしたの?」


 「うん。皆起こして然るべき場所に送ったよ」


 「そっか。晩御飯作るから皆の面倒お願いね」


 「美味い飯期待してるよ」


 私はルアを囲んでいる子供達に近づく。


 「ほーれ皆。ルアは来たばっかりだからがっつかないの」


 「う、うぅ。お主よりもガキンチョ共の方が怖いぃぃぃい!」


 「ガキンチョとか次言ったら⋯⋯どうなるか分かってるな?」


 「すみません(シャル以外皆怖い。現世怖い)」

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