第14話 孤児院魔術士、大技を披露する
マインドコントロールは弱った相手程効果的に発動出来る。
精神力を弱らせる、と言う表現が一番良いかもしれない。
「紫電!」
『キャン!』
ダークウルフと言う黒い狼のモンスターを一番得意な魔術で弱らせる。
ファフニールのお陰で得意魔術に炎が増えたけど、あまり使ってはいない。
なんかそれを使うとファフニールの下位互換って意識を強く思ってしまうから。
元々得意だった電撃の魔術の基本的に使っている。
「このくらいで良いかな」
命を落とさない程度に殺して、今は戦闘続行も厳しい状態まで追い込んだ。
他の冒険者達は全員後ろにいるので実験していても気づかれる事はないだろう。
私はダークウルフの頭に手を置く。
これで自分の意思を相手に流し込めるのだ。
様々な道具を使っての催眠術もあったりするのだが、今回は魔術的洗脳を試すつもりである。
ファフニールも自分で使うとしていたが、加減が出来ず諦めていた。そんな記憶がある。
ファフニールのマナの制御技術はダンジョンマスターとして暇な時間を過ごしていた賜物だ。
「さて、やったりますか」
術式を構築する。
「
魔術的であり魔術ではない。
ただマナを使っての術式構築を行い、洗脳を行うのだ。
なので属性関係で表す事は不可能である。
今回のマインドコントロールは私を主として忠誠を誓っていると言う記憶を植え付ける。
当然、それだけだと綻びが簡単に出てしまう。
なので私と過ごして主として認めた瞬間、そのような記憶も作り出して植え付ける。
それが終わったらマナを与えて肉体の再生と活性化を促す。
成功したらきちんと面倒を見る予定であり、管理は霧の森でワーウルフに任せようと思っている。
その時に敵対されない為に私のマナを少なからず与える予定ではある。
なので肉体再生のついでにマナを与える事にした。
これでワーウルフは与えられた近いマナを感知して仲間だと認識してくれる筈だ。
モンスターはマナを与えると肉体が活性化して再生速度が一時的に上がると言うのを最近知ったのである。
ファフニールの知識ではなく興味本位の実験をしていた時にたまたま見つけ出した。
「さぁ起きろ。言語知識も与えたから分かるよね?」
まじでファフニールの他者にマナや記憶を与える力って便利だわ。
記憶にちなんで技術も与えられるからね。
まぁ、私はまだファフニールレベルに精密には出来ないけど。ただアイツは面倒くさがって自分の知識とか全部丸々くれたけど。お昼寝スポット場所とか。
超えるべき壁はまだまだ高いな。
『ワフ!』
私にしがみついて頬をぺろぺろして来る。
ここまでの効果を発揮するとは⋯⋯これだとまるでペットだな。
その場合はモンスターじゃなくてアニマルじゃないと危険だけど。
「モンスターと絆を深めて戦う、
私は洗脳してこうやってモンスターに好かれている訳だが、使役者はそんな事はしないで絆を持って共存している。
モンスターと言う相容れない存在と向き合う姿勢はファフニールですら畏敬の念を抱く程だ。
「それじゃダークウルフ。全速前進だ!」
『わおー!』
ダークウルフに跨り走る。
それから見つけたモンスターは片っ端から洗脳して行った。
このダンジョンの基本モンスターはダークウルフとホワイトウルフだった。
ダークウルフは闇属性の魔術を得意として、ダークウルフはその逆である。
「これだけモンスターにマナを与えても全然問題ないな」
操れるマナとマナ総量は違うので、使っても使ってもマナが減った気がしない。
本当は全部操れるように成りたいが、そんな楽な道は無い。
気長にのんびりと訓練あるのみだ。
ボス部屋の前まで到着した。
今回の目的はルルーシュが集めた人達に対して力を示す事である。
具体的になんで示さないといけないのかは分からないけど、ルルーシュに頼まれたのでやるつもりだ。
頼って良いって言ったのは自分だし、いずれ私も頼りそうな気がするしね。
神に関する情報も集めてくれているだろうし、持ちつ持たれつの関係だ。
ボス部屋の扉を開けて集めたモンスター達と中に入る。
ボスは大きなウルフである。
「えーとあれは。
頭部が人の血のように真っ赤に染まっいる。
私もモンスター図鑑でしか見た事ないが、実力は定かでは無い。
ここのダンジョンの推奨ランクがBなので、本来なら相当の実力はあるのだろう。
でも、今の私なら大した敵では無い。
「大技の準備をするから皆は時間稼ぎをお願いね」
そう宣言すると、洗脳したウルフ達が一斉に猲狙に向かって突き進む。
汚れたりするのは嫌なので仮面は外しておく。
『グルゴオオオオオオ!』
「なんかめっちゃ怒りの波動を感じる」
ダンジョンボスはダンジョンマスター、それなりに知性は高いのだろう。
感情豊かだ。でも、なんで怒っているんだ?
もしかしてダンジョンに蔓延るモンスターは猲狙が生み出したモンスターだから家族意識と言うか群れ意識があり、それを横から洗脳してかっさらった事にムカついているとか?
「まさかね」
私は大技の準備を始める。
ウルフ達は連携して攻撃を誘って躱す役と攻撃を加える役を分けている。
私を狙おうとしている猲狙だが、上手い具合にウルフ達に邪魔されている。
ウルフ達を威嚇しているが、ウルフ達は引くがない。
あまり攻撃的な事をしない猲狙を見る感じ、洗脳を解こうとしているのかもしれない。
そう考えると、相手から見た私は一体どんな感じのだろうか。
仲間を洗脳して奪っていく悪役的な感じなのだろうか?
少しだけ複雑な気持ちに成りながらも術式が完成した。
「天雷紫龍!」
巨大な術式が私の背後に現れ、紅桔梗色の電気で構成された龍を顕現させる。龍は猲狙を飲み込む。
きちんと制御を行いウルフ達には影響のないようにしている。
猲狙を飲み込んだ龍は空に向かって突き進む。
本来魔術とは、術式から放たれた後は操作が効かないのである。
中には遠隔で操れる魔術を使う人もいるのだが、それでも数は少ないし火力が下がる。
切り離されたマナは操作出来ない、これが常識と成っていた。
だが、今の龍は遠隔で完全に操作しているにも関わらず、かなりの火力を誇っている。
これはファフニールから貰った技術と元々得意だった電気系魔術、そして操れるマナ量が増えた事とシャルとの練習で使えるように成ったのだ。
人工魔人として完成させ、生かす為にマナを与えて操作したのも影響している。
ファフニールに向けて放った魔術よりもその火力は上だ。
マナ分解の性質を持つ鱗が守っているファフニールにはこれでもまだ届かないだろうけどね。
龍は天井を突き破りボス部屋に太陽の光を差し込ませた。
明るい空を動き回り敵を焦がす。
「って、まずいな! 段々と制御が⋯⋯」
このまま制御が外れて適当な場所に落ちでもしたら大変な事になる。
村とかなら大問題って言うか死刑モノだし、大地に当たっても人が居たら問題になる。
Cランク冒険者ならあっさり殺せる威力は秘めているのだ。
「ウルフ達離れろ! 中央に落とす!」
まだギリギリ制御の効く内にダンジョン内に落とす!
「うりゃあぁああああ!」
紅桔梗の電龍がボス部屋に叩き落ちる。
衝突と同時に激しい炎を抱き上げて、レンガの家でも吹き飛ばせてしまいそうな風圧が周囲に撒き散らされる。
「思いのほか強い!」
私の想定していた以上の火力に吹き飛ばされそうになる。
ウルフ達も必死に耐えている。
フラッシュライトのような数秒の眩しい光も収まり、ボスは死体事この世から消えていた。
⋯⋯この魔術はあまり使い所が無さそうだ。
「⋯⋯え!」
そして異常事態は続く。
突き破った天井が再生していくではないか。
ボスは完全に消えている。なのになんで再生しているんだ?
「マナが集まっていく⋯⋯まさか!」
そこで私は一つの考えに至る。
ダンジョンはボスを倒すと、ダンジョンに残っているマナが集結して最後の報酬を創り出す。
ダンジョンはモンスターがマスターとして君臨してようやく概念として成立する。
マスターが無くなった場合、報酬として使われるマナはダンジョンじゃ無くなった場所を元の形に修復されるにも使われる。
そのような仮説が一瞬で成り立った。
そうなると修復後に残されたマナで報酬は創り出されるので、ランクに対しての性能は落ちる。
私はワーウルフのダンジョンで、ワーウルフを蘇らせたから報酬のランクが低くなったのだと思っていた。
でもそれは違って、ショートカットとかするために壁に穴を空けていたのが原因だと言う事になる。
今回は洗脳実験の為に壁などは破壊していなかった。
「うそでしょ」
これから正規報酬を得るにはダンジョンの構造を壊さずにボスを倒さないといけなくなる。
いや、そもそもダンジョンを壊すと言う事は神々の想定外の事態なのかもしれない。
これらはあくまでも私の憶測に過ぎないので、間違いだと思いたい。
「一気に破壊しちゃったし、そんなに報酬は期待出来ないな」
ま、このダンジョンで力を示すって言うのには十二分な成果だろう。
普通の人間でこの魔術を一人で行使出来る人なんてそうそう居ない。居たら泣く。
それにこの魔術は私のオリジナル要素も含まれているので、完全に同じな魔術は無いだろう。
私が弟子を取った場合は別だけどね。
「今考えると、私ってファフニールから知識とか貰っている訳だし、弟子って言っても差し支えないかもしれない」
冒険者達がダンジョンから離れるまでの時間はここで過ごそうと思う。
モンスターを沢山引き連れている姿なんて見られたくないからね。
コイツらと遊んで時間を潰すか。
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