第13話 孤児院魔術士、力を示さんとす

 「今日の朝はオムレツだよ〜」


 「おお! めっちゃふっくら!」


 ここに帰って来れてから一ヶ月の月日が経っていた。時が流れるのは早いね。

 ファフニールとの約束を忘れた訳では無い。と言うかその約束は私の目標にも成っている。

 だけど生活出来ないので、今は集中的に金を稼いでいた。

 お陰様で金を積めば何でもするソロ魔術士冒険者、黒薔薇白狐って異名で呼ばれるように成ってしまった。


 ダンジョンもそう何回も行けたり存在する訳でも無いので、ワーウルフ以降はダンジョンには一度も行っていない。

 そこら辺にいるモンスターを倒したり依頼をこなして金を稼いでいた。

 当然それだけで終わる訳にはいかない。

 まだ全てのマナを使いこなせている訳じゃないけど、今持っているマナの三分の一は使いこなせるように成った。


 龍眼も定期的に使って慣れるのを心掛け、今では三分間だけなら使える。

 ファフニールの知識も徐々に解読して自分の物にしている。

 流石に数万年と生きている知識なだけあって、どこまで出来たかは定かでは無いけどね。

 と言うか、ここで昼寝したとか、この日に何を食べたとか、そんなくだらない知識の方が分かりやすく、解読しやすいので、重要な知識が出てこないのが面倒である。

 必要な部分だけ与えてくれたら良かったのに。


 そう心の中で嘆きながら、家具一式を新調した事により出来たふわふわのオムレツを口に運ぶ。

 んー美味い!

 前のフライパンだと油敷いてもへばりついて上手く出来ていなかったからね。

 そこら辺は魔術でもどうしようもない。長年使って来た影響だ。


 「本当はミスリル製品の器具が良いんだけどなぁ」


 「そんな贅沢はしないわよ。アメリアもずっと金稼ぎをする訳にはいかないでしょ」


 「アメリア姉ちゃんなんかあるの?」


 「世界の探求だよ。一発ドカーンと稼ぎたいけど、そんな都合良くはいかないよね」


 私でも勝てるレベルのドラゴンレベルで希少なモンスターが来てくれたら良いのに。

 朝食の片付けをして準備を開始する。


 「それじゃ、俺達は行ってくるよ」


 「おう。皆テスト頑張れ!」


 今の時期は期末テストらしい。

 ケンケン達学生はいつもよりも早くここを出て学校へと向かう。

 他の子供達は将来に向けての勉強と特訓をしながら遊ぶ。

 シャルが見守りながら、子供達に混じってルアは遊ぶ。

 自由を満喫しているようで、悪魔ながら笑顔を絶やしていなかった。もう立派な子供だな。


 時々悪魔って事を忘れて子供として接してしまう時がある程には順応している。

 ⋯⋯これなら、少しばかりは彼女を信頼しても良いかもしれない。

 と、私も行かないとな。


 「じゃ、私も行って来るよ」


 「うん。気をつけてね」


 「もちろんだよ」


 シャルや子供達に別れを告げて私は国の外に出る。

 ギルドに寄る予定はない。

 私が目指すのはエルフの里である。

 ここ現世に降り立っている神の中に精霊神と言うのが居る。

 その精霊神がエルフの里に居ると言う噂があるのだ。

 この国から一番近く、神がいる噂があるのがエルフの里である。


 神に喧嘩を売ったら死んじゃうので、そんな事はしない。

 目的としては話し合いだ。

 グタグタマナの扱いを上達させても神は疎か、ファフニールすら越えられない。

 神としての力の根源、教えてくれるかは分からないけどやらないよりかは良いと言う心持ちで向かう予定だ。


 神の事は神に聞くのが一番だ。

 国の外に出たらマナを使って脚力を上げて一気に加速する。

 そうしようとしたが、ルルーシュが私の影から出て来る。

 影移動、これは忍者と呼ばれる特殊な存在達が扱う技法。

 その技法は世間では出回っておらず、どこかの里や村で発展していると言われている。

 ファフニールなら知っていたかもしれないが、今私の分かる知識の中にはそれらしいモノがない。ただ頭が疼くのでファフニールの知識の中にはある様子。


 ルルーシュは一体どこでそんな技法を学び覚えたのか、気になるが聞くと長くなりそうなので諦める。


 「どうしたの?」


 「はい。実は折り入ってお願いがあります」


 「ほう。取り敢えず国から少し離れよっか」


 「感謝致します」


 ルルーシュから直接お願い事をされるのは今回が初めてだな。

 何をやっているのかは知らない。あまり情報をくれないからね。

 でも居場所を探ろうとしたらすぐに分かる。マナの繋がりのお陰でね。


 場所を変えて詳しく話を聞くことに。


 「組織としての拡大を続けているのですが、命を助けて貰った人工魔人のメンバーまでアメリア様の力を疑っており、真のボスだと言っても信じてくれておりません」


 「別にルルーシュがボスでも問題ないと思うぞ? 実際に統括しているのもルルーシュな訳だし。後様付けは止めよう。恥ずかしい」


 「いえ。僕の力の過半数はアメリア様から頂いた力です。だと言うのに僕がアメリア様の上だと思われるのは心外なのです。無駄な時間を歩ませるのは重々承知ですが、我が仲間達にお力を示していただきたいのです」


 ん〜里も三日あれば行けるし急ぎじゃない。

 ルルーシュが困っているなら助けてやるのも問題は無い。

 元々そのつもりだしね。

 ルルーシュの覚悟は知っている。自分の復讐心だけ行動しているのではなく、他の被害者を作らないと言う善意の気持ちがあっての行動だ。

 その思いには尊敬の念を抱いている程に。

 家名を捨ててまで成し遂げたい目標。私はそれを応援したい。だから──。


 「良いけど別に。何をすれば?」


 「はい。世間よりも先に見つけてアイテムを乱獲していたダンジョンがあるのですが、最近ギルドに気づかれまして。既に上質な物が手に入る段階は終えているので必要がなく、そこでお力を示していただけないかと思っております」


 「なるほどね〜」


 冒険者ギルドよりも先に見つけ出して、それを報告しないで独占していたのか。

 もしも初めて入った冒険者がアイテムを見つけても、推奨ランクで手に入るアイテムよりも質が悪いとなると⋯⋯同じ冒険者として同情せざる負えない。


 「とりま了解した」


 私も実は試したい事があったんだよね〜。

 モンスターを洗脳術マインドコントロールと言う技術を使って主としての記憶を植え付けるとどうなる、とか。

 ファフニールの知識から得たその技術を試してみたかったので便乗させて頂こう。


 私は言われたダンジョンに向かった。

 少しだけ冒険者が居たので、感心している。

 早いもんだなぁ。


 最初の攻略は何があるか分からない。

 万全な準備とマッピングの準備をしてから挑むのが鉄則だ。

 マッピング情報の提示でもお金は貰える。


 「⋯⋯その情報を無意味にしてしまうのは少しだけ心が痛いなぁ。すまない」


 皆は慎重に攻略して隅々まで見て、アイテムを得る事だろう。

 だが、私は地図もある状態でボスの所まで迷いなく行く。

 攻略ペースが違うので、奥の方に行けば誰かも会う事もないだろうし、ボスも攻略されないだろう。


 「⋯⋯パーティか」


 目の前の冒険者達は全員がパーティを組んでいる。

 そりゃあそうだ。一人で挑むなんて自殺行為である。

 私も⋯⋯いや。ダメダメ。


 時々思い出してしまう。

 あの楽しかった日々を。


 「あーもう! 三年も経ってるんだよ! 今更思い出して引きずるなよ!」


 地下に居た時は生きるのに、帰るために必死だったから何も考えなくて良かった。

 でも、こうやって余裕が出来ると昨日の事のように思い出してしまう。

 唐突に蹴られて、ボス部屋に放置されたあの日の事を。

 笑いあった日々。切磋琢磨した日々。強敵を倒して歓喜を上げた日々。


 「はぁ。なんかしんみりして来た」


 もう昔の私、アメリアは孤児院の外以外では死んでいる。後市場。

 市場では皆私の事を覚えてくれて、信用してくれていた。めっちゃ嬉しかったし、亜人のエルフであるシャルにも良くしてくれている良い人達である。

 昔の事を今更掘り返す事はしない。

 昔の仲間達に何かをするつもりもない。⋯⋯ただ、関わって欲しくはない。

 もしも何かをして来た時に、私が自分の感情をコントロール出来るか分からないからだ。


 今の私、冒険者の私はソロ魔術士でイメリア・アメリキだ。

 ま、この名前一瞬で思いついた適当な名前だけどね。

 そろそろダンジョンに入れそうだな。

 力を示す⋯⋯かなりのマナを扱えるように成ったし、大技を使うか。

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