第12話 ナキミル
俺はナキミル。
ヌードザモンキーと言うパーティのリーダーを務めている。
俺は今、焦っていた。
活動が休みの日、たまたま街を歩いているたらありえない人物を見かけたからだ。
なんで、ありえない。そのような考えが広がる。
「なんで、なんでアメリアが生きているんだ!」
アメリア、孤児院出身の魔術士であり元メンバー。
天災とまで呼ばれたダンジョンのボス部屋で追い出した存在。
本来なら死んでいる。それが三年経った今になって何故姿を現しているんだ。
分からない。
昔と違って髪の毛が白く成っていたが、愛した人の顔なんて忘れない。
今でも思い出すのだ。奴の姿を。
本来なら死んでいる。死んでいないとダメなんだ。
「何故だ」
俺達のパーティはとある公爵家に融資を受けている。
お陰で資金や情報に困る事無く、時々融通するくらいで普通の冒険者として活動していた。
ただ、クランには入って居らず、簡単に仲間も増やせない状況になったが。
そんなある日、その公爵は娘には魔術の才能があると言い出したのだ。
そして若いうちに二級魔術士資格を取り名声を得たいと言われた。
その為にアメリアが邪魔だと俺は内密に相談された。
何故邪魔だったのか、それはただの欲に過ぎなかった。
同年代で戦いながら成長する天才⋯⋯そのような存在が邪魔だったらしい。
自分の娘はこの国最高峰の天才魔術士だと広めたかったようだ。
俺は嫌だった。愛した人を失うのが。
だから最大限利用出来る状態に出来るなら生かして良いと許可を得るまで交渉した。
だから俺は結婚を持ちかけた。冒険者を止めて表舞台からシャットアウトしようと考えたのだ。
しかし、アイツは俺の誘いを断った。
同時に俺を留めていた紐が切れて⋯⋯アイツを確実に殺せる方法を選んだ。
沢山考えて出した結果であり、アメリア以外の仲間達も賛同した。
仲間は協力的だった。
皆、アメリアの事は尊敬していた。
何故なら、俺達のパーティはアイツのお陰でここまで成り上がって来れたからだ。
アイツの才能はただの才能では無い。
得意な属性をちゃんと活かした戦いをする。周りを良く見て最適解で戦う。
アメリアは俺達の事を真の仲間だと思っていたのだろうが、それは少しだけ違った。
俺達はアメリアに憧れを持ちながら劣等感に苛まれていた。
一人だけ飛び抜けた力を持ち、それでいて偉そうにしないで足並みを揃えてくれる。
金が無いからと打ち上げや飲み会には参加しない。
それが余計に俺達に壁を作っていた。それをアイツは気づいていなかった。
もしも相手の魔術耐性が高くて相性が不利だと判断したら、地面などに放って地形を変え相手の体勢を崩すなどのサポートもしていた。
臨機応変に対応できる優秀な存在だった。
でも、貴族にはそんなのは関係ない。
要らない、邪魔だと判断したらあっさり切り捨てる。
俺は愛する人を失うよりも貧乏になる事を恐れた。
俺の家はただの平民だ。
両親はたまたま貴族の不倫現場を目撃してしまい、言いふらす筈もないのに口封じで殺された。
弱い奴は強い奴に逆らえない。
口封じに使われたのは暗殺者だ。つまりは金で雇われた存在。
俺はそのような存在に成りたく無かった。
だから金が欲しかった。名声が欲しかった。
それ故に貴族の申し出を断る選択肢は鼻から存在しなかった。
今は新たな魔術士としてその貴族の娘を仲間にして活動をしている。
確かに魔術の才能はあると思う。二級魔術士と言うレベルにも達しているし。
だが、未だにアメリアの穴を埋める程の強さはない。
冒険者として未熟なのは確かだが、アメリアが優秀過ぎた。
術式の構築スピードは勿論、周りや敵を見ての臨機応変の対応。
それはただの才能の持ち主では出来なかった。
俺達のパーティは徐々に衰退して行き、直接依頼を受ける事も減った。周りからは、「落ちぶれた」「名ばかりSランク」などと言われるようになった。
今はパーティとしての知名度を回復させる必要がある。
だけど、それよりも優先すべき事がある。
もしもアメリアが生きていると貴族に気づかれたら?
アイツが再び表舞台に立って目立ったら⋯⋯俺はどうなる?
貴族からの信頼は失われ、不要と成り、貴族の顔に泥を塗った俺は処分されるだろう。
そんなのはあっては成らない!
例のダンジョンが活動を停止したと情報は聞いた事がない。
つまり、ボスが生存しているにも関わらずアメリアは生きて帰っていると言う事だ。
その事も不思議だが、偶然生き延びたと考えるべきだろう。
アイツを再び何らかの形で処分しないといけない。俺の為に。
「いや待てよ」
アイツの顔などの輪郭は変わっていなかった。
だが、髪色や纏う雰囲気は大きく変わっていた。
きちんと彼女と向き合い寄り添おうとしていた俺以外に、彼女を見破れる人がいるのか?
そうだよ。
今は死んだって事になってるし、問題ないんじゃないか?
いや。
安心するのはダメか。
パーティとして名声を上げながらアイツをどうにかしよう。
今はどこに住んでいるんだ?
死んだ奴が行けるところなんてそうそうないと思うが⋯⋯そう言えば。
アイツの隣には淡黄色のエルフが居た。
この国で亜人はそうそう居ない。だから知っている。
身寄りのない子供の面倒を見て、奴隷落ちさせない為に活動している孤児院の先生だ。
国から児童養護施設の補助金として金が出ている筈なのにそのエルフ含めて痩せている有名な場所。
ま、身寄りの無い子供を引き取りたいと思う奴は居る訳無いけどな。
平民は自分の子供に金を使いたいし、他人の子供には使いたくない。それと余裕がなかったり。
貴族は絶対に拾わない。
そんなのは汚らわしい存在と言い捨てるだけだ。
「元々アメリアもその場所出身なんだよな。ならそこに匿われている可能性は高いか」
今はどうしようもないが、本格的な対処は必要だ。
あれから一ヶ月後。
新たにBランク推奨ダンジョンが発見されたらしい。
冒険者達が募って探索を始めているらしく、俺達もそこに参加する事と成った。
ダンジョンは最初の方が良いアイテムが手に入るので、とにかく早く攻めてアイテムを獲得しないといけない。
ダンジョンで得られるアイテムは特別だからだ。
最近、『黒薔薇白狐』と言う別名で呼ばれている冒険者が居るらしい。
俺達はソイツに埋もれて有象無象のパーテイに成り下がっている。
このままでは貴族の印象も悪く成ってしまう。
このダンジョンで一躍の活躍を示さないといけない。
「ナキミルさん。頑張りましょう!」
「あ、ああ。そうだね」
俺に話掛けて来たのは俺達のパーティの足でまといである魔術士。
そう、貴族の娘である。
貴族の娘なので絶対的な安全の保証はしないといけないのでかなり守りを意識してしまう。
しかも扱える魔術の種類が多いってだけで実戦になると実力不足に感じる。
術式構築を始めると周りが完全に見えなくなり、背後を取られやすい。
これなら三級魔術士で冒険者を長らくやって来た人の方が優秀だ。
それでも下手な事は言えない。
彼女が貴族の娘だから。
それを理解しているマゾとコモノも成る可く嫌な顔を隠している。
「にしても凄い人ですね」
まだ冒険者として浅いので、新しく発見されたようなダンジョンに行くのは始めてだ。
故に最初の冒険者ラッシュに驚く。
俺達は数回経験しているので何かを思う事はない。
ただ早い者勝ちなので、さっさと中に入りたいと言う思いはある。
中は不明なので警戒する心はいつも以上に上げないといけないが。
「ここで私の実力を認めさせるんだ!」
息巻く貴族娘。
この子は冒険者と言う職業をまだ本当の意味で理解していない。
冒険者とは本来冒険する存在を意味指す。
今でこそ依頼を受けたりしているが、本来はこのような未知を求めてる集団だ。
それには危険も付き物。
力を示す為に来る場所では無い。
貴族だからと甘やかされ、恵まれた環境で生きた人には『最悪』を見た時に立ち直れなかったりする。
この心を直したいが、⋯⋯やはり俺達には無理だ。
ここにいる冒険者達の過半数はその未知を求めている人達だろう。
金だけが目的なら危険を犯さず、情報が出てから探索範囲を絞ってアイテムを獲得するために動く。
中にはボスをすぐに倒そうとするバカも居るが。
ボスは数ヵ月後に倒すのが普通だ。
何故なら、最初の方は本当に質の良いアイテムが手に入るから。
ある程度手に入るアイテムが落ちぶれてからボスは倒す。
ダンジョンのアイテムは取ると後々質が落ちるのだ。
俺達が冒険者をやっている間にそのようなバカの話は聞いた事がないので、大丈夫だろう。
そう、安心していた。
だけどそうではなかった。
「な、なんだ!」
いきなり大地が揺れだした。
かなり大きめの地震だが体が揺れるような地震では無い。
戦闘に身を置いていると、この程度の衝撃には余裕で対処できる。
この魔術士は無理そうだが。
支えてやるのもリーダーの勤めか。
「あ、ありがとう⋯⋯ございます」
「いえ。でも、不自然な揺れですよ。これ」
「ナキミル、ダンジョンの方見て。マナが溢れてる」
マゾの言葉に従ってダンジョンの方を見ると、確かに紅桔梗色のマナが出ていた。
「なんだ、ありゃ」
轟音が轟いたのと同時にコモノが呟いた。
天を貫かんとする溢れるマナと同じ色の電気で体が作られた龍がダンジョンから登っていた。
それがなんなのかは分からない。だが、とてつもない力だとは分かる。
「え。嘘でしょ」
マゾが膝から崩れ落ちながらそう嘆いた。
何かと思い俺もマゾの見る方を見る。
それは当然ダンジョンの方なのだが、光が溢れてから縮んでいくように動き出す。
「まさか、活動が停止したのか」
それを意味する事即ち、バカが現れてダンジョンを攻略してしまったと言う事。
時間的にあの龍が原因だろう。今は消えているが。
アレは一体。誰が出したと言うのか。
確実にあれがボスを屠っている。
「クソ!」
折角のチャンスを奪いやがって。
一体どんなバカなんだよ! クソが! クソが!
活動停止する前に現れたアイテムを回収しようと躍起に成る奴らは金の為に来た奴らだ。
撤収しているのは未知を求めた真の冒険者達だろう。
「ナキミル、どうする?」
「報告しに行く。今日は、もう終わりだ」
貴族の娘が少しだけ文句を言ってきたが、宥めてどうにか、帰る事に成功した。
ボスも居ないのに何かの名声が得られるとは到底思えない。
アイテムも今から行っても間に合わない。得にダンジョンで高速攻略に慣れてない人が居るとな。
はぁ。
これからどうしようか。憂鬱だ。
⋯⋯でも、俺の選択は間違ってない筈だ。
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