第24話 孤児院魔術士、神と対話した

 「あ、言葉の選択を間違え⋯⋯」


 私に向けられる精霊達のマナがとても濃い。

 ついつい無意識でこちらも臨戦態勢に入ってしまいそうだ。

 だけど、これは十割私が悪いので必死に抑えて、無抵抗アピールとして両手を上げておく。


 「すまない言葉の綾だ。私が聞きたいのは、貴方を超える力についてだ」


 「ふむ。皆、嘘は言ってないからマナを抑えて⋯⋯結論から言うと、神を超える力はないよ」


 「つまり神と対等になれる力を目指せば良いんですね」


 どの世界も格差社会。

 神の中にも優劣は存在するだろう。

 私はその中で上に行けば良い。

 神の上の力が無いのなら、神の中の力で上を行けば良い。


 「あまりオススメはしないけどね」


 「オススメしないって事はこの身でも神の力を得ることは可能だと言う事ですね!」


 精霊神様が可愛らしく目を逸らした。

 まずいな。これ以上精霊達とギクシャクしたくないのに、精霊神様に向ける目ばモモンガに向ける目に成ってしまう。

 それは孤児院の子供達に向ける目と同じ目だ。

 そんな目で精霊神様を見てしまったら本当に敵対関係になってしまう。


 「これは僕の落ち度だね。んまぁ全部は教えてあげられないけど、強いて言うなら今の君じゃ無理かな。マナの総量が少ないとか、知識が乏しいとか、経験が足りない、そんな理由では無い。今の君では無理、それだけは言っておくよ」


 逆に言えばそれ以外は言わないって事ね。

 それは残念。

 でも、身にある力以外での事で今の私には無理⋯⋯なんだろうか。

 龍眼を使ってファフニールと共有したいが、それも敵対行動として見られてしまう可能性があるのでやめておく。

 会いに行こうかな。久しぶりに。


 「それでは私はこれで失礼します」


 「非礼は詫びた。今度は少しだけこちらの質問に答えて欲しい。そしたらもう一つ質問許可を与えるよ。ま、神に関する事はこれ以上無理だけどね」


 「分かりました。なんなりと」


 「その力と名前を教えてくれないかな?」


 あー名前を名乗るのを忘れていた。

 名前を言わずにズカズカと踏み入ってしまった。

 礼儀がなってないな。

 こちらからからする質問は一つにしようかな。


 「まずはお名前を。私の名前はアメリア・アメリカです」


 「⋯⋯アメリカ? 父と母は?」


 「知りません。物心付いた時には孤児院に居ましたので」


 「そうか」


 「次に力なんですが、これは与えられました。流石にその存在は言えません」


 「ふむ。そのマナの性質は少しだけ知っているから問題ないよ」


 なんやねん。

 さて、神のこと以外に質問出来る権利がこちらに一つだけある。

 それだと私の中には一つだけしかなかった。


 「私の知人にシャルと言うエルフが居るのですが⋯⋯」


 「へぇ」


 精霊神の纏う気配が大きく変わった。

 これは明確な殺意だ。

 なんだこれ。精霊達のマナを使った威圧よりも恐怖心を煽って来る。

 息が、出来ない。


 「この付近の信者達は僕の管轄だ。基本的に里の外には出さない。出すにしても許可制にしている。だと言うに知人、つまりは奴隷にされた信者と言う事だよね。⋯⋯答え次第によっては、君をここから無事に帰す訳にはいかないよ。嘘は僕に通話しない。これでも神だからね」


 「だは! はぁはぁ」


 殺意が少しだけ弱まり息が出来るようになった。

 これが神の力、しかもその極わずかの片鱗か。


 「奴隷ではありません。私は獣人の奴隷は見た事ありますが、エルフは居ません。シャルは私と同時期に捨てられて孤児院で共に過ごした家族でございます。⋯⋯彼女のフルネームはシャル・ニホン。シャルに付いて、少しだけでも知っている事を聞きたいのです」


 「嘘は無しか。シャルと言うの事か。すまないがこの里出身の者ではないね」


 「そうですか。情報提供、ありがとうございました。それでは、私は帰ります」


 「うん。あぁ、いつか使者を送らせて貰うよ。少しだけ気になるしね」


 「⋯⋯シャルは、精霊神様が声を掛けても孤児院からは出ませんよ。子供達を置いていくような真似は絶対にしません」


 それだけ言葉を残して私は帰る。

 その言葉に対する返事を精霊神はしなかった。


 私が居なくなった後の精霊神達の空気はとても重かった。

 精霊神が考え込むように目を瞑り、集中しているからだ。

 それによって漏れ出るマナではないエネルギーが皆に緊張を走らせていた。


 「⋯⋯はぁ。遂に始まったか。アメリカにニホン、既に二つが揃った。今度はどうなるのかな。終わると良いけど」


 精霊神はそれだけ呟いて精霊達に目を向ける。


 「もしかしたら、近い内に僕の正反対の神が誕生するかもしれないよ」


 「?」


 精霊神の言葉は誰にも理解は出来ていなかった。


 「精霊の女神、そして時間の精霊達が目覚めるかもしれない」


 そして私は精霊神から離れられて少しだけ気分が楽になり、ハザールさんの元へ早足で向かっていた。

 途中まで監視のエルフが居たけど。


 さて、到着して盛り上がっている場所が存在した。

 そこでは腕相撲が豪快に行われており、マナの使用も許可されていた。

 その中で勝ち進み、今は決勝を行っているハザールさん。


 「まさかハザールさんが勝ち残っているとは」


 マナの存在しない彼女がマナを使用している男相手にどうやって勝っているんだ?

 なのでゆっくりと観察する事にした。


 「お嬢ちゃん。どんな小細工でマナを使わずに勝っていたかは分からねぇが、俺には勝てねぇぜ」


 「自分と戦う人は皆そう言うよ」


 「レリーファイ!」


 審判の開始の合図と共に男の体が輝く。

 その光は腕に集中しており、完全に腕相撲用にマナを操作していた。

 これだと押し負けるのはハザールさんの方だ。

 男なので素の身体能力や身体構造的に女性のハザールさんが不利。

 しかもハザールさんはマナが使えないので尚更だ。


 「勝負あったな」


 「しょ、勝者、ハザール! よって、ゲリラ腕相撲大会の優勝はハザールだ!」


 集まっていた村人や冒険者達が騒ぎ立つ。

 ⋯⋯わ、私はハザールさんの仲間だ。

 もちろん、ハザールさんが勝つ事を根っから信じていた。

 うん。私の目に狂いは無かった。


 「くっそ! 負けた!」

 「やりぃ! お嬢ちゃんを信じて良かったぜ!」

 「これで二日は贅沢出来る!」


 などなど遠くから会話が聞こえる。

 まさかこれ、賭け事として扱われていたのか。

 私の存在に気づいたハザールさんはこちらに歩いてくる。


 「帰って来てたか。いやーすまない。酔っ払った冒険者と腕相撲したらこうなってしまって」


 「そ、そうなんですね〜」


 「ん? どうした?」


 「あ、いえ」


 彼女がどうやって勝ったのか、少しだけ気になる。


 「ああ、もしかして何倍も体格の良い男に勝った事に驚いたのかな? 理屈は簡単だよ。相手の力を利用して、ベクトルを真反対に向けて、そのまま押し倒す。それだけ」


 おー確かに三小節で説明されている分では簡単だぁ。

 って、なる訳じゃん。

 なんだそれおかしいだろ。

 これがマナの無い世界で強くなろうとした人間の結果か。


 「凄いな。あ、そろそろ晩御飯の時間ですよね。ウチでグリフォンの肉を調理していると思うので、ご一緒にどうですか? グリフォンの金も分けないとですし」


 「うむ。問題ないならおじゃまさせて貰おうかな」


 人目のない場所に移動して、転移でハザールさんと帰る事にした。

 もうここには用がないのでマーカーを設置する必要も無い。


 転移で帰り、ハザールさんを連れて孤児院の扉を開く。


 「あ、刀は危険なので布で包みましょう。持って来ますね」


 水を出して二人で手を洗い、私は細長い布を持って来た。

 これで刀を包んで子供達がいじれない用にしておく。


 「おぉ! お姉さん刀使いなの! かっけえええ!」


 「え、えぇ」


 男の子を中心にハザールさんの周りに子供達が集まる。

 「全く子供ね」と言う雰囲気の学生組。

 だけどケンケンではない男の子、ヴィティが羨ましそうに見ていた。


 「皆、ハザールお姉さんだよ。一緒にグリフォンを倒してくれた人だから丁重にね。あまり迷惑を掛けたらダメだよ」


 「はーい!」


 子供達の良い返事を受け取り、グリフォンの肉で作られたステーキを皆で囲む。


 「豪快に焼いてみました。ハザールさんの分も焼いてしまったけど、良かったかな?」


 「えっと、お気になさらず。肉を貰っても売るだけでしたので」


 高級肉とされるグリフォンの肉。


 分厚い肉をナイフで一口サイズに切り、口に運んだ。

 噛んだ瞬間に口いっぱいに広がる肉汁。

 塩コショウと言うシンプルな味付けだが、だからこそ肉の旨みが際立っていた。

 焼き加減も完璧だ。


 「「美味い」」


 ハザールさんと同時に声を出した。


 「高級のお肉だから新鮮なうちに全部食べ切るよ、グリフォンの肉は腐りやすいって聞くしね。図書館で調べて色々と作ってるよ。ステーキはメインだけど、ユッケも作れそうだったら作ったよ」


 どれも美味かった。この世の肉とは思えぬほどに。

 流石は高級な肉。昔の稼ぎでは買う事も出来なかった。

 だと言うのに、採れたて新鮮の肉を食べられる日が来ようとは。

 子供達もホクホクの笑顔なので尚嬉しい。


 シャルもハザールさんも満足そうだ。

 グリフォン、畑を荒らした事は許せないけど、その怒りは農家さんに貰いなさい。

 私達は満足じゃ。


 「村に与えなかったら余ってたな」


 「半分以上あげて正解だったね」


 ハザールさんと呟いた。

 全部ここで食べようとしたら、三日はかかった。

 そうなると、冷凍して鮮度は落ちていただろう。

 高級な肉、新鮮なうちに、食べるべし。


 「ご馳走様でした」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る